【四間飛車 vs 急戦】鷺宮定跡の基本手順と将棋ソフト「技巧」による解析結果(8)

鷺宮定跡(対四間飛車急戦)

四間飛車の定跡を将棋ソフト「技巧」を使って研究しています。

対四間飛車の急戦定跡である鷺宮定跡の続きで、前回と非常によく似た形を調べています。

具体的には、「1筋の突き合いがあるかないか」だけの違いです。

しかし、将棋ではちょっとした形の違いで、優劣に大きな影響を与えることがあります。今回の研究では、1筋の端歩の交換の有無によって、結論が全く異なる変化が発見されました。

<前回までの記事>
鷺宮定跡の基本手順1基本手順2実戦的な変化手順基本手順3基本手順4基本手順5基本手順6基本手順7(前回)

四間飛車:鷺宮定跡(△6四歩・△1二香型、1筋の突き合いなし)の基本手順

初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲6八玉△9四歩▲9六歩△7二銀▲7八玉△3二銀▲5八金右△6二玉▲5六歩△7一玉▲6八銀△5二金左▲2五歩△3三角▲3六歩△8二玉▲5七銀左△6四歩(図1)が対四間飛車(△6四歩型)の急戦の基本図です。

△6四歩型の基本図

図1から▲6八金上△1二香▲3八飛△4三銀▲3五歩(図2)が、△6四歩・△1二香型(1筋の突き合いがない場合)の四間飛車に対する鷺宮定跡の仕掛けです。

1筋の突き合いがある場合については、以下の記事で研究しています。

【四間飛車 vs 急戦】鷺宮定跡の基本手順と将棋ソフト「技巧」による解析結果(7)~定跡の結論を覆す可能性~

鷺宮定跡の仕掛け

図2から△3五同歩▲4六銀△4五歩▲3三角成△同桂▲3五銀△2五桂▲3四歩△3二飛▲3六飛△4九角▲1八角(図3)が定跡手順です。

1筋の突き合いがない場合は、図3の▲1八角の自陣角を打つことができます。

狙いの自陣角

図3から△5八角成▲同金△4二金▲5五角(図4)が鷺宮定跡の結果図です。定跡書では駒得の居飛車がやや指せるという形勢判断です。

鷺宮定跡の結果図

上記の鷺宮定跡の基本手順は「四間飛車の急所2(藤井猛著)」を参考にしています。定跡手順の解説や変化手順が非常に詳しく書かれています。


四間飛車の急所2 急戦大全(上)(藤井猛著)

将棋ソフト「技巧」による鷺宮定跡の解析

四間飛車(鷺宮定跡9)のソフト解析結果

図2の仕掛け(6手目▲3五歩)から、評価値はほぼ互角の範囲内で推移しています。ただし、将棋ソフト「技巧」の棋譜解析によると、21手目△4二金は疑問手と判断されています。

鷺宮定跡と将棋ソフト「技巧」の読み筋が、図2の仕掛け以降で異なるのは、

①14手目▲3四歩(技巧の推奨手は▲2八飛。以下括弧内が技巧の読み筋)
②16手目▲3六飛(▲2八飛)
③21手目△4二金(△2八金)

の3手となります。

前回の記事で研究した1筋の突き合いのある形では、①14手目▲2八飛、②16手目▲2八飛の両方とも居飛車の変化として有力でした。今回の1筋の突き合いがない形でも、技巧の推奨手となっています。以下は、前回の記事なので参考にしてください。

【四間飛車 vs 急戦】鷺宮定跡の基本手順と将棋ソフト「技巧」による解析結果(7)~定跡の結論を覆す可能性~

①14手目▲2八飛の変化(定跡では▲3四歩)

鷺宮定跡の変化図1

①14手目▲2八飛(変化図1)以下、△3二飛▲3六歩△3四歩▲2六銀△2四歩▲7七角(変化図2)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順の一例です。1筋の突き合いがある形と同じ手順で、変化図2の評価値は101でほぼ互角です。

鷺宮定跡の変化図2

②16手目▲2八飛の変化(定跡では▲3六飛)

鷺宮定跡の変化図3

②16手目▲2八飛(変化図3)以下、△3四銀▲同銀△同飛▲2五飛△2四歩▲2八飛△3九銀▲1六角△4八銀成▲同金△5九銀(変化図4)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。変化図4の評価値は-270で、形勢判断は後手やや優勢です。

鷺宮定跡の変化図4

この手順では、1筋の突き合いの有無が形勢に影響します。

1筋の突き合いがある場合は▲2八飛以下、△3四銀▲4一角△3一飛▲3四銀△4一飛▲2五飛(参考図1)でほぼ互角(評価値-90)となります。(参考記事

鷺宮定跡の参考図1

しかし、1筋の突き合いがない今回の場合は、▲2八飛△3四銀の時に▲4一角が打てなくなります。なぜなら、以下△3一飛▲3四銀△4一飛▲2五飛△4六歩▲2三飛成△1四角(変化図5)と進むと居飛車不利(評価値-997)になるからです。

変化図5のような△1四角の筋があるのが、端歩を突き合っていないことによる影響です。もっとも、技巧の推奨手順では▲1六角という手が現れますし、端歩の形がどちらの得になるかはケースバイケースです。

鷺宮定跡の変化図5

③21手目△2八金の変化(定跡では△4二金)

鷺宮定跡の変化図6

③21手目△2八金(変化図6)以下、▲3三歩成△同飛▲5五角△1八金▲3三角成△4九角▲5九金△2七角成▲2六飛△同馬▲同銀(変化図7)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。変化図7の評価値は-87で、形勢はほぼ互角です。

大駒を取り合う派手な展開ですが、バランスは取れているようです。先手の居飛車は角金交換の駒得が主張ですが、後手の四間飛車は玉の堅さで勝っていますし、自分だけ歩を3枚持っているのも大きいです。

この変化がほぼ互角であれば、図4の結果図で居飛車がやや指しやすいという従来の定跡の結論は覆る可能性があります。

鷺宮定跡の変化図7

まとめると、①14手目▲2八飛は先手の居飛車の変化として有力で、ほぼ互角です。

②16手目▲2八飛は疑問手で、後手の四間飛車がやや優勢となります。1筋の突き合いがある場合では有力でしたが、1筋の突き合いがない場合は居飛車不利となります。

③21手目△2八金は後手の四間飛車の変化として有力で、ほぼ互角です。

鷺宮定跡(△6四歩・△1二香型、1筋の突き合いなし)のまとめ

鷺宮定跡の△6四歩・△1二香型で1筋の突き合いがない形は、図4まで進んで先手の居飛車がやや指せるというのが従来の定跡の結論でした。

しかし、③21手目△2八金が後手の四間飛車の変化として有力で、ほぼ互角であれば従来の定跡の結論が覆る可能性があります。

とはいえ、図4は居飛車がやや指しやすい程度で、変化図7はほぼ互角なので、ソフトの精度も含めて考えると大きな差とは言えないかもしれないです。


四間飛車の急所2 急戦大全(上)(藤井猛著)