将棋の格言の拡張「玉の守りは金銀三枚+桂香」の続編です。
この記事では、玉の囲いを構成する金銀などの守備駒の位置について考えます。
玉の囲いと守り方のコツがテーマとなります。
このページの目次
「玉の守りは金銀三枚+桂香」と玉の位置
前回の記事「玉の守りは金銀三枚+桂香」の要旨をおさらいすると、
①矢倉、美濃、穴熊では、金銀だけでなく端の桂香も囲いを作る。
②端の桂香を玉の囲いとして使えるかどうかは重要。
③端の桂香を囲いの駒として十分に働かせるためには、玉が7~9筋(1~3筋)にある必要がある。
ということでした。
今回の記事との関係では、③の玉の位置がポイントです。
玉を中心に守備駒の位置を考える
上記の参考記事では、「桂香の守り駒としての働き」を主題としていたので、守備駒ではなく玉の位置の方を動かしました。なぜなら香車は端から他の筋に動けないですし、守りの桂馬も動きが制限されているからです。
しかし、本来囲いとは玉を守るものなので、玉の位置を中心に考えるべきです。
7~9筋(1~3筋)に玉がある場合を考えると、端の桂香は玉から2マス以内のエリアに収まります。6筋に玉がある場合は、端の香車は玉から横に3マスの遠さで、この場合に端香が玉の囲いの一部かどうかが不確かになります。
すなわち、玉を中心として、玉から2マス以内が特に重要なエリアと考えられます。
矢倉、美濃、穴熊の3つの代表的な囲いの場合
まずは、代表的な囲いを例に考えてみましょう。
矢倉(金矢倉)、美濃(本美濃)、穴熊(基本形)ではどうでしょうか?
上図では、玉から2マス以内のエリアを赤で色付けしています。
矢倉(金矢倉)と穴熊(基本形)では、金銀が玉から2マス以内のエリアに収まっています。もちろん、これらの金銀は囲いの一部として玉の守りに十分に働いている駒です。
上図の美濃囲い(本美濃)の場合、3八の銀と4九の銀は玉から2マス以内にありますが、5八の金は玉から3マスの遠さにあります。
香車の場合と異なるのは、5八の金は横に利きがあるので、玉の2マス以内のエリアを「利き」でカバーしているということです。5八の金の場合は、4七と4八の2つの「利き」が玉の2マス以内のエリアに利いています。「守備駒が玉から3マスの距離でも、利きが玉の2マス以内のエリアにあれば守備駒として有効に働く」という考え方もできます。
以前の記事で、駒の「利き」と「存在」という2つの視点について考察しています。
この考え方は、自陣の飛車の守りについても応用できます。
上図は矢倉と自陣の飛車の関係を示しています。2八の飛車の「存在」は自玉から遠く離れていますが、飛車の「利き」は玉から2マス以内のエリアまで届いています(青色のマス目)。相矢倉における飛車は、攻めの軸であると同時に、遠くから自玉の守りにも働いています。玉飛接近は悪形なので、遠くから利かすのが、飛車を使った自玉の守り方のコツです。
ところで、美濃囲い(本美濃)は横からの攻めに対して強い囲いの代表格です(下図)。
少し横に出っ張った5八の金は、横からの攻めへの耐久力を増しています。一般化すると、
「玉から3マス以上の遠い場所に配置された駒(美濃囲いの場合の5八の金)でも、その方向からの攻め(美濃囲いの場合は横からの攻め)に対してなら有効に働く」
となります。
美濃囲いの2八玉型と3九玉型の比較
「攻めの方向」についてもう少し考えてみましょう。同じ美濃囲いでも、振り飛車vs居飛車の対抗型と、相振り飛車の美濃囲いでは少し違った使われ方をします。
通常、美濃囲いは2八玉型(左図)が基本形と考えられていて、3九玉型(右図)は2八玉型よりも囲い方が浅いと考えられがちです。これは昔からある振り飛車vs居飛車急戦のイメージが強いためです。
しかし、3九玉型にもメリットがあり、実戦では一概にどちらの方が堅いとは言えません(形勢判断の参考記事)。3九玉を中心に考えると、美濃囲いの金銀3枚のすべてを玉から2マス以内のエリアに収めることができます。この点で、3九玉型の方が金銀の守備力を生かし切れている可能性もあるわけです。
一方で、2八玉型で横以外から攻められた場合に、5八の金が守備駒として有効に働かない場合があります。
例えば、左図では先手玉に△3六桂▲1八玉△2八金までの詰めろがかかっています。角と桂のコンビネーションを利用した美濃崩しの代表的な形です。このこびん攻めに対する有名な受けの手筋として、左図から▲4六歩△同角▲4七金(右図)があります。5八金の位置だとこびん攻めに対する守備駒としては働かないので、4七の位置へ金を移動させるのがポイントです。この受けの手筋は、「玉から3マスの距離から2マス以内のエリアに守りの金を移動させている」と解釈することもできます。戦いの中で金銀を玉の近くに引きつけるのが玉の守り方のコツです。
玉から3マスの距離にある金銀については、次のように考えられます。
「玉から3マスの距離にある金銀は、その方向からの攻めに対しては守備駒として有効に働く。しかし、別の方向から攻められた場合に、受けに働かない場合もある」
実戦でよく現れるその他の囲いの場合
実戦でよく現れる矢倉、美濃、穴熊以外の囲いも見てみましょう。
玉を守備駒で囲うわけですから、守備駒が玉の近くにあるというのは当たり前といえば当たり前なのですが、船囲い、雁木、中原囲い、ミレニアムでは、玉から2マス以内のエリアに金銀が収まっています。
このことから、「玉から2マス以内のエリアにある金銀は、基本的に守備駒として考えていい」という指針が生まれます。実戦で見慣れない玉形になった時に、玉の堅さを計るための指標の一つとして役立ちます。逆に、玉から3マス以上離れた金銀は守備駒としての働きが弱い可能性があるので、玉の近くに引きつけたり、攻め駒として働かせたりすることが有効になります。
玉を中心に相手の攻め駒の位置を考える
逆に考えると、玉から2マス以内のエリアに相手の攻め駒がある場合は、玉の危険度が上がります。あるいは、このエリアに相手の攻め駒の「利き」がある場合も、玉の危険度が上がっています。
例えば、上図のように飛車先の歩を突かれた場合に、手抜きができないことは非常に多いです。図面の濃い赤で示した8七のマス目に、後手の8六の歩の利き(と8二の飛車の間接的な利き)が侵入しています。このマス目は、6九の玉から2マス以内のエリアにあります。次に、8七歩成と成られると、7八との王手で守りの金を取られる手が、非常に厳しい狙いとして残ります。
また、上図のように穴熊で端歩を詰められている場合に、端歩を突かれると手抜きができないことも非常に多いです。
これらの場合は、歩の利きが玉から2マス以内のエリアに侵入しています。あと2手で王手がかかる可能性がある、あるいは、あと1手で詰めろや必死がかかる可能性がある、というスピード感の攻めなので、手抜きをすると玉がかなり危険な状態になります。
玉の囲いと守り方のコツのまとめ
①玉から2マス以内のエリアは、玉の守りに非常に重要です。
②将棋の実戦でよく現れる優れた囲いは、このエリアに金銀を集めています。
③このエリアに相手の攻め駒や利きが侵入してきた時は要注意です。
④戦いながら玉の近くに守備駒を引きつけるのが玉の守り方のコツです。
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