棋聖戦第2局▲羽生善治棋聖 vs △斉藤慎太郎七段戦は、中盤から終盤にかけて見所が多い熱戦となりました。
序盤は流行の最新形となり、途中から未知の局面に突入します。
中盤は本局の一番の見所です。互いに急所の角を放ち、どちらの角がよく働くかが見物です。攻めるか守るか難しい局面が現れ、読みの力と大局観が試されることになります。そして、ごちゃごちゃした局面での細かな対応の違いで形勢が動いてしまいます。
終盤は、逆転を許さない非常に正確な指し手が目立ちました。
本記事では、将棋ソフト「技巧」を用いて、棋聖戦第2局の棋譜解析をしながら、ポイントとなった局面を振り返っています。
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棋聖戦:▲羽生善治棋聖 vs △斉藤慎太郎七段の序盤戦
戦型は角換わりの最新形に
戦型は角換わりの最新形です。
先手の羽生善治棋聖は、流行している▲4八金・▲2九飛型を選択し、後手の斎藤慎太郎七段も△6二金・△8一飛型の同型で追随しています。
それ以外の駒組みのポイントとしては、最近では△4二銀ではなく△2二銀と上がる形が主流になっていることです。▲5五角の筋を警戒するとともに、△3一玉→△2二玉まで囲うのではなく、△4二玉型で戦う展開も視野に入れています。
(初手から31手目▲5六銀までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」の棋譜解析によると、形勢は全くの互角です。
斎藤慎太郎七段は右玉の構想。直後に未知の局面へ突入
上図は4二の玉を△5二玉と動かした局面です。後手の斎藤慎太郎七段が、攻め合いの方針ではなく、手待ちをしながら右玉の構想であることがはっきりします。
△5二玉の一手前までは、プロの実戦例が9局あります。この△5二玉で実戦例が2局に減り、次の▲8八玉からは未知の局面になります。
後手は右玉に組み換えながら手待ちをして、先手が打開を狙う展開となります。
このように、腰掛け銀から右玉に組み換える将棋は最近では増えてきており、流行最先端の戦型となっています。
(32手目△3三銀から50手目△5一飛までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」の評価値は、-200から200の範囲内でほぼ互角です。
羽生善治棋聖の自陣角から中盤戦に突入
上図の▲4七角の自陣角が、羽生善治棋聖の決断の一手です。
一手前に▲9八香と上がってから▲4七角と打つのが独特の間合いの測り方です。
ところが、将棋ソフト「技巧」は、一手前の▲9八香のところですぐに▲4七角と打つ手を推奨しています。また、▲9八香と上がった後は、▲4七角ではなく素直に▲9九玉と潜る手を推奨しています。
すなわち、将棋ソフトの方が自然な手順を示しており、羽生善治棋聖の方が凝った手を指しているということになります。この辺りの違いは面白いです。
(51手目▲9八香から62手目△7四同銀までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフトと羽生善治棋聖の指し手は違いますが、形勢としてはほぼ互角です。将棋ソフトの推奨手を外したからといって、すぐに不利になるというわけではありません。
▲4七角の自陣角から将棋は中盤戦に突入します。
棋聖戦:▲羽生善治棋聖 vs △斉藤慎太郎七段の中盤戦
中盤戦の難所を迎える
上図の辺りで中盤戦の難所を迎えます。斎藤慎太郎七段は感想戦で「ここからわからなかった」と話しています。
△4四同銀は▲5二歩が気になるので、実戦は△5四銀でしたが、将棋ソフト「技巧」の推奨手は△4七歩の叩きです。
この辺りは感想戦でも熱心に検討されましたが、なかなか結論が出ない難解な中盤戦となっています。
(63手目▲4四歩から71手目▲4五角までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」で棋譜解析すると、63手目▲4四歩、64手目△5四銀、66手目△6三銀、67手目▲7五歩は、実戦の進行と技巧の推奨手が異なっています。
しかし、形勢としてはほぼ互角で、局面のバランスを保っています。
急所の角打ちから局面が動く
上図の辺りが中盤戦の山場の一つだったと思います。
後手の斎藤慎太郎七段が急所の角を打った局面ですが、どうやらこの辺りから先手の羽生善治棋聖が徐々に優勢になっているようです。
△7四角は△9五歩の端攻めを狙っており、厳しい一手に見えるのですが、この角打ちが疑問手だったのでしょうか?
(72手目△7四角から86手目△9六歩までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」は、72手目△7四角~74手目△9五歩の攻めよりも、△4二歩の受けを推奨しています。
74手目△9五歩の後は、しばらく先手も後手も技巧の推奨手順の通りに進むのですが、79手目▲7五金のところでは既に評価値が約500で、先手がはっきり優勢となっています。
後手の斎藤慎太郎七段が悪くなったのは、図5で△7四角~△9五歩と攻めた方針が問題だった可能性はあります。もしそうでなければ、図4あたりが問題だったことになるでしょう。
本局の明暗を分けた2つの疑問手で斎藤七段が劣勢に
上図は中盤戦から終盤戦に突入するあたりの局面です。
本局で明暗を分けたのはこの辺りです。非常に難しい局面で、両者にチャンスがあったと思いますが、最終的には先手の羽生善治棋聖が力を見せています。
(87手目▲2一とから95手目▲8七歩までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」の棋譜解析の結果によると、最初に大きな疑問手を指したのが後手の斎藤慎太郎七段で、図6での△8六歩がその疑問手です。
技巧の推奨手は△9五銀ですが、△8六歩の一手で評価値が82から477まで大きく先手優勢に振れています。
しかし、直後の羽生善治棋聖の▲8六同歩も疑問手で、今度は評価値が477から177まで大きく後手の方に傾いています。ここで▲8六同銀なら先手優勢だったようです。
しかし、その後の斎藤慎太郎七段の92手目△8六銀が、また疑問手だったらしく、ここでは△8七歩の叩きを入れた方が良かったようです。
両者とも最善を逃していた可能性が高いですが、図6での△8六歩、92手目△8六銀の2度の疑問手を指してしまった斎藤慎太郎七段が、最終的には劣勢になってしまいました。
棋聖戦:▲羽生善治棋聖 vs △斉藤慎太郎七段の終盤戦
攻めに活路を見出す斎藤慎太郎七段の勝負手
劣勢で終盤を迎えてしまった斎藤慎太郎七段としては、どこかで逆転を狙った勝負手を放つ必要があります。
上図の96手目△9七歩成は勝負手の一つで、攻めに活路を見出そうとしています。技巧の評価値は悪くなりますが、攻めないと逆転のチャンスは生まれないということでしょう。
(96手目△9七歩成から106手目△5四香までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
勝負手は正確に対応されると悪くなるという性質の手なので、評価値が1000以上になってしまったのも仕方のないことです。
ここからは、羽生善治棋聖の正確な差し手が目立ちます。将棋ソフト「技巧」との一致率が高いですし、一致しない手でも評価値が下がっているわけではないので、有力な手が複数あるということだと思います。
最終盤で選択肢がある局面でも冷静な羽生善治棋聖
既に先手の羽生善治棋聖がどのように決めるかという局面になっています。
上図では▲7三同桂成と踏み込んでも勝ちですが、冷静に▲5四角と香車を取って勝勢を確実なものにしています。
(107手目▲6三桂成から117手目▲6八玉までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
ソフトの評価値を解析していると、終盤戦では羽生善治棋聖と技巧の指し手の一致率がかなり高いことが分かります。
そして、指し手が一致していないのに、急激に評価値が上がることもあります。
たとえば、109手目▲7三香成の後で、評価値が1767から2488に急激に上がっています。おそらく、技巧の推奨手よりも羽生善治棋聖の指し手の方が勝っているからです。
逆に、ソフトの踏み込みが素晴らしいこともあり、図8での▲7三同桂成のような手は、リスクを恐れないソフトらしい決め方と言えます。
羽生善治棋聖が勝利して2勝目を上げる
上図では後手玉に即詰みがあります。
▲7三桂成から詰まして、先手の羽生善治棋聖の勝ちとなりました。
投了図以下は、△8三同玉▲7二角成△9三玉▲8四金△9二玉▲8三金△9一玉▲8二金までの即詰みです。
(118手目△9七飛成から投了図までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
棋聖戦第2局のまとめ
棋聖戦第2局となる本局は、中盤戦が一番の見所でした。
非常に難解な局面が続き、読みの正確さと大局観が試される展開で、地力に勝る羽生善治棋聖がねじ伏せたという印象です。
終盤では羽生善治棋聖の正確な指し手が目立ち、斎藤慎太郎七段の勝負手にもチャンスを与えることなく、見事に勝ち切っています。
これで、棋聖戦五番勝負は羽生善治棋聖の2連勝となりました。
次の第3局は羽生善治棋聖にとっては、棋聖戦10連覇がかかった将棋になります。斎藤慎太郎七段にとっては角番で、まずは1局返したいところです。
第3局の日程は、7月1日(土)です。両対局者による熱戦を期待したいと思います。
<棋聖戦五番勝負第1局 ▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖>(flash盤の棋譜)
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