将棋の形勢判断:優勢か劣勢かがわかりやすい場合

将棋の形勢判断シリーズの第4回です。上達に役立つシリーズにできればと思っています。

今回は形勢の善し悪しが比較的わかりやすいケースです。複雑な問題を解くほぐすのも大事ですが、シンプルな問題なら即判断することも大事です。

形勢判断シリーズ(No. 4)
前回:将棋の形勢判断:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合
次回:将棋の形勢判断:4つの要素で判断する枠組みの問題点

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向かい飛車 vs 三間飛車の相振り飛車のテーマ図

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

相振り飛車のじゅげむの昔の実戦です。将棋倶楽部24のレーティング1800台同士の対局で、先手が私です。先手向かい飛車 vs 後手三間飛車の出だしで、後手は向かい飛車に振り直しています。後手が早めに穴熊を明示したので、先手は玉の囲いよりも攻撃形の構築を優先させる作戦を取りました。

上図は54手目で、7三の地点で金桂交換の駒得があったところです。

仕掛けから一段落して、先手が金桂交換を達成したところで形勢判断をします。この局面の少し前には銀交換もありました。形勢判断をするタイミングとして、大きな駒交換が行われた直後は一つのポイントです。

大きな駒交換が行われると双方の持ち駒が増えます。一般的に、持ち駒が多ければ、その分だけ指し手の選択肢は広くなります。そこで、幅広い変化に枝分かれする前に形勢判断をしておけば、その後の方針を決めやすくなるわけです。

さらに、この局面で形勢判断をする理由はもう一つあります。変化の枝分かれの中には、形勢が先手に傾く手順も含まれますし、逆に後手に形勢が傾く手順も含まれるでしょう。この局面から何手か後で優劣がひっくり返るような展開も当然考えられますので、そうなる前に、枝分かれの根元の局面での形勢判断をしてしまおうということです。

形勢判断の4要素

例によって、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4つのポイントで形勢を分析します。

駒の損得

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「①駒の損得」は、金桂交換ですが先手が2歩損です。

つまり、先手の「金」と後手の「桂歩2」の交換です。金6点、桂4点、歩1点で計算して点数を2倍(駒得すると、片方は駒が1枚増えて、もう片方は駒が1枚減るので、駒2枚分の戦力差が生じるため)すると、先手も後手も合計12点となります。先手の歩切れも考慮されますが、「①駒の損得」はほぼ互角です。

駒の点数については、こちらの記事を参考にしてください。

3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)
前回の続きです。谷川浩司さん、渡辺明さん、青野照市さんの3人のプロ棋士の駒の価値を比較します。将棋の上達に役立つ駒の価値についての理解を深め...

もちろん、攻めの桂と守りの金の交換はかなりのプラスと考えるのが自然です。守りの金がいなくなって、囲いが弱体化したことは全体の形勢に大きな影響を与えます。しかし、その影響は「①駒の損得」だけではなく、「②玉の堅さ」の項目でしっかりと考慮しています。

玉の堅さ

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「②玉の堅さ」は、後手のみ囲いが大きく崩れています。

後手はもともと金銀3枚の穴熊でかなり堅かったです。しかし、金を1枚失って、さらに△7三桂と跳ねてしまったので、後手の穴熊は急激に弱体化しています。特に、端と桂頭がもろくなっています。

一方、先手は金無双の一手前の形(あるいは壁銀の船囲い)が、そのまま手付かずで残っています。金無双と比べると、▲4八金直と上がっていませんが、特に問題はありません。4~5筋方面を上部から攻められているわけではないので、むしろ▲4九金型は安定しています。壁銀の船囲いとして見ても、横から攻められている形ではないので、今のところそれほど問題はないです。

双方の玉の堅さを比較すると、金銀2枚で△7三桂と跳ねた穴熊よりは、金銀3枚の金無双の方が流石に堅いでしょう。先手の9筋の端歩が伸びていて、▲6六角が端の急所に利いていることも考慮に入れています。さらに、先手の▲2八銀が壁銀で一見悪形でも、△2二飛のにらみから2筋を守っている重要な守備駒であることも考慮に入れています。

ということで、「②玉の堅さ」は先手有利です。

駒の働き

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「③駒の働き」はどうでしょう。

先手は左香を含めて遊び駒が全くないですし、左桂がさばけているので十分です。一方の後手は、△1一香と△2一桂が遊び駒となっています。角の働きも先手に劣ります。したがって、「③駒の効率」も先手有利です。

テーマ図は、全体的に駒の役割がはっきりとしています。このような場合は、「③駒の働き」の評価がしやすいです。

形勢判断4のテーマ図:駒の役割を色付けする

上図では、守備駒を、攻め駒を、大駒をオレンジ、遊び駒をに色付けしています。

先手は囲いの金銀3枚+桂香が守備駒です。左香は後手の穴熊をにらむ攻め駒です。大駒の飛車と角は利きが多いので、攻めにも守りにも働いていますが、攻め駒としての意味合いが強いです。

後手は囲いの金銀2枚+桂香が守備駒です。大駒の飛車と角は、攻めにも守りにも働いています。玉と反対側の桂香は遊び駒です。

このように、盤面の駒の役割が明確な局面は形勢判断がしやすいです。テーマ図は視覚的にもスッキリした図面です。

逆に、

①中途半端な位置に駒がある。
②利いているか利いていないかの判断が難しい駒がある。
③攻め駒を責める展開で、攻め駒として見るか守備駒として見るかが難しい。
④駒が入り乱れてごちゃごちゃしている。

のような場合は、形勢判断の4要素のうちで、「②玉の堅さ」や「③駒の働き」の評価が難しくなるでしょう。

手番

「④手番」は先手です。

中盤の仕掛けから大きな駒交換があり、中盤の後半から終盤の入り口へと移行しつつある局面です。駒交換の直後でひとまず落ち着いたタイミングなので、手番の価値がものすごく高いというわけではありませんが、序中盤と比べると手番の価値は高くなっています。

総合的な形勢判断

①~④をまとめると、

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

①駒の損得:ほぼ互角(先手「金」(12点)vs 後手「桂歩2」(12点))
②玉の堅さ:先手有利(金無双一手前 vs 桂が跳ねた2枚穴熊)
③駒の効率:先手有利(後手の桂香が遊び駒)
④手番:先手

となり、結果として、後手には主張するポイントが一つもありません。後手としては、こうなる前にどれか一つでも主張できるポイントを作るべきでした。あえて言えば、先手は歩切れが気になるところです。しかし、端で一歩補充できる形ですし、大勢を覆すものではないと思われます。

したがって、結論は先手優勢です。

①~④の4要素が割れていない場合は、形勢判断の問題としてはシンプルです。どのくらい形勢が離れているかはともかく、優勢か劣勢かはわかりやすいです。

実戦ではこの後、攻め合いとなりました。しかし、玉の堅さが違うので、先手の攻めに対して後手は手抜きができず、ある程度手数が進んだ局面からは、先手がずっと攻め続ける展開になって押し切りました。

形勢判断シリーズ(No.4)
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