将棋の形勢判断:4つの要素で判断する枠組みの問題点

将棋の形勢判断シリーズの第5回です。

今回は前回とは異なり、優劣の見極めが難しいケースです。オーソドックスな形勢判断の4要素は、非常にわかりやすい枠組みですが、各要素の評価は必ずしも簡単ではありません。

形勢判断シリーズ(No. 5)
前回:将棋の形勢判断:優勢か劣勢かがわかりやすい場合
次回:将棋の形勢判断:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値

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三間飛車 vs 居飛車急戦のテーマ図

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

三間飛車 vs 居飛車急戦の実戦です。後手のじゅげむがレーティング約 2000で、先手は約 2200の格上です。普段、振り飛車を指すことの多い私が居飛車側を持ったのですが、仕掛けにも苦慮し、玉の薄さにも苦しんだ一局でした。

図は66手目の局面で、中盤から終盤に突入する辺りです。少し前の中盤の攻防で、激しく駒を取り合う展開になりました。

後手は龍を敵陣に成り込んでいますが、玉形はかなり乱れています。一方で、先手は4六銀付きの高美濃囲いが丸々残っています。中盤から終盤への入り口は形勢判断のタイミングとして一つのポイントです。なぜなら、終盤が煮詰まってくるにつれて、スピード勝負になってきて、特に、詰む詰まないの最終盤では駒の損得などは関係なくなることが多いからです。そうなる前の段階で形勢判断をしておこうというわけです。

形勢判断の4要素

そこで、図の局面での形勢判断をしてみたいです。オーソドックスな形勢判断の方法として、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4つのポイントから分析します。

駒の損得

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

①駒の損得は、先手の「銀2枚」と後手の「飛桂」の比較です。

飛10点、銀5点、桂4点とすると、先手「銀2枚(20点)」、後手「飛桂(28点)」となって、後手の駒得です。(駒を1枚得すると、相手の駒が1枚減り、2枚分の戦力差となるので駒の点数を2倍しています)

さらに、後手の龍と「と金」が成り駒になっている点も考慮すべきかもしれませんが、いずれにしても、後手の駒得です。

駒の点数については、こちらの記事を参考にしてください。

3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)
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玉の堅さ

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

②玉の堅さは、一見して先手の方が堅そうです。

先手は、4六銀付きの高美濃囲いが手付かずで残っています。しかし、高美濃囲いは横からの攻めに対して、それほど強いわけではありません。とりわけ、飛車や龍で横から攻められる展開には弱いです。▲5九歩の底歩も打てないです。既に△8九龍ににらまれていて、さらに後手は持ち駒に2枚目の飛車がありますので、先手は玉の堅さについて楽観はできません。

後手は金2枚に角が付いた玉形ですが、いかにも薄いです。△5三金は上ずっていますし、△4二金は角が移動したら離れ駒になってしまいます。△3三角は囲いの一部というよりは、むしろ攻めの目標になりそうです。▲4五歩の拠点も気になります。ただし、先手が最強の攻め駒である飛車を持っていないのは大きいです。

先手も後手も気になる点はありますが、やはり高美濃囲いが手付かずで残っているのは大きいです。金銀の枚数から見ても、金銀の連結の良さから見ても、②玉の堅さは先手有利です。

駒の働き

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

次は、③駒の働き。

遊び駒の観点からは少し後手が悪そうです。というのは、先手の遊び駒が▲9九香のみであるのに対して、後手は△9一香が遊び駒であるのみならず、△7三桂も残ってしまっています。

大駒の働きを比較すると、△8九龍がいるので後手が良さそうです。後手の盤上の△8九龍は高美濃囲いの急所をにらんでいて、攻めに非常によく働いています。後手のもう1枚の飛車は持ち駒です。△3三角をどう評価するかは難しいですが、現局面では急所に利いているとは言えません。しかし、△6六角と急所に飛び出したり、馬を作って自陣に引きつける展開になったりすれば、非常によく働きます。一方、先手は持ち角が1枚のみです。

△8九龍の力が強大なので、③駒の働きは総合的に見て後手有利としたいです。(盤上の金銀の働きについては、②玉の堅さの項目で評価しています)

手番

④手番は先手です。

終盤に入っているので、手番を握っているのは大きいです。▲2五桂や▲4四銀などで攻めることもできますし、▲7三歩成で駒を補充する手もあります。▲5五歩もあるかもしれないです。実際にどう指すのかはともかく、終盤で持ち駒も豊富なので、手番を生かす指し手は色々と考えられます。

総合的な形勢判断

①~④までをまとめると、

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

①駒の損得:後手の駒得
②玉の堅さ:先手有利
③駒の働き:後手有利
④手番:先手

ということで、②と④は先手で、①と③は後手で、主張できるポイントが真っ二つに分かれています。

このような場合は、項目間の比較をする必要があります。例えば、「①駒の損得」と「②玉の堅さ」のどちらが大きいか、といった判断です。しかし、これらの比較をするにあたって、大きな問題があります。「①駒の損得」は一応具体的な数値でわかりますが、「②玉の堅さ」は簡単に数値化することができません。「③駒の働き」も数値化が難しいです。①から④までの4要素の分析で形勢判断をするという理論の枠組みの問題点ですが、これは今後の課題です。

「②玉の堅さ」の数値化、「③駒の働き」の数値化については、少しずつ研究して記事にしたいと思っています。

正直言って、私の棋力でこの局面の優劣を正確に判断するのは難しいです。しかし、互角ということはなく、局面の優劣はついているはずです。私ぐらいの棋力では「少なくとも大差ではない」「勝負形である」というのを結論としたいです。実戦ではこの後、先手と後手のどちらにもチャンスの局面があったと思いますが、最後に後手の私が、自玉の詰み筋を見えていなくて敗北となりました。

形勢判断シリーズ(No. 5)
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