棋聖戦第1局▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖の感想と将棋ソフト「技巧」による棋譜解析

棋聖戦第1局の両対局者
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棋聖戦第1局▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖戦は、素晴らしい内容だったと思います。

斉藤慎太郎七段はタイトル戦初登場で、羽生善治棋聖にとっては棋聖戦10連覇が懸かったシリーズです。

序盤は互いの駆け引きの結果として、昭和の時代のような古風な将棋になりました。

中盤は攻め合いで非常に激しい展開となり、変化が広い難解な局面が続きます。

本局の一番の見所は終盤戦です。羽生善治棋聖らしい勝負術が盤上に現れ、両者にチャンスのある際どい終盤戦となります。最後までどちらが勝つか全く分からない熱戦で、名局賞の候補にもなりそうな素晴らしい将棋だったと思います。

本記事では、将棋ソフト「技巧」で棋聖戦第1局の棋譜解析をしながら、ポイントの局面を振り返っています。

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棋聖戦:▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖の序盤戦

戦型は相矢倉で後手は急戦を意識した駒組み

戦型は相矢倉

戦型は相矢倉になりました。先手の斎藤慎太郎七段が相矢倉に誘導して、後手の羽生善治棋聖が受けて立った形です。

もともと斎藤慎太郎七段は矢倉を好んで指しています。タイトル戦初登場の初戦で矢倉を選んだのは、得意戦法ということもあるでしょうし、格式が高く伝統ある矢倉戦を選んだという意味合いもあるかもしれません。斎藤慎太郎七段には正統派という印象を強く受けます。

一方で、後手の羽生善治棋聖は急戦を意識した駒組みをしています。△6四歩から△7三桂(図1)のタイミングが早く、いつでも△6五歩からの仕掛けを狙っています。

棋聖戦第1局の棋譜解析(序盤)

将棋ソフト「技巧」の評価値はほぼ互角です。先手が100点ぐらいを中心に推移していますが、評価値で100点というのは互角の範囲内です。

昭和の時代によく指された古風な相矢倉になる

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(昭和の時代の相矢倉)

後手の羽生善治棋聖が△4四歩と角道を止めたことで急戦はなくなりました。持久戦調のじっくりとした相矢倉に進みます。

図2は△2二玉で後手の囲いが完成した局面で、完全に先後同型になっています。▲4七銀▲3七桂型(△6三銀△7三桂型)の同型は、昭和の時代によく指された古風な相矢倉です。

図2から▲4五歩で先手の斎藤慎太郎七段が仕掛けて、中盤戦の戦いが始まります。

棋聖戦第1局の棋譜解析(序盤2)

図2の形勢判断は、将棋ソフト「技巧」によるとほぼ互角です。先後同型なので、手番を握っている先手の方にやや振れているぐらいです。

棋聖戦:▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖の中盤戦

羽生棋聖の期待の歩打ちで、斎藤七段は対応を誤ったか?

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(期待の歩打ち)

▲4五歩の仕掛け以降は、さまざまな変化手順があります。変化が広い難解な中盤戦で、斎藤慎太郎七段の51手目▲2四歩は32分の長考、次の▲3五歩にも21分使っています。

この時点で、斎藤七段は持ち時間の半分以上の2時間21分を使っていて(棋聖戦は持ち時間4時間制)、残り時間が羽生棋聖よりも40分も少なくなっています。この持ち時間の差が、終盤戦で響いてくることになります。

羽生棋聖が期待したのが図3の△6七歩で、▲5七角でも▲6七同金でも大きな利かしになります。

棋聖戦第1局の棋譜解析(中盤)

将棋ソフト「技巧」によると、△6七歩の辺りから評価値に動きがあります。

どうやら技巧は△6七歩に対する▲5七角をあまり評価していないらしく、評価値61→-179で200点以上も後手が良くなっています。技巧の推奨手は▲6七同金です。

羽生棋聖が期待した△6七歩に対して、斎藤七段が対応を誤り、形勢がやや後手に傾いた可能性があります。すなわち、「対戦相手が対応を誤りやすい難しい局面を渡す一手」に羽生棋聖が期待していたわけです。

その目論見通りに斎藤七段が対応を間違えてしまい、後手ペースになったようです。この辺りに羽生棋聖の勝負術の一端がうかがえます。

羽生棋聖の2度の疑問手で逆転

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(羽生棋聖の中盤の疑問手)

△6七歩の好手で一時は後手がペースを握っていましたが、その後で羽生善治棋聖が疑問手を指してしまいます。

図4の△8五歩が一度目の疑問手で、将棋ソフト「技巧」の評価値によると、後手優勢(-357)からほぼ互角(21)まで差が詰まってしまっています。

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(羽生棋聖の二度目の疑問手)

さらに、図5の△6五桂が二度目の疑問手だったようです。技巧の推奨手は△4七金で、それならほぼ互角とのことです。

羽生棋聖の二度の疑問手によって、斎藤七段が優勢で終盤戦に突入します。

棋聖戦第1局の棋譜解析(中盤2)

棋聖戦:▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖の終盤戦

将棋ソフトでも読み切れない難解な終盤戦

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(斎藤七段の疑問手)

終盤戦は非常に難解で、将棋ソフトも読み切れずに手の平を返しているのが驚きです。

たとえば、83手目の▲4四角から90手目の△同玉まで、実戦の進行と技巧の推奨手順はほぼ同じです(3三の地点で歩が先に成るか、桂馬が先に成るかの違いはある)。この間、技巧の推奨手順とほぼ同じなのに、評価値は-439から413に変わっています。後手優勢から先手優勢へと手の平を返しており、ソフトが完全に読み切れていない証拠と言えます。

ニコニコ生放送で表示される解析ソフトはもっと精度が高いのですが、この辺りは互角に近い評価値が続き、どちらが勝ってもおかしくない熱戦だったことが分かります。

図6の▲7七同桂を技巧は疑問手と判定していますが、本当に疑問手だったかどうかは難しいところです。それだけ難しい終盤戦ということです。

ただし、▲7七同桂以下、△7五角▲同歩△8六歩▲同歩△6七歩(図7)が角切りから一転して上手い手渡しです。「終盤の忙しい場面で難しい局面を相手に渡す」という羽生棋聖が土壇場でたびたび見せる勝負術です。ニコ生解説の田村康介七段によると、図7では正確に指せば先手の勝ちがありそうだが、時間がないと勝ち切るのはかなり難しいようです。

斎藤七段は持ち時間を使い切り、△6七歩の局面から1分将棋です。一方で、羽生棋聖は30分以上残しています。

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(終盤の手渡し)

図7の△6七歩以下、斎藤七段は▲4四角から猛攻しますが、形勢に決定的な差がつかない難解な終盤戦がまだ続いています。

棋聖戦第1局の棋譜解析(終盤)

斎藤七段が最終盤での最後のチャンスを逃す

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(最終盤のポイントの局面)

終盤戦は最後までどちらが勝つか分からない展開でしたが、最終盤で斎藤慎太郎七段にチャンスがあったようです。

図8がポイントの局面で、ここで▲4四歩なら先手が優勢だったようです。しかし、▲4四歩の代わりに指した▲5三金が悪手で、一気に逆転してしまいます。

互いに持ち駒が豊富で王手がたくさんかかりますし、攻防手や詰めろ逃れの詰めろが現れやすい局面なので、読み切るのは非常に難しいです。

斎藤七段は持ち時間も残っていなかったので、ミスをするのは仕方がなかったと思います。

棋聖戦第1局▲斉藤慎太郎七段△羽生善治棋聖戦(投了図)

図9が投了図です。盤面の駒が少なく、熱戦だったことがよく分かる投了図だと思います。

角1枚、金3枚、銀3枚、桂馬3枚、歩3枚の後手の持ち駒を、四暗刻単騎の角待ちと言っていた田村康介七段のセンスには脱帽です。

棋聖戦第1局の棋譜解析(終盤2)

棋聖戦第1局のまとめ

棋聖戦第1局の本局は、特に終盤戦が素晴らしい対局だったと思います。

羽生善治棋聖の終盤での手渡しから、斎藤慎太郎七段が決め切れるかどうかというギリギリの勝負になり、最後まで緊迫した将棋になりました。

次の五番勝負第2局の日程は6月17日(土)です。両対局者の将棋はよく噛み合っている印象で、また熱戦になることが期待できそうです。

<棋聖戦五番勝負第1局 ▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖>(flash盤の棋譜)