四間飛車の定跡を将棋ソフト「技巧」を使って研究しています。
対四間飛車急戦の鷺宮定跡の続きで、四間飛車の△1二香型に対する仕掛けです。
△1二香型もいくつかのパターンに分かれ、前回の記事では△1二香・△4三銀型を調べましたが、今回の記事では△1二香・△5四歩型を研究します。
従来の定跡手順の結論は千日手でしたが、今回の研究によって先手の居飛車の打開手段が発見されました。
四間飛車:鷺宮定跡(△1二香・△5四歩型)の基本手順
初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲6八玉△9四歩▲9六歩△7二銀▲7八玉△3二銀▲5八金右△6二玉▲5六歩△7一玉▲6八銀△5二金左▲2五歩△3三角▲3六歩△8二玉▲5七銀左△1二香(図1)が対四間飛車(△1二香型)の急戦の基本図です。
図1から▲3八飛△5四歩▲3五歩(図2)が、△1二香・△5四歩型の四間飛車に対する鷺宮定跡の仕掛けです。
図2から△3五同歩▲4六銀△4五歩▲3三角成△同銀▲3五銀△6四角(図3)が鷺宮定跡の定跡手順です。
△1二香・△5四歩型では、図3の△6四角が狙いの角打ちです。
図3から▲3四歩△2二銀▲2八角△同角成▲同飛△6四角▲3七角△5三角▲2六角△6四角(図4)と進むのが定跡手順です。
以下、先手の居飛車は▲3七角→▲2六角→▲3七角の往復を繰り返し、後手の四間飛車も△3三角→△6四角→△5三角の往復を繰り返すと千日手となります。
千日手は先手が打開すべきという共通認識があるので、図4になれば後手の四間飛車が十分というのが定跡の結論です。
上記の鷺宮定跡の基本手順は「四間飛車の急所2(藤井猛著)」を参考にしています。定跡手順の解説や変化手順が非常に詳しく書かれています。
将棋ソフト「技巧」による鷺宮定跡の解析
図2の仕掛け(4手目▲3五歩)から、将棋ソフト「技巧」の評価値はほぼ互角で推移しています。一時的にややマイナスが続く範囲もありますが、千日手の手順に入ってからは評価値はゼロになります。
評価値ゼロというのは、千日手の場合に将棋ソフトが示す値です。
鷺宮定跡と将棋ソフト「技巧」の読み筋が、図2の仕掛け以降で異なるのは、
①13手目△2二銀(技巧の推奨手は△1九角成。以下括弧内が技巧の読み筋)
の1手のみです。技巧の推奨手順は、鷺宮定跡の定跡手順とほぼ一致することが分かります。
そうなると、技巧で検討すべき内容がほとんどなくなってしまうので、今回は先手の居飛車の打開手段について研究します。定跡書「四間飛車の急所2(藤井猛著)」では、
②12手目▲2四歩(定跡書と技巧の推奨手は共通して▲3四歩)
③14手目▲3七角(定跡書と技巧の推奨手は共通して▲2八角)
の2つの変化手順が示されており、いずれも先手の居飛車が上手くいかないとされていますが、これらの変化を技巧で確認してみます。
①13手目△1九角成の変化(定跡では△2二銀)
①13手目△1九角成(変化図1)以下、▲3三歩成△同桂▲2四銀△3七歩▲同飛△同馬▲同桂△2四歩▲3四歩△3二歩▲3三歩成△同歩(変化図2)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。変化図2の評価値は94で、形勢はほぼ互角です。
▲3四歩の銀取りを放置するのもすごいですが、その直後の▲2四銀のタダ捨てもすごい手です。派手な手の応酬になりますが、変化図2まで進むとバランスが取れているようです。
形勢判断の要素としては、
・駒の損得:「先手の角桂 vs 後手の飛車香」以外は同じです。駒の損得はほぼないです。
・玉の堅さ:「船囲い vs 美濃囲い」で後手が勝ります。
・駒の効率:後手の△4二飛と△1二香の働きが悪いです。
・手番:先手
ということで、互いに主張点があってほぼ互角になっています。
②12手目▲2四歩の変化(定跡書と技巧の推奨手は▲3四歩)
②12手目▲2四歩(変化図3)以下、△1九角成▲2三歩成△2九馬▲3三と△同桂▲3六飛△1八馬▲2六飛△2五歩▲1六飛△1四歩(変化図4)が、将棋ソフト「技巧」の推奨手順の一例です。変化図4の評価値は-26で、こうなれば形勢はほぼ互角なので先手も戦えます。
定跡書「四間飛車の急所2(藤井猛著)」で指摘されているのは、②12手目▲2四歩に対して△3七歩▲同銀△2四銀▲同銀△同歩の変化で、後手が指せると書かれています。
しかし、②12手目▲2四歩△3七歩に対して▲同桂△2四銀▲同銀△同歩▲6五銀(変化図5)と進むと、変化図5の技巧の評価値は162で、むしろ先手がやや指せています。
変化図5からは△5三角や△2七銀が有力ですが、いずれも技巧推奨手順だと評価値がプラスのまま指し手が続きます。
したがって、定跡書の結論とは異なり、②12手目▲2四歩は有力です。にもかかわらず、技巧は12手目▲3四歩を最善としているのが面白いところです。将棋ソフトの演算能力にも限界がありますし、精度の問題だと思います。
③14手目▲3七角(定跡書と技巧の推奨手は▲2八角)
③14手目▲3七角(変化図6)以下、△5三角▲2八飛△3三歩▲同歩成△同銀▲5五歩△4三金▲5四歩△同金(変化図7)が、将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。変化図7の評価値は-334で、形勢は後手優勢となります。
上記の手順中で△3三歩の合わせの歩が好手で、後手良しとなるのは定跡書「四間飛車の急所2(藤井猛著)」の結論と一致します。
したがって、③14手目▲3七角は疑問手で、先手の居飛車としては定跡通りに千日手を選ぶしかないようです。
まとめると、①13手目△1九角成は後手の四間飛車の変化として有力で、ほぼ互角です。
②12手目▲2四歩は先手の居飛車の変化として有力で、ほぼ互角です。この部分は、定跡書の結論を覆している可能性があります。
③14手目▲3七角は疑問手で、後手優勢となります。
鷺宮定跡(△1二香・△5四歩型)のまとめ
鷺宮定跡の△1二香・△5四歩型では、互角に近い変化が多くなります。
従来の定跡では互いに最善を尽くすと千日手になり、先手の居飛車の打開は難しいというのが結論でした。
しかし、②12手目▲2四歩を選べば、居飛車が打開できる可能性があります。
打開できたとしてもほぼ互角なので、四間飛車を簡単に潰せるわけではありませんが、定跡の結論は覆している可能性があります。