【四間飛車 vs 急戦】山田定跡の基本手順と将棋ソフト「技巧」による解析結果(2)~定跡の結論を覆す可能性~

山田定跡(対四間飛車急戦)

四間飛車の定跡を将棋ソフトを使って研究しています。

対四間飛車の急戦定跡である山田定跡です。山田定跡の△5四歩型は以前の記事で研究しました。今回は△6四歩型の山田定跡を将棋ソフト「技巧」で研究します。

居飛車良しと結論付けられている仕掛けですが、四間飛車側に有力な変化が発見されました。定跡の結論を覆す可能性があります。

四間飛車:山田定跡(△6四歩型)の基本手順

初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲6八玉△9四歩▲9六歩△7二銀▲7八玉△3二銀▲5八金右△6二玉▲5六歩△7一玉▲6八銀△5二金左▲2五歩△3三角▲3六歩△8二玉▲5七銀左△6四歩(図1)が対四間飛車(△6四歩型)の急戦の基本図です。

四間飛車対急戦(△6四歩型)の基本図

基本図から▲3五歩(図2)と仕掛けるのが山田定跡の仕掛けです。図2での将棋ソフト「技巧」の評価値は23で、形勢判断は互角です。

山田定跡の仕掛け

図2から△3五同歩▲4六銀△3六歩▲3五銀△4五歩▲3三角成△同銀▲8八角△5四角(図3)が山田定跡の定跡手順です。図3の△5四角が打てるのが△6四歩型のメリットで、△5四歩型では打てない角です。図3の技巧の評価値は34で、形勢判断は互角です。

角打ちの好手

図3から▲2六飛△1二香▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△2八歩▲同飛△4六歩▲同歩△3七歩成▲同銀△2七銀▲4八飛(図4)までが山田定跡の定跡手順です。図4の技巧の評価値は350で、先手優勢となります。

山田定跡の結果図

上記の山田定跡の基本手順は「四間飛車の急所2(藤井猛著)」を参考にしています。図4の形勢判断は定跡書でも先手良しなのですが、実戦的には大変というのがプロ棋士の評価です。


四間飛車の急所2 急戦大全(上)(藤井猛著)

将棋ソフト「技巧」による山田定跡の解析

四間飛車(山田定跡2)のソフト解析結果

山田定跡と将棋ソフト「技巧」の読み筋が、図2の仕掛け以降で異なるのは、

①9手目▲8八角(技巧の推奨手は▲7七角。以下括弧内が技巧の読み筋)
②10手目△5四角(△2二角)
③11手目▲2六飛(▲6八金上)
④12手目△1二香(△7六角)
⑤20手目△4六歩(△3七歩成)
⑥22手目△3七歩成(△同飛)
⑦24手目△2七銀(△2七歩)

の計7手です。定跡とソフトで異なる手が、かなり多いという印象です。

変化手順が多いので、本記事では前半の①~④の変化について研究します。

①9手目▲7七角の変化

山田定跡の変化図1

①9手目▲7七角(変化図1)以下は、△2二角▲2四歩△同歩▲6八金上△7四歩▲2四銀△同銀▲同飛△7七角成▲同桂△2二歩(変化図2)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。変化図2での技巧の評価値は165で、先手がやや指しやすいです。

このような手順で後手から角交換されると、▲8八角ではなく▲7七角と打った手が生きてきます。途中の△2二角もかなり指しづらそうな手ですが、先手の居飛車側に有効な手が少なく、結局▲2四歩から仕掛けることになります。

山田定跡の変化図2

②10手目△2二角の変化

山田定跡の変化図3

②10手目△2二角(変化図3)以下は、▲2四歩△同歩▲5五歩△4三金▲2四銀△同銀▲同飛△3四銀(変化図4)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。△2二角は銀の裏に角を打つので、指しづらそうな手に見えます。先手は▲5五歩と角道を止めて、後手が打った角を負担にさせる指し方です。

変化図4の技巧の評価値は214で、先手がやや優勢です。後手だけ持ち駒の銀を受けに手放している損が大きいのだと思います。

山田定跡の変化図4

③11手目▲6八金上の変化

山田定跡の変化図5

③11手目▲6八金上(変化図5)以下、△7六角▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△2二歩(変化図6)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順の一例です。変化図6の技巧の評価値は9で、形勢判断はほぼ互角です。

山田定跡の定跡手順では先手優勢となるので、あえて③11手目▲6八金上を選んだのに互角では、先手不満だと思います。▲6八金上は有効な手待ちではないようです。

山田定跡の変化図6

④12手目△7六角の変化

山田定跡の変化図7

④12手目△7六角(変化図7)以下は、▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△2二歩▲3四歩△2三銀▲2六飛△3四銀▲3六飛△3三歩(変化図8)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。変化図8の評価値は-178で、後手がやや指しやすいです。

山田定跡の定跡手順では先手優勢となるので、④12手目△7六角を選んで後手が指しやすくなるなら、従来の定跡の結論を覆す可能性があります。

△7六角自体は歩を取って自然な手です。変化図8では後手の四間飛側だけが銀を手放していますが、後手が2歩得という主張もあります。△3三歩で先手の角の働きが弱くなっていることもあり、後手の四間飛車側が十分に戦えそうな局面に見えます。

山田定跡の変化図8

まとめると、④12手目△7六角の変化の結論が最も重要です。その結論次第で、①9手目▲7七角、②10手目△2二角、③11手目▲6八金上の評価が変わります。

④12手目△7六角の変化で後手が指しやすくなるなら、従来の山田定跡の結論を覆します。

④12手目△7六角で後手が指しやすくなる場合

①9手目▲7七角、③11手目▲6八金上は有力です。変化図8(評価値-178)を選ぶよりも、変化図2(評価値165)や変化図6(評価値9)を選んだ方が良いからです。

②10手目△2二角は疑問手です。変化図4(評価値214)を選ぶよりも、変化図6(評価値9)や変化図8(評価値-178)を選んだ方が良いからです。

④12手目△7六角よりも定跡手順の△1二香が勝る場合

①9手目▲7七角の変化は有力で、先手がやや指しやすくなります。しかし、定跡手順と比べて勝るかどうかは精査が必要です。

②10手目△2二角の変化は先手やや優勢となります。ただし、定跡手順でも先手優勢となるので、△2二角が疑問手かどうかは精査が必要です。

③11手目▲6八金上の変化は、ほぼ互角となるので先手不満です。

まとめ

四間飛車の△6四歩型に対する山田定跡の仕掛けは、定跡手順と将棋ソフト「技巧」の推奨手が異なることが多く、研究の余地がまだまだありそうです。

④12手目△7六角の変化が重要で、後手良しになるなら定跡の結論が覆ることになります。

⑤20手目△3七歩成、⑥22手目△同飛、⑦△2七歩の変化については、次回の記事で研究する予定です。


四間飛車の急所2 急戦大全(上)(藤井猛著)