将棋の形勢判断のコツ(形勢判断シリーズ10回分のまとめ)

フクロウ

将棋の形勢判断シリーズ10回分のまとめ記事です。

これまでに、私の実戦から10局の具体的な将棋を取り上げて形勢判断の分析をしました。10局を一つの区切りとして、今までの形勢判断を振り返ってみたいと思います。

・駒の損得の判断が難しい場合のコツは?
・「玉の堅さ」と「玉の安全度」の違いとは?
・駒の働きをどのように考えたらよいか?
・どのような局面で形勢判断をしたらよいか?

など、1局だけではなかなか見えてこなくて、10局を比較分析することで、はじめて見えてくる形勢判断のコツ」を紹介しています。また、形勢判断の精度を上げるための課題も述べています。

このページの目次

形勢判断シリーズのブログ記事のリスト(10局分)

本記事は10局分のまとめ記事です。
1局ごとの個別の形勢判断についての詳しい内容は、以下のリンクから見られます。

実例1:形勢判断の4要素
実例2:玉の囲いの堅さの定量的な評価
実例3:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合
実例4:優勢か劣勢かがわかりやすい場合
実例5:4つの要素で判断する枠組みの問題点
実例6:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値
実例7:飯島流引き角 vs 四間飛車
実例8:居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠、局面全体のバランスを考える
実例9:中飛車左穴熊 vs 向かい飛車、棋力と形勢判断
実例10:四間飛車 vs 居飛車急戦、大駒の働きと形勢への影響

形勢判断の4要素

形勢判断の方法としては、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4要素から分析しています。

一つ一つの要素を個別に意識することによって、形勢判断の精度が高まります。

①から④までの個別の要素については、次のようにまとめました。

形勢判断の要素その1:「駒の損得(駒割り)」

まずは、「①駒の損得」について。

駒の損得(駒割り)は形勢判断の基本です。序盤では①~④の中で一番大事な要素と言ってよく、中盤以降も重視されます。

「終盤は駒の損得よりスピード」という格言がありますが、実は終盤でも駒の損得(駒割り)は非常に大きな要素です。

駒の損得の判断が難しい場合のコツ

駒の損得(駒割り)の判断は、簡単な場合と難しい場合があります。

「角銀交換」「銀桂交換」など、1対1の駒交換の場合は簡単です。駒の価値の順番は、

飛 > 角 > 金 > 銀 > 桂 > 香 > 歩

なので、駒得か駒損かはパッと分かります。

一方で、「金金歩3 vs 飛桂」実例1:左下図)「銀銀 vs 飛桂」実例5:右下図)「角香歩 vs 飛」実例7)など、組み合わせが複雑な場合の駒の損得(駒割り)の判断はもっと難しくなります。

形勢判断の実例1(駒の損得)形勢判断の実例5(駒の損得)

このような場合は、駒の点数を使って計算するのがコツです。駒の損得(駒割り)を、飛10点、角8点、金6点、銀5点、桂4点、香3点、歩1点と点数で数えることによって(通常は点数をさらに2倍にする)、複雑な駒交換についても有利か不利かを大まかに判断できるようになりました。(参考:駒の点数の谷川理論3人のプロ棋士の駒の点数の比較

歩の損得が絡んだ場合はケースバイケース

駒の損得についての課題の一つは、歩の扱いです。

実例4(下図)では、「金 vs 桂歩2」の交換を、同じ合計12点でほぼ互角と判断しました。(駒の点数の合計をそれぞれ2倍しています。)

形勢判断の実例4(駒の損得)

しかし、一般的には「金桂交換」の駒得とされることが多いので、駒の損得がほぼ互角という判断には違和感もあります。駒得かほぼ互角かの違いは、歩の扱いの差によって現れます。実例4では「金 vs 桂歩2」の交換であると同時に、歩を損している側の先手は歩切れでした。

もし、先手が持ち駒に歩を何枚か持っていたと仮定すると、先手の2歩損の意味合いが薄れます。この場合は、「金 vs 桂歩2」の3枚換えでほぼ互角というよりも、「金桂交換」で駒得と判断した方がぴったりします。

しかし、実際の実例4では2歩損した先手が歩切れなので、歩の価値がクローズアップされ、「金 vs 桂歩2」(合計12点ずつ)でほぼ互角という判断にも一理あります。

歩の損得が絡んだ駒の損得については、

A. 歩を損した側が歩切れになっている場合。(実例1実例3実例4
B. 歩を損しても歩切れになっていない場合。(実例7実例9実例10
C. 歩の損得の枚数が多い場合。(たとえば、歩5枚の得は、銀得と同じ+10点分もあるとは判断しづらい。)

などケースバイケースで、単純な合計点数による評価から微調整する必要があると考えられます。特に、上記のA~Cの3パターンの違いを意識することがコツです。

形勢判断の要素その2:「玉の堅さ(玉の安全度)」

次に、「②玉の堅さ」について。

現代将棋では玉の堅さが非常に重視されます。玉の堅さは勝ちやすさに直結するからです。

玉の堅さに差があり、攻めだけを考えればよい展開だと、実戦的には非常に勝ちやすくなります。逆に、玉が薄い場合は、わずかなミスが致命傷になりやすいです。

玉の堅さが大差と言えるのは?

玉の堅さについては、自玉と相手玉の「相対的な」堅さの差で考えることがコツです。

薄い玉だと苦労しやすいものですが、特に相手玉との堅さの差が大きい場合に、玉の薄さの不利が顕著に表れます。相手の攻めに対して手抜きをしづらくなり、一方的に攻められる展開になりやすくなります。具体的には、玉の堅さに金銀2枚以上の差がある場合は、「玉の堅さは大差」と言って構わないと思います。(実例1:下図)

形勢判断の実例1(玉の堅さ)

「玉の堅さ」と「玉の安全度」の違い

玉の堅さについての課題の一つは、相手の攻め駒の配置によって玉の堅さが変わることです。この場合は、「玉の堅さ」というよりも「玉の安全度」と表現した方がぴったりします。

実例10(下図)では、「美濃囲い vs 船囲い」で先手玉の方が堅い囲いですが、後手の飛車角の攻め駒が急所に利いているので、玉の安全度としては後手玉の方が上です。

形勢判断の実例10(玉の堅さ)

ただし、「玉が堅くない」と「相手の攻め駒によって玉が安全ではない」の2つは似ているようで異なります。前者の場合は、自陣に手を入れて玉が堅くなることもありますが、ぴったりした補強方法がないこともあります。後者の場合は、相手の攻め駒を排除できれば玉の安全度が上がります。たとえば、実例10では、後手の大駒の利きをさえぎることができれば、先手玉の安全度は一気に向上します。前者と後者の違いを理解することも、玉の堅さを判断するためのコツと言えるでしょう。

「形が崩れた囲い」の堅さの評価

玉の堅さに関する課題のもう一つは、「形が崩れた囲い」の堅さの評価です。

具体的には、実例2(左下図)の先手の金無双と後手のカニ囲い、実例3の後手の美濃囲い、実例4の後手の穴熊、実例6(右下図)の先手の銀矢倉と後手の穴熊、実例9の後手の穴熊、などです。

形勢判断の実例2(玉の堅さ)形勢判断の実例6(玉の堅さ)

攻められすぎて、囲いの原形をとどめていない場合はともかくとして、元の囲いから少し形が崩れたぐらいなら、元の囲いとの比較で「形が崩れた囲い」の堅さを評価できると思います。

実例2実例6では、「元の囲いから金銀何枚分弱くなったか」というモノサシで定量的な比較を試みましたが、このような方法が適切かどうかは疑問も残ります。しかしながら、元の囲いを基準にして考えるという発想自体は、それなりに有効だと思われます。

形勢判断の要素その3:「駒の働き(駒の効率)」

次に、「③駒の働き」について。

駒の働き(駒の効率)に意識を向けることで、盤上の一つ一つの駒を個別に細かく見れるようになります。

遊び駒の形勢へのマイナスの影響

駒の働きについて、一番分かりやすいのが遊び駒で、遊び駒の形勢へのマイナスの影響は評価しやすいです。

駒の働きの評価は、「①駒の損得」や「②玉の堅さ」よりも難しいことが多いので、評価しやすい遊び駒から考えるのがコツです。

特に、実例3(左下図)の先手の左辺の桂香や、実例8(右下図)の盤面右側の互いの桂香のように、玉の囲いと反対側の桂香は取り残されて遊び駒になりやすいです。遊んでいるだけならまだしも、相手にタダで取られることも多々あります。

形勢判断の実例3(遊び駒)形勢判断の実例8(遊び駒)

実例1~10では、金銀が明らかな遊び駒となっているケースはありませんでしたが、駒の価値が高い金銀の遊び駒は、桂香の遊び駒よりも大きなマイナスになるのは当然です。また金銀ではありませんが、実例9の8二の「と金」は、成り駒が遊んでいるケースです。

中途半端な位置にある小駒の評価

玉の近くにある駒は守り駒として働きます。
逆に、玉から遠く離れている小駒は、終盤以降は遊び駒になっている可能性が高いです。

一方で、中途半端な位置にある小駒をどう評価したらよいかは難問です。

実例8(左下図)の▲6六金、実例9(右下図)の△5三銀は、比較的玉に近いので守りに働いていますが、玉の囲いからは少し離れていますし、離れ駒の弱点になっている可能性もあります。このような駒は展開によって、守り駒として立派に働く場合も考えられますし、逆に弱点として攻められる場合も考えられます。駒の働きの評価は簡単ではなく、形勢判断における読みの比重が高くなるかもしれません。

形勢判断の実例8(駒の働き)形勢判断の実例9(駒の働き)

また、実例8の△3二金も評価が簡単ではありません。玉の囲いからは離れていますが、自陣の守りに働いているので全くの遊び駒ではありません。△3二金の評価は展開によって左右されそうです。

大駒の働きには大きな幅があるので評価が難しくなる

大駒は強力な駒なので、駒の働きを考える上でとても重要です。

利きが多い強力な駒であるが故に、完全に遊び駒になっている場合と、抜群に働いている場合で、大駒の働きには非常に大きな幅があります。駒の働きに大きな幅があるということは、評価の難しさに繋がるので、慎重な取り扱いが必要です。今回の形勢判断では、大駒の働きについて曖昧な評価が多く、今後の課題です。

「①駒の損得」や「②玉の堅さ」との関連性

「①駒の損得」と「③駒の働き」の関連で言うと、完全な遊び駒については、駒の損得の評価と比較しやすいです。

実例3(左下図)では、先手陣で遊んでいる桂香のマイナスと、先手の香得のプラスを比較しました。実例10(右下図)でも、駒の損得と遊び駒の評価を関連付けて考えています。

形勢判断の実例3(駒の働き)形勢判断の実例10(駒の働き)

「②玉の堅さ」と「③駒の働き」の関連で言うと、囲いを構成している駒(あるいはそれに準ずる駒)について、②と③で重複してしまう問題があります。

たとえば、玉の近くの守りの金は、玉の堅さに貢献していますし、同時に駒の働きが良いとも言えます。

玉の囲いを構成している完全な守備駒と考えるなら、「②玉の堅さ」の項目内で形勢への影響をカウントして、「③駒の働き」の項目では除外するというやり方も一つの手です。ただし、中途半端な位置に駒がある場合や、攻防に利く位置に駒がある場合など、②と③を完全に分離するのが難しいケースもあり得ます。

特に大駒は攻防に働くことが多いので、「②玉の堅さ」と「③駒の働き」の項目を重複して過大評価しないように注意が必要です。たとえば、実例1(下図)の△6九龍や、実例10の△6六角です。

形勢判断の実例1(駒の働き)

形勢判断の要素その4:「手番」

最後に、「④手番」について。

形勢判断シリーズでは、実例7(下図)のように、中盤の後半から終盤の入り口あたりの局面をメインとして取り上げました。さらに、さばき合いから大きな駒交換があった直後の局面が多くなりました。いずれも、手番の価値がある程度高くなっている(しかし、高すぎない)局面での形勢判断です。

形勢判断の実例7(手番)

どのような局面で形勢判断をしたらよいか?

形勢判断の精度はもちろん重要ですが、「どのような局面で形勢判断をするかの見極め」も大事です。

今回、形勢判断のテーマ図を選ぶプロセスにおいて、「どのような局面で形勢判断がしやすいか」についての経験値が上がったように思います。

さばき合いの最中(直後ではない)や最終盤など、手番の価値が高すぎる瞬間での形勢判断はなかなか難しいです。手番以外の①~③の項目が一手で大きく揺れ動くような激しい流れの中では、形勢判断よりも読みの比重が高くなるからです。いったん局面が落ち着いて、手番の価値もある程度落ち着いた瞬間での形勢判断が良さそうです。ある局面における手番の価値の高さを見極めることは今後の課題です。

総合的な形勢判断

①~④の個別の項目(①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番)については、一通りのまとめをしたので、最後に「局面全体としての形勢判断」について述べます。

①~④の項目別の評価を総合して、全体の形勢を精度よく判断することは大きな課題です。

実例4(左下図)のように、①~④の優劣が割れていない場合の形勢判断は簡単です。実例1実例2(右下図)、実例10のように、項目の優劣が偏っている場合も、形勢判断の結論を出しやすいです。

形勢判断の実例4(総合的な形勢判断)形勢判断の実例2(総合的な形勢判断)

しかし、実例3(左下図)、実例5実例6のように①~④の項目の優劣が2対2で割れている場合は、①~④の項目別の精度を上げないと難しいので、この点は今度の大きな課題です。また実例8(右下図)では、②と③を合わせて評価しましたが、このような手法も今後の形勢判断に応用したいです。

形勢判断の実例3(総合的な形勢判断)形勢判断の実例8(総合的な形勢判断)

今度の方針としては、まだまだ分析の数が少なすぎるので、少しずつ数を増やして形勢判断の経験値を上げるのが一つの方向性です。その際に、①~④の個別の項目については、今回の反省点を踏まえた上で分析し、精度を高めていきたいです。

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