ツツカナ新手(角換わり腰掛け銀)がテーマの記事です。
棋譜でーたべーすが未だにアクセスできない状態です。
しかし、タイトル戦の番勝負(一部)、NHK杯、叡王戦は公式サイトから棋譜が公開されていますので、これらの棋譜を優先する方針で「将棋戦法大事典(居飛車編、振り飛車編、対振り飛車編、相振り飛車編)」を少しずつ充実させようと思っています。
というわけで、とりあえずNHK杯戦から手を付けてみます。2016年度の第66回NHK杯テレビ将棋トーナメントの開幕局▲船江恒平vs△近藤誠也戦です。
2015年12月にプロデビューしたばかりの近藤誠也四段が、ツツカナ新手をプロ公式戦で初めて指した船江恒平五段に対して、逆にツツカナ新手を本家にぶつけるという面白い将棋になりました。
このページの目次
ツツカナ新手(角換わり腰掛け銀)とは?
角換わり腰掛け銀で、左上図の△3三銀(4二から)がツツカナ新手です。
通常の角換わり腰掛け銀同型(右上図)と異なるのは、6筋の突き捨てが入っている点です。
どうして、6筋の突き捨てが入っているかというと、先手の▲2五歩に対してすぐに△3三銀と受けずに、先に△6五歩と突いたためです(下図)。すなわち、△6五歩▲同歩△3三銀(左上図)の3手一組の手順がツツカナ新手です。(ただし、△6五歩▲同歩△7五歩の攻め合いは昔からあったので、厳密に言うとツツカナ新手は△3三銀です。)
ツツカナ新手は、角換わり腰掛け銀同型に非常に近く、実際に同型からの変化と合流する場合もあります。しかし、同型を経由しない変化もあるので、「角換わり腰掛け銀同型」と呼べるかどうかは微妙なところです。
ツツカナ新手の1号局は、2013年の第71期順位戦C級1組▲阿部健治郎vs△船江恒平戦です。その時の進行は、△3三銀以下、▲4五歩△同歩▲3五歩(下図)で、▲船江恒平vs△近藤誠也戦も同じように進みました。
ツツカナ新手のメリット ~富岡流の回避~
ツツカナ新手の最大のメリットは、角換わり腰掛け銀同型・富岡流を回避できることです。別の言い方をすると、富岡流を回避するための後手番の選択肢の一つとしてツツカナ新手があります。
富岡流は現在先手勝ちの結論が出ているので、後手は富岡流を回避する必要があります。
どうして、ツツカナ新手では富岡流を回避できるのでしょうか?
まずは、そもそも富岡流とは何かを説明します。
富岡流では角換わり腰掛け銀同型(左下図)から、▲4五歩△同歩▲2四歩△同歩▲1五歩△同歩▲7五歩△同歩▲3五歩(右下図)と進みます。歩の突き捨ての順番が「4筋→2筋→1筋→7筋→3筋」となっているのがポイントです。
右上図以下、△4四銀▲2四飛△2三歩▲2九飛△6三金▲1二歩△同香▲3四歩△3八角▲3九飛△2七角成▲1一角△2八馬▲4四角成△3九馬▲2二歩△同金▲3三銀(下図)が富岡流です。長い手順ですが、最後の▲2二歩△同金▲3三銀が2009年に富岡英作さんが指した新手順です。富岡流は初登場から7年が経った今なお、角換わり腰掛け銀同型における先手勝ちの決定版として残っており、後手は富岡流を回避する必要があります。富岡流は角換わり腰掛け銀の定跡において極めて重要な位置付けであり、富岡英作さんは富岡流の発見の功績で2015年度の升田幸三賞を受賞しています。
さて、本題に戻りますが、ツツカナ新手との関連性において、富岡流の手順中の▲7五歩の桂頭攻めがポイントとなります。2筋の歩交換後に▲7四歩の桂取りが厳しい狙いとして残るので、後手は△6三金と上がって受ける必要があります。すると、守りの金が玉から離れてしまうので、富岡流の手順で後手玉は寄せられてしまいます。
しかし、あらかじめ△6五歩の突き捨てが入っていると、7筋の桂頭攻めに対して△6五桂と跳ねることができます。これがツツカナ新手の狙いで、▲7五歩を指させないことにより富岡流を回避できます。また、いつでも△6五桂と跳ねて、攻め合いの展開にしやすいというメリットがあります。
ツツカナ新手と歩の突き捨ての順番「42173」
富岡流の手順中で、もし△6五歩の突き捨てを入れることができれば、ツツカナ新手の場合と同じように富岡流を回避できます。
しかし、角換わり腰掛け銀同型(下図)から「4筋→2筋→1筋→7筋→3筋」の順番で歩を突き捨てられると、結論としては後手が△6五歩の突き捨てを入れるタイミングがありません。だから、ツツカナ新手では△3三銀と上がる前のタイミングで△6五歩を入れるわけです。(「42173」の順番は覚えておいて損はないです。)
もし、「42173」ではなく、「4筋→3筋」の順番で歩を突き捨てると、その瞬間に△6五歩(下図)が入る可能性があります。▲6五同歩だとツツカナ新手に合流します。
ちなみに、昔の定跡では「4筋→3筋」の順番でした。例えば、『羽生の頭脳・角換わり最前線(1993年)』では、「4筋→3筋」の順番で歩を突き捨てています。
後手の立場からすると、先手が「4筋→3筋」の順番を選んだ場合に、ツツカナ新手の手順に合流させることができます。(ただし、▲6五同歩以外の応手もありえます)
ツツカナ新手の2つの課題
6筋の歩の突き捨てのタイミングが早いので、▲6四歩(左下図)の変化を先手に与えます。以下、一例として△7五歩▲同歩△6五桂▲同銀△同銀▲7四桂△9二飛▲8三角(右下図)から後手の飛車をいじめる順があります。
また、そもそも▲4五歩△同歩▲3五歩(下図)の変化で後手が互角以上に戦えるかどうかも不明です。6筋の突き捨てが入っていると攻め合いになるので、後手が一方的に攻められる展開は避けられますが、先手がやや押し気味というプロ棋士の意見もあります。
プロの公式戦で現れていない手順も色々とありそうです。例えば、冒頭で述べた2016年NHK杯▲船江恒平vs△近藤誠也戦では、上図以下△8六歩に対して▲同銀が意外な一手だったようです。対して△3五歩や△4四角が有力のようですが、本譜は後者を選び、△4四角▲7七角△6六歩▲4五桂(図)と進みます。どうやらこの辺りでは、まだ形勢不明のようです。
現在、角換わり腰掛け銀は△9四歩省略型、▲4八金型などの別の形が流行っているようです。しかし、有力な手順が発見されればツツカナ新手が再注目される可能性もあります。
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