将棋戦法大事典(居飛車編)で分類している戦法「6手目△9四歩」(本記事と同じ内容)を更新しました。
先日のタイトル戦、王位戦七番勝負第6局(▲木村一基八段 vs △羽生善治王位)で現れた指し方です。これまでのタイトル戦でも何度か指されており、トッププロの間でも有力な作戦と考えられています。
6手目△9四歩のタイトル戦
2016年9月12日:王位戦⑥(▲木村一基八段vs△羽生善治王位)(角換わり)
2016年8月1日:棋聖戦⑤(▲永瀬拓矢六段vs△羽生善治棋聖)(一手損角換わり)
2015年11月19日:竜王戦④(▲糸谷哲郎竜王vs△渡辺明棋王)(陽動中飛車)
6手目△9四歩のタイトル戦以外の棋譜
2016年5月19日:竜王戦(▲阿部健治郎vs△郷田真隆)(横歩取り)
6手目△9四歩について
2013年頃から対局数が増えている手で、2015年11月の時点で、プロの実戦例が51局ある有力な作戦です。トップ棋士が好んで採用している高度な作戦と言えると思います。
6手目△9四歩に対する次の手として、①▲9六歩、②▲2五歩、③▲6八銀がプロ公式戦で多く指されています。
①▲9六歩なら後手の選択によって角換わり、一手損角換わり、横歩取りのいずれかの戦型になります。後手の注文で、早めに9筋の端歩を突き合った形になることが狙いです。
②▲2五歩は▲2五歩△8五歩▲7七角の順で角換わりになりやすく、先手が飛車先の▲2五歩の形を決めていることが後手の主張です。将来的な▲2五桂の筋がなくなります。
また、▲2五歩△8五歩▲2四歩の順で相掛かりになる場合もあります。
③▲6八銀は矢倉模様です。相矢倉になると早めの△9四歩が甘くなる可能性があり、後手がやや損だと見られているようです。ただし、戦型を矢倉に誘導できることや、力戦調の将棋になりやすいことが後手の主張です。
6手目△9四歩は先手の応手によって、②▲2五歩から角換わりや相掛かりになる可能性があり、③▲6八銀から矢倉模様になる可能性もあります。すなわち、先手に角換わりにされても相掛かりにされても矢倉にされても構わないという指し方です。①▲9六歩の場合は後手に戦型の選択権がありますが、最初に戦型の選択権を相手に渡しているのは後手の方です。
また、いずれの場合も9筋の関係で、通常の定跡形とは少し異なる形になりやすく、やや力戦の要素があります。
これらの点から、6手目△9四歩を指す棋士というのは、相居飛車の経験が豊富で、相居飛車のどの戦型でも指しこなせるタイプが多くなります。
羽生善治さん、渡辺明さん、郷田真隆さん、行方尚史さんなどトップ棋士が採用しているのもこれらの理由を考えると納得できます。
7手目▲3八銀について
2016年9月12日の王位戦五番勝負第6局(▲木村一基八段 vs △羽生善治王位)で指された一手です。
6手目△9四歩に対して、この7手目▲3八銀は前例がほとんどありません。
王位戦棋譜中継のコメントによると、7手目▲3八銀の前例は一局のみ。2016年7月の順位戦B級1組で、先手の糸谷哲郎八段が後手の木村一基八段に対して指したそうです。すなわち、6手目△9四歩に対する7手目▲3八銀は糸谷哲郎八段の新手ということになります。
7手目▲3八銀の狙いは何なのでしょうか?
▲木村vs△羽生戦では、▲3八銀から角換わりに進んでいます。この場合、7手目▲2五歩と比較すると、先手は▲2五歩を決めなくていいというメリットがあります。
すぐ後で先手は▲9六歩と受けたので、9筋の突き合いがある普通の角換わりになりました。すると、最近の角換わり腰掛け銀でよく見かける△9四歩省略型の変化を消している意味があります。これは、後手の作戦の幅をせまくしているので先手のメリットです。
それなら、7手目▲9六歩と普通に端歩を受けても同じように思えるのですが、このタイミングで端歩を受けると、一手損角換わりや横歩取りにされる恐れがあります。これらの戦型では、9筋の端歩の突き合いが後手にとって有利になる変化があります。
このように、7手目▲3八銀で角換わりになるなら、6手目△9四歩の狙いをはずすことができるので有力だと思います。