四間飛車の定跡を将棋ソフトを使って研究しています。
前回と同じく対四間飛車急戦の鷺宮定跡です。前回までは△６四歩型でしたが、今回は△１二香型です。定跡では四間飛車側にとってベストの構えと考えられています。
前回までの記事：鷺宮定跡の基本手順１、基本手順２、実戦的な変化手順
香車が角筋を避けているために、△６四歩型と同じ攻め筋が通用しなくなる変化も多くなり、先手の攻め方が難しくなります。
将棋ソフト「技巧」で調べてみると、定跡書にはない先手の有力な変化が現れます。この部分については、従来の定跡の結論を覆す可能性があります。
四間飛車：鷺宮定跡（△１二香型）の基本手順
初手から▲７六歩△３四歩▲２六歩△４四歩▲４八銀△４二飛▲６八玉△９四歩▲９六歩△７二銀▲７八玉△３二銀▲５八金右△６二玉▲５六歩△７一玉▲６八銀△５二金左▲２五歩△３三角▲３六歩△８二玉▲５七銀左△５四歩（図１）が対四間飛車の急戦の基本図です。
図１から▲６八金直△１二香▲３八飛（図２）が鷺宮定跡の△１二香型です。後手の四間飛車側にとってベストな構えと考えられています。
図２から△４三銀▲３五歩△同歩▲４六銀△４五歩▲３三角成△同桂▲３五銀△２五桂▲３四歩△３二飛（図３）が鷺宮定跡の基本手順です。図３は先手の居飛車側の選択肢が広く、①▲３三角、②▲２八飛、③▲６六角、④▲３六飛などの候補手があります。このうち、①▲３三角は△１二香型だと、香車があらかじめ逃げているので空振りします。本記事では②▲２八飛の変化を研究します。
図３で②▲２八飛だと、以下△２四歩▲３三角△６四角▲２六飛△４二角（図４）で後手十分というのが鷺宮定跡の結論です。
上記の鷺宮定跡の基本手順は「四間飛車の急所２（藤井猛著）」を参考にしています。定跡手順の解説や変化手順が非常に詳しく書かれています。
将棋ソフト「技巧」による鷺宮定跡の解析
図１を開始局面とした棋譜解析の結果
鷺宮定跡と将棋ソフト「技巧」の読み筋が（▲３五歩の仕掛け以降で）異なるのは、
①13手目▲３四歩（技巧の推奨手は▲２八飛。以下括弧内が技巧の読み筋）
②15手目▲２八飛（▲３六飛）
③18手目△６四角（△４二角）
の計３手です。
①13手目▲２八飛以下は、△３二飛▲２五飛△２四歩▲同銀△３八飛成（変化図１）が技巧の推奨手順です。
変化図１までは定跡でも変化手順として知られています。定跡では変化図１で▲３七桂という手が示されています。以下を技巧で調べてみると、△３四銀▲２六飛△４九龍▲１六角△１九龍▲３四角△４四角（変化図２）で後手優勢となります。変化図２の評価値は－442です。
しかし、変化図１での技巧の推奨手は、定跡とは異なる▲１六角（変化図３）です。この一手によって、定跡の結論が覆る可能性があります。
変化図３から△３六龍▲３七桂△４四角▲７七桂（変化図４）が技巧の推奨手順です。変化図４での評価値は－26で、形勢判断はほぼ互角です。後手に龍を作られますが、先手には桂得という主張があります。
変化図３では△２七歩も技巧の候補手の一つですが、以下▲３九歩△３六龍▲２三銀不成△５六龍▲１二銀成（変化図５）と進みます。変化図５の評価値は164で、先手がやや指しやすいです。この変化では、後手の△１二香型をとがめています。
②15手目▲３六飛は、定跡書でも書かれている有力な変化です。この変化については、次回以降の記事で研究する予定です。
③18手目△４二角以下は、▲１一角成△３四銀▲同銀△６四角▲２三銀成△３一飛▲２二馬△２八角成▲３一馬（変化図６）が技巧の推奨手順の一例です。変化図６の評価値は－231で後手優勢です。
この手順中で、△６四角の代わりに△３四同飛が定跡手順ですが、以下▲１二馬△３五飛▲４四銀△６四角▲５五歩（変化図７）となります。変化図７の評価値は－161で、後手がやや指しやすいです。
ちなみに、定跡書「四間飛車の急所２（藤井猛著）」では変化図７以下、△３一飛▲３四香△４一飛▲２二馬△２一銀からの千日手の順が示されています。しかし、手順中の△４一飛の代わりに△３三歩（変化図８）が好手で後手優勢（評価値－490）となります。そこで、手順中の▲３四香の代わりに▲６六香が技巧の推奨手です。
鷺宮定跡の本手順の図４以下は、▲１一角成△３四銀▲同銀△同飛▲１二馬△３八飛成（変化図９）が技巧の推奨手順です。変化図９の評価値は－256で、形勢判断は後手優勢です。
まとめると、13手目①▲２八飛は先手の変化として有力で、▲１六角の好手によってほぼ互角となります。この部分は定跡の結論が覆る可能性があります。
③18手目△４二角は後手の変化として有力です。△４二角でも本手順の△６四角でも後手優勢になるので、後手としてはどちらを選んでも良いです。
②15手目▲３六飛は、次回以降の記事で研究する予定です。
鷺宮定跡（△１二歩型）のまとめ
定跡手順の図４まで進むと後手優勢になるので、先手はどこかで変化が求められます。
本手順の①13手目▲３四歩、②15手目▲２八飛のところで変化の余地があります。
このうち①については、13手目▲２八飛の変化が有力で、▲１六角の好手によってほぼ互角となります。変化図４では後手に龍を作られますが、先手には桂得という主張があるので、人間が指しても十分に戦えそうです。