右玉戦法はプロでは多くないですが、アマチュアでは人気の戦法です。
実は、じゅげむは右玉にかなり苦しめられています。
はっきり言って、右玉を相手にするのは苦手です。
相手に右玉を指されると、「また右玉か・・・」という感じです。
だからと言って、自分で右玉を指してみると玉が薄くて勝ちづらい。
どちらを持っても勝ちづらい嫌な戦法が右玉なのです。
しかし、右玉に苦しめられながらの試行錯誤の末、ようやく右玉にけっこう勝てる対策が見つかりました。右玉対策としてはかなり有力だと思います。
本記事では、右玉の種類、右玉がやっかいな3つの理由、右玉対策でオススメな陣形という順番で基本的なところから詳しく書いています。
棋界に伝わる二つの秘法 雁木・右玉伝説(マイナビ将棋文庫、2016年)
右玉の種類
右玉戦法と言っても、いろいろな右玉の種類があります。じゅげむの実戦では、角換わりの右玉を対戦相手によく指されます。
右玉の基本形(角換わりの場合)は図1のような陣形です。普通は飛車とは反対側の左側に玉を囲うのがセオリーですが、右玉は飛車がいる右側に玉を囲うので「右玉」と呼ばれます。
もし▲4八玉ではなく、▲6八玉→▲7九玉と左側に玉を囲い、さらに▲5六銀と上がると腰掛け銀になります。右玉と腰掛け銀は、玉の位置を除くと駒組みが似ているので、途中まで腰掛け銀だと思っていたら実は右玉だったということがよくあります。
じゅげむの実戦では、図2のような▲6七銀型の右玉もよく現れます。普通、角換わりでは7七に銀がいることが多いのですが、この形では一マス右の6七に銀があります。▲6七銀型の利点は、▲7七桂と跳ねて左桂が使いやすいことです。桂馬を跳ねると▲8九飛と飛車を転換することもできます。
図3のように、金銀3枚で玉を固めた右玉もあります。これは図1から発展した陣形で、図1から▲3八玉→▲4八金→▲5六歩→▲6六銀→▲5七銀の5手で図3になります。左銀を玉に引きつけているので、普通の右玉よりは堅いですが、それでも矢倉や美濃囲いに比べると薄い囲いです。
右玉戦法がやっかいな3つの理由
右玉と戦っていて嫌なのは、以下のような3点です。
1.自分から攻めないで、じっと待って無理攻めを誘ってくる。
2.右玉の下段飛車の働きがとても良い。
3.薄そうな玉だが、下手に攻めると入玉される。
これらを一つずつ説明して、右玉対策につなげたいと思います。
右玉は待つ戦法で相手の無理攻めを誘う
右玉は自分から攻めないで待つ戦法です。たまに右玉側から攻めてくることもありますが、待たれることの方が圧倒的に多いです。
そうすると、こちらから仕掛けることになります。しかし、右玉は陣形のバランスがけっこう良いので、どこから攻めたら良いかわからない場合も多いです。
右玉相手に焦って無理攻めをして、カウンターをくらうのが負けパターンの一つです。
右玉は千日手狙いの戦法でもあるので、先手に右玉を指されると正直イライラします(笑)
イライラさせて相手に無理な打開をさせるのが右玉の狙いなので、その狙いにハマらないことが大事です。
右玉側が先手の場合、後手は攻めずに待つのも一つの手です。「千日手を打開する義務は先手番にある」というのが一般的な考え方です。
たとえば、じゅげむの実戦で図4のような後手陣の形で待ってみました。△6五歩型で▲6六銀と出させないようにして、飛車のコビンや桂頭が傷にならないように△7三歩型で待ちます。図4から以下、先手は▲4八金→▲5八金→▲4八金で金を左右に往復、後手も△5二金→△4二金右→△5二金で金を往復させて一瞬千日手模様になりました。
そのあと実戦では、先手が▲4八金→▲5九飛から打開してきたので千日手にはなりませんでしたが、右玉から動く展開なら後手も十分に戦えます。
しかし、右玉側が後手の場合は、先手から打開する必要があります。図4のような作戦は、後手番なら使えますが、先手番だとイマイチです。
右玉は下段飛車の働きが優れている
図5もじゅげむの実戦です。先手が右玉から▲8九飛と飛車の転換をしてきました。飛車先の逆襲が右玉の狙い筋の一つです。
右玉は下段の飛車が自由に動けるのがやっかいです。6筋から攻めると、振り飛車感覚で▲6九飛と回られたりもします。アマチュアでは振り飛車党が多いので、振り飛車感覚で飛車を使えるところが右玉戦法の人気の理由の一つかもしれません。
また、そのままの▲2九飛の位置でも飛車が攻防によく利いています。下段の角の打ち込みを消していますし、2筋からの攻めは常に急所になります。
このように、右玉は飛車の働きが優れているところがやっかいです。右玉対策としては、よく働いている飛車に圧力をかけたいところです。
右玉は薄いが下手に攻めると入玉される
図6もじゅげむの実戦です。先手は駒得しながら攻めているのですが、後手に入玉されそうな展開です。このあと▲2七飛をいじめられて、後手玉が捕まらなくなりました。
右玉は金銀を左右に偏らせないでバランスよく配置しているので、玉が逃げた先にも金銀が近くにあることが多いのがやっかいです。
さらに、こちらが玉を堅くするために金銀を玉側に寄せていると、けっこうな確率で玉と反対側のエリアでB面攻撃(相手の攻め駒を責めること)され、入玉されやすくなってしまうのが悩みの種です。
このように右玉は入玉を狙える戦法です。入玉を狙われる展開は一番嫌なので、入玉をされにくい右玉対策を考えたいところです。
右玉対策でオススメの陣形
じゅげむが実戦でいろいろと試行錯誤をして、けっこう勝ちやすかったのが図7の陣形です。右玉対策としては、かなり有力だと思います。
この陣形を見て、「え?」と思う人もいると思います。
▲3七銀が使いづらそうに見えるのです。角換わりで▲3七銀型と言うと、▲4六銀から早繰り銀で使うイメージがあるので、▲4六歩と突いた形に違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。4筋の歩を突いた形は腰掛け銀のイメージが強いのでなおさらです。
しかし、図7で青く色付けした右辺の形が右玉対策のまさにキモなのです。
この陣形の狙いは図8のような▲5六角です。実は、この角を打ちたいための布陣なのです。▲5六角は▲3四角→▲2三角成の筋と、▲7五歩△同歩▲7四歩の筋を狙っています。筋違い角は対右玉では急所中の急所になります。
じゅげむの実戦では図8の▲5六角以下、△5五銀▲3四角△6五歩▲5六歩△6四銀引▲2三角成△同金▲同龍(図9)と進みました。角金交換でやや駒損ながら、飛車の成り込みに成功です。(「金歩2vs 角」の交換と考えると、実は駒の損得は互角:参考記事)
このような展開では右玉の薄さが気になります。飛車(龍)で横から攻められると、7筋の玉が戦場から近いのが響きます。
右玉相手で何よりも嫌なのは、押さえ込まれて何もできずに負けてしまったり、入玉を狙われてワケのわからない展開にされることです。
▲2三飛成と飛車を成り込めれば、そのような展開にはなりづらい。形勢は難しい場合もありますが、少なくとも勝負形にはなっていることが多いです。
図9は成功例と言えると思います。このあと龍を活用して勝ち切ることができました。(具体的な手順は、このページの最後にのせている棋譜1をご覧になってください。)
やっかいなのは、△4四銀と出ないで待たれる展開です(図10)。▲5六角と筋違い角を打っても、▲3四角とは出られないですし、持ち歩がないので▲7五歩△同歩▲7四歩の筋もすぐにはできません。
図10もじゅげむの実戦です。後手の右玉なので、千日手狙いで△5二金→△6二金→△5二金の往復運動をしています。右玉が手待ちをした場合は、図10のように穴熊に組み替えてしまうのが一つの対策です。
このあと実戦では、△5二金▲2六銀△4四銀▲3七銀△5五銀▲2四歩△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△8五歩▲2八飛△8六歩▲8八歩△2三歩▲4七角(図11)と進みました。
後手の△8六歩~△8五歩の継ぎ歩攻めが厳しく、図11では8筋を凹まされています。こうなると、先手が苦しいように見えます。
しかし、▲4七角と打ってみると、後手にとってはけっこう嫌だと思います。角のラインを止めるのがかなり難しいからです。▲3七銀▲4六歩型のメリットで、4七の地点に角を打つことができ、弱点の角頭は銀でカバーしています。
図12は、図11から進んだ局面です。(ここまでの詳しい手順は、ページの最後にある棋譜2をご覧になってください。)
図12では、先手が穴熊の弱点の端を攻められています。しかし、△9六歩の取り込みには、▲9二歩△同香▲7三歩成△同玉▲9二角成で根元の香車を取る筋があるので、攻めが難しくなっています。▲9二角成のような手が、8一の飛車にも当たるのが後手陣の泣き所です。
対右玉で▲5六角や▲4七角の筋違い角が急所なのは、△7三桂の桂頭を狙っているだけでなく、△9一香や△8一飛も間接的に狙っているからです。右玉は飛車の働きが良いので、その飛車にプレッシャーをかけられる筋違い角はとても有効です。
要するに、この右玉対策の陣形の長所は、「とりあえず筋違い角を打てばけっこう勝負になる」ということです。図11のように少し劣勢に見える局面でも戦えます。方針がわかりやすいので、悪手が出にくいのもメリットです。
右玉戦法がやっかいな3つの理由との関連性で言うと、
1.右玉に千日手覚悟で待たれる → 筋違い角の筋で打開しやすい。
2.下段の飛車がやっかい → 筋違い角で飛車に間接的なプレッシャー。
3.入玉を狙われる → ▲3七銀がいるので簡単には入玉できない。
のように対策がされているので、図7の右玉対策は理屈としても悪くないです。
有力な右玉対策だと思うので、ぜひ実戦で試してみてください。
棋譜(flash盤)
棋界に伝わる二つの秘法 雁木・右玉伝説(マイナビ将棋文庫、2016年)