王位戦七番勝負第6局(木村一基八段 vs 羽生善治王位)の感想

羽生木村(感想戦の様子)

2016年9月12日~13日に行われた王位戦七番勝負第6局(▲木村一基八段 vs △羽生善治王位)の感想です。

棋譜:2016年9月12日~13日 王位戦七番勝負第6局 ▲木村一基八段 vs △羽生善治王位
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ここまで挑戦者の木村一基八段の3勝2敗。木村一基八段にとっては悲願の初タイトルがかかった一局で、羽生善治王位にとってはカド番となります。

本局でまず面白かったのは序盤戦です。

タイトル戦のカド番になると、どんな戦法が飛んでくるかわからないのが羽生善治王位です。王位の前回のタイトル戦(永瀬拓矢六段との棋聖戦)では、カド番に追い込まれた第4局はなんと中原流急戦矢倉という20年以上昔の戦法を採用、タイトル防衛を決めた第5局では6手目△9四歩からの一手損角換わりを採用しています。

そして本局も6手目△9四歩。

6手目△9四歩

この手は、先手の応手と互いの駆け引きによって、矢倉も角換わりも一手損角換わりも横歩取りも相掛かりもあるという、非常に含みの多い一手です。9筋の端歩の関係で、定跡形から微妙にずれた形になり、相居飛車の総合力を試される指し方です。

対して先手の木村一基八段は7手目▲3八銀。

7手目▲3八銀

これまでの実戦例は1局のみで、糸谷哲郎八段 vs 木村一基八段の順位戦で、木村八段が糸谷八段に指された一手らしいです。

このあと普通の角換わりに戻ります。9筋の歩を早めに突き合っていますが、角換わりではめずらしくはなく普通です。ただし、最近よくある△9四歩省略型の変化を消していることが、先手にとってややプラスかもしれないです。

そこから、今度は後手がめずらしい形(というか最新形)に組みます。

角換わり△6二金△8一飛△4二玉型

角換わりの△6二金△8一飛△4二玉型が最近では注目されていて、有名なところでは2016年3月のNHK杯決勝の大舞台(▲村山慈明八段 vs △千田翔太)で後手の千田さんが△4二玉型で△6五歩と仕掛けた対局があります。

本局に話を戻すと、先手は▲4五歩から4筋位取り、後手はなんと右玉に変化しました。

4筋位取り vs 右玉

後手玉は一度△4二玉としています。△4二玉→△5二玉→△6一玉→△7二玉のルートなので、通常の右玉と比べて2手損しています。しかし、右玉はもともと待機戦術なので、手損は気にならないということでしょう。

そういえば、永瀬六段との棋聖戦最終局も、右玉に変化する展開でした。最近は流行っているんですね。右玉側としては、相手を腰掛け銀に決めさせているメリットがありそうです。右玉対策の記事で書いたように、右玉対策には腰掛け銀以外の形も有力そうです。

下図から中盤が始まるので、ここまでが序盤戦です。

中盤戦のスタート

序盤の駆け引きの流れは、

6手目△9四歩 → 7手目▲3八銀 → 普通の角換わり腰掛け銀模様 → △6二金△8一飛△4二玉型 → ▲4五歩で4筋位取り → 後手右玉

という感じで、非常に面白かったです。局後に木村一基八段が、「作戦がうまくいっていないような気がしました」と話しているので、後手としては十分な序盤になったのでしょう。

そして、本局で一番話題になったのは、羽生善治王位の中盤での絶妙手です。

中盤戦のポイント

上図から△2五歩▲同桂△4五桂▲5八金(下図)の局面で、次の一手問題で出てくるような決め手があります。

ここで絶妙手がある

△5七桂成。控え室の検討陣も驚きの一手。

本局の決め手

▲5七同角は、△同馬▲同金△4八角の飛車金両取りが厳しすぎます。

▲5七同金は、△4五歩▲2四角△2一飛(参考図)で後手が大優勢です。

参考図

プロの対局では、なかなかこのように綺麗に決まることはないみたいです。△5七桂成から形勢が一気に後手に傾いて、そのまま羽生王位が勝ち切りました。

王位戦七番勝負はとうとう最終局にもつれこみました。羽生王位が防衛するのか、木村八段が初タイトルを手にするのか、次の最終局に注目です。