藤井聡太四段の24連勝はなるか? 叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段戦のまとめ

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(対局直前の両対局者の様子)

第3期叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段戦です。(上の画像は対局開始直前の両対局者の様子)

今年から叡王戦がタイトル戦に格上げされ、記念すべき年の開幕局です。
その開幕局には、最近将棋界の内外で注目されている藤井聡太四段が登場しています。

加藤一二三さん、谷川浩司さん、羽生善治さん、渡辺明さんに続く5人目の中学生棋士として注目を集めているのが藤井聡太四段です。

ただし、藤井聡太四段が注目されているのは中学生棋士というだけではなく、既にプロ将棋界で結果を残しているからです。本対局までに、公式戦無敗でプロデビュー23連勝を記録しており、歴代最多連勝記録の28連勝を狙える位置まで来ています。

まさしく天才と呼ぶべき藤井聡太四段が、どのような将棋を指すのか非常に気になります。

ニコニコ生放送の解説は糸谷哲郎八段、聞き手は山口恵梨子女流二段です。

ニコニコ生放送:2017年6月10日 叡王戦開幕局 梶浦宏孝四段 vs 藤井聡太四段

棋譜:2017年6月10日 叡王戦開幕局 梶浦宏孝四段 vs 藤井聡太四段

このページの目次

叡王戦:▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段の序盤

叡王戦:▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段の中盤

叡王戦:▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段の終盤

まとめ

叡王戦:▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段の序盤

初手からの指し手:▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲7七角△3四歩▲6八銀△3二金▲7八金△7七角成(下図)

序盤はパタパタと手が進みます。

初手から角換わりの定跡通りの進行で、下図で後手の藤井聡太四段が△7七角成と角交換した局面で戦型が角換わりに確定します。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:戦型は角換わり)

本局は、藤井聡太四段の対局ということで非常に注目を集めています。

既に対局が始まっているのにも関わらず、報道陣が対局室に入ってきます。どうやら、対局開始の時に入りきれなかった報道陣が、第2陣として押し寄せているようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(対局中に押し寄せる報道陣)
(藤井聡太四段にカメラを向ける報道陣)

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(対局中に報道陣が現れた時の藤井聡太四段の様子)
(藤井聡太四段の様子)

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(対局中に報道陣が現れた時の梶浦宏孝四段の様子)
(梶浦宏孝四段の様子)

△7七角成からの指し手:▲7七同銀△2二銀▲3八銀△6二銀▲4六歩△4二玉▲4七銀△7四歩▲5八金△6四歩(下図)

何気ない序盤戦ですが細かな工夫や駆け引きが行われています。

たとえば、後手の藤井聡太四段が△6四歩より先に△7四歩を突いているのが、序盤の駒組みにおける一つのポイントです。△7四歩からの早繰り銀を見せることで、先手の梶浦宏孝四段の駒組みを牽制しています。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:△6四歩で角換わり腰掛け銀になる)

上図の△6四歩で、結局は角換わり腰掛け銀に落ち着きます。

しかし、本局の解説者の糸谷哲郎八段によると、先手の梶浦宏孝四段の▲5八金を見て、△6四歩~△6三銀からの腰掛け銀を目指したのではないかということです。

最近は将棋ソフトの影響で▲4八金型の角換わり腰掛け銀が流行っていますが、▲4八金型の腰掛け銀に対しては、△7三銀~△6四銀の早繰り銀が有力のようです。

・先手が▲5八金型 → 後手は△6四歩~△6三銀からの腰掛け銀
・先手が▲4八金型 → 後手は△7三銀~△6四銀からの早繰り銀

というような序盤の駆け引きがあったようです。

先手が▲3六歩~▲3七桂~▲4八金から▲4八金型の陣形を急げば、後手は△7三銀~△6四銀~△7五歩(下図)の早繰り銀で対抗するのが有力です。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:▲4八金型vs早繰り銀の変化図)

上図から▲7五同歩△同銀▲2五歩△8六歩▲同歩△7六歩(下図)が予想手順の一例で、後手が早繰り銀で先攻することができます。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:▲4八金型vs早繰り銀の変化図2)

△6四歩からの指し手:▲3六歩△6三銀▲6八玉△7三桂▲5六銀△6二金▲3七桂△8一飛▲6六歩△3三銀▲7九玉(下図)

序盤の駆け引きの末に、先手の▲5八金型と後手の△6二金型の対抗形になりました。

解説の糸谷哲郎八段によると、▲4八金型と△6二金型の同型だと、現在は先手が指せると考えられているようです。

一方で、▲5八金型と△6二金型の対抗形だと、普通に仕掛け合うような形なら、後手もなかなか指せるというのがプロ棋士の見解のようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:▲5八金型と△6二金型の対抗)

▲7九玉からの指し手:△1四歩▲9六歩△9四歩▲1六歩△5四銀▲4五歩(下図)

両方の端歩を突き合ってから、後手の藤井聡太四段は△5四銀の腰掛け銀に構え、先手の梶浦宏孝四段は▲4五歩で4筋の位を取ります。

下図は序盤の分岐点となる重要な局面で、藤井聡太四段の手が止まります。

今まで両対局者は快調なペースで飛ばしていましたが、この辺りから一気にスローダウンします。これから勝負所を迎えつつあるという雰囲気が画面越しにも伝わってきます。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:▲4五歩で4筋の位を取る)

上図で、先手は次に▲4六角の狙いがあります。たとえば、上図から△3一玉▲4六角△6三銀▲5五銀(下図)となると、次の▲6四銀が受からなくなります。

解説の糸谷哲郎八段によると、上図では△6三銀と引く実戦例が多いようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:▲4六角の狙い筋が上手くいく変化)

先に△6三銀と引いておくと、▲4六角に対しては△5四歩(下図)で▲5五銀の筋を受けることができます。このような理由で、△3一玉よりも△6三銀の方が無難な一手と言えます。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(序盤:▲4六角の狙い筋に対する先受け)

▲4五歩からの指し手:△3一玉▲4六角△6五歩(下図)

藤井聡太四段は実戦例も多く無難な△6三銀ではなく、△3一玉と指しました。しかし、△3一玉には前述のような攻め筋があります。

▲4六角と打たれて大丈夫なのでしょうか?

そう思っていたら△6五歩の仕掛けです。攻め合いを目指す積極的な一手で、一気に中盤戦に突入します。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△6五歩の仕掛けで中盤戦に突入)

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△3一玉を決断する藤井聡太四段)
(少考の後に△3一玉を指した時の藤井聡太四段)

叡王戦:▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段の中盤

△6五歩と仕掛けた直後の将棋ソフト「ponanza」の評価値は-45で、ほぼ互角という形勢判断です。ここからは変化が広く難解な中盤戦で、両対局者の読みの力が問われます。

序盤で差がつかなかったことで、梶浦宏孝四段にとっても、藤井聡太四段にとっても、力を存分に発揮できる将棋になったと思います。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(仕掛けの局面でのponanzaの評価値)

△6五歩からの指し手:▲6五同歩△7五歩▲2五桂(下図)

△7五歩に対して▲6六銀の受けが解説の糸谷哲郎八段の予想手ですが、先手の梶浦宏孝四段が指したのは▲2五桂です。

▲2五桂は△2四銀と受けられて桂馬が質駒になるので、後手の攻めを誘発する可能性があります。将来的に7七の銀がどこかに動いた時に、△6六桂などの筋があります。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(中盤戦:▲2五桂と跳ねた局面)

互いに前傾姿勢で、天井カメラからの映像に頭がかかっています。

梶浦宏孝四段はかなり集中して読みを入れているようで、体を前後にゆすってリズムを取り、読みに没頭しています。

一方で、藤井聡太四段も、梶浦四段よりも動きは少ないですが、ときおり小刻みに体を揺らしたり、盤面をじっと見つめたりしながら読みに集中しています。

体の動きの違いによって、読みのモードのようなものを切り替えているのでしょうか?

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(中盤戦での両対局者の様子)

▲2五桂からの指し手:△2四銀▲6七金右(下図)

梶浦宏孝四段は▲6七金右。金矢倉の形を作り、玉を堅くする実戦的な一手です。

この辺りでは、両対局者が小刻みに時間を使っています。読みの力が問われる難解な中盤戦となっています。

▲6七金右に対して、藤井聡太四段が長考しています。持ち時間1時間の対局で10分以上考えているので、なかなかの長考と言えます。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(中盤戦:▲6七金右と上がった局面)

糸谷哲郎八段によると、上図では△6五銀、△8六歩、△4一飛などの候補手があるようです。ちなみに、ponanzaの推奨手は△6五銀と△8六歩の間で揺れ動いています。

▲6七金右からの指し手:△6五銀▲6三歩(下図)

藤井聡太四段が14分ぐらいの長考で△6五銀を決断します。▲6五同銀なら△同桂▲6六銀△4七角が糸谷哲郎八段の予想手順です。

しかし、実戦では▲6三歩の手筋が飛び出します。以下△7二金で、後手は金銀4枚がバラバラになっています。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(▲6三歩の手筋の一着)

▲6三歩からの指し手:△7二金▲5五角△7六歩▲同銀(下図)

▲5五角の局面で、藤井聡太四段の残り時間が30分を切ります。持ち時間1時間の対局なので、かなり時間を使っている印象です。

藤井聡太四段がこの辺りを勝負所と見ているのは間違いなさそうです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(中盤:▲7六同銀の局面)

上図の▲7六同銀の局面で、糸谷哲郎八段とponanzaの推奨手は一致しており、次の△6六歩を読んでいます。

△6六歩以下の変化手順の一例は、▲同金△同銀▲同角△2五銀▲同歩△4六角▲1八飛△7四桂(下図)です。最後の△7四桂に角を逃げると△5七角成が厳しいです。

ponanzaは上記の手順中の△2五銀を▲同歩と取らずに、▲1一角成と攻める激しい変化も読んでいるようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△6六歩以下の変化手順の一例)

▲7六同銀からの指し手:△6六歩▲同金△同銀▲同角△4六角(下図)

藤井聡太四段も△6六歩の一手を選択します。この辺りは、ponanzaの推奨手との一致率がかなり高いような印象です。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(中盤:△4六角の局面)

△6六歩の局面での将棋ソフト「ponanza」の評価値は-87で、形勢判断はほぼ互角です。

バランスが取れており、非常に良い将棋となっています。難解な中盤戦でどちらもなかなか崩れないのは、両対局者の強さの証明と言えます。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△6六角の局面での評価値はほぼ互角)

△4六角に対して▲2九飛と逃げると、以下△2五銀▲1一角成△5七角成(下図)があります。このように△4六角は△5七角成の筋を見せて、▲1一角成の攻めを牽制しています。

ponanzaは△4六角に対して▲5八飛を示しています。人間的な感覚では、非常に指しづらい手のようです。

この辺りは感想戦でも検討され、▲2七飛と上に逃げる変化もあるようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(▲2九飛と逃げた場合の変化)

梶浦宏孝四段は△4六角の局面で長考に沈んでいます。

形勢判断はほぼ互角ですが、糸谷哲郎八段によると「玉が薄い後手の方が苦労する将棋」とのことです。ponanzaの評価値も64で、ほぼ互角ながらわずかに先手推しです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(中盤戦の△4六角の局面での評価値)

△4六角からの指し手:▲4八飛△6五歩▲7五角(下図)

梶浦宏孝四段は▲4八飛。角に当てて人間的な感覚では自然な一手ですが、ponanzaの推奨手▲5八飛とは異なります。

しかし、▲4八飛の局面のponanzaの評価値は44で、疑問手というわけではないようです。依然として、ほぼ互角の難解な中盤戦が続いています。

▲4八飛に対して、藤井聡太四段が△6五歩と指した局面が、本局の勝敗を左右するポイントの一つとなったようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(▲7五角と逃げた局面)

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(中盤戦の▲4八飛の局面での評価値)
(▲4八飛の局面のponanzaの評価値は44)

△6五歩の局面で、ponanzaの推奨手は▲2二銀(下図)です。以下、△同金▲同角成△同玉▲4六飛が予想手順で、後手陣の守りの要の金をはがせるのが大きいです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△6五歩に対して▲2二銀のponanza推奨手)

対局後の感想戦でも、この▲2二銀が一番熱心に検討されました。

▲2二銀に対して△4二玉と逃げる変化も検討され、以下▲4六飛△6六歩▲2一銀不成△同飛▲4四歩△同歩▲4三歩△同金▲5五桂(下図)が変化の一例となります。後手が受け切る自信はないとのことです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(▲2二銀以下の変化の一例)

ちなみに、△6五歩に対して▲1一角成は悪手で、△5七角成(下図)で王手飛車取りが決まってしまいます。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△6五歩に対して▲1一角成の変化で王手飛車取り)

実戦はponanza推奨手の▲2二銀ではなく▲7五角です。

梶浦宏孝四段が▲2二銀を逃したのは大きいですが、代わりの▲7五角が悪手というわけではなく、直後のponanzaの評価値は-20(下図)でまだ互角です。

とはいえ、▲2二銀で後手玉を薄くできれば、実戦的に勝ちやすい局面になったはずです。

この辺りの梶浦宏孝四段は、形勢のバランスを保てる手順で互角をキープしています。ただし、ponanzaの読み筋とは食い違うことが多いという印象です。ponanzaとは棋風が違うのかもしれないですし、人間的に見えづらい手を見落としている可能性もあります。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△3七角成の局面でのponanzaの評価値)

▲7五角からの指し手:△3七角成▲6八飛△2六馬(下図)

△3七角成の局面はまだ互角。以下、▲6八飛△2六馬と進みます。この△2六馬は、△2五銀の桂取りを狙いながら、▲5三角成も防いでいる一石二鳥の手です。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△2六馬の局面)

△2六馬からの指し手:▲7四歩△2五銀▲6二歩成△同金▲7三歩成△同金▲6五銀右△6三桂(下図)

▲6二歩成は手筋の成り捨てで、6筋の飛車先を軽くすることにより、後で▲6二飛成と成り込む変化が生まれます。

しかし、実戦の進行では△6三桂と打たれたので、本当に得になったかどうかは難しいようです。対局後の感想戦でも指摘されていました。

どうやら、この辺りの手順で梶浦宏孝四段に悪手があったようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△6三桂と打った局面)

叡王戦:▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段の終盤

実はニコニコ生放送で、機材のトラブルで映像と音声がしばらく止まっていました。

機材トラブルが直ってから、ponanzaの評価値を見てみたら-751で、いきなり後手の藤井聡太四段が優勢になっていて驚きました。

評価値が-751となっているのは、上図の△6三桂の局面です。

糸谷哲郎八段によると、△2六馬から△2五銀で自玉を安全にして、△6三桂で▲7五角のラインも阻止できたのが大きいようです。

【追記】将棋ソフト「技巧」で機材トラブルの間に何が起こったのかを調査しました。

叡王戦▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段戦の空白の時間帯で何が起こったのか? 勝敗を分けた本当の理由が明らかに!
叡王戦開幕局では藤井聡太四段が勝利して、プロデビュー24連勝を記録しました。 この対局は中盤戦で互角の局面が長く続く熱戦だったのですが...

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△6三桂と打った局面での評価値)

△6三桂からの指し手:▲6六角△5五金▲6四歩△5九馬(下図)

▲6六角には△5五金が厳しく後手が好調です。

最後の△5九馬は決めにいった手で、ponanzaの評価値は-905を示しています。

藤井聡太四段は終盤に自信を持っているのでしょう。この辺りの指し手は非常に早く、最短の寄せを目指しているような手順です。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:△5九馬で決めにいった局面)

△5九馬からの指し手:▲7七角△6八馬▲同金△2九飛▲6九桂△6七歩(下図)

△2九飛と飛車を敵陣に打ち込んだ局面でのponanzaの評価値は-1430で、どんどん差が開いています。

しかし、藤井聡太四段にも疑問手(下図の△6七歩の叩き)が出ます。代わりに△6五金の方が明快だったようです。感想戦では▲6七同銀を軽視していたと話しています。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:△6七歩の疑問手)

△6七歩からの指し手:▲6七同銀△8六歩▲同歩△6五金▲4七角(下図)

△8六歩の局面の評価値は-877で、差が一気に詰まります。しかし、まだはっきりと後手が優勢なので、正確に指せれば勝ち切れます。

▲8六同歩の局面で、藤井聡太四段が1分将棋に入ります。疑問手があった直後に持ち時間がなくなって秒読みなので、焦ってもおかしくない状況です。

一方で、梶浦宏孝四段は▲4七角の飛金両取りに逆転の望みを託します。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:▲4七角の飛車金両取り)

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:△8六歩の局面でのponanzaの評価値)
(△8六歩の局面でのponanzaの評価値は-877)

ところで、聞き手の山口恵梨子女流二段が最近テレビ番組に出演したようで、番組内で「木造平屋3階建て」という名言をおっしゃったようです。

▲4七角からの指し手:△6六歩(下図)

藤井聡太四段の△6六歩はかなり気合いの入った手つきで盤面が乱れます。▲2九角で飛車を取られてしまいますが、大丈夫なのでしょうか?

ponanzaの評価値は-1387で、後手勝勢を示しています。

しかし、糸谷哲郎八段は△6六歩を危険と見ています。糸谷八段の推奨手は△6六歩の代わりに△2八飛成です。

糸谷八段によると、評価値では差が開いていますが、一手間違えたら逆転してもおかしくない将棋になっているようです。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:気合いの入った手つきで△6六歩)

△6六歩からの指し手:▲2九角△6七歩成▲6五角△6六歩▲7六銀△5五桂▲4四歩(下図)

山口恵梨子女流二段によると、藤井聡太四段の母の言葉を引用して「最近の藤井四段は勝敗よりも内容のことを重視して、連勝のことは気にしていない」とのことです。

△6七歩成の局面でのponanzaの評価値は-1757です。

梶浦宏孝四段は非常に苦しいですが、逆転を目指して▲4四歩と攻めます。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:▲4四歩と攻めた局面)

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:ponanzaの評価値は-1757)
(△6七歩成の局面のponanzaの評価値は-1757で後手勝勢)

▲4四歩からの指し手:△6八と▲8八玉△6四金(下図)

藤井聡太四段がどうやって決めるかという局面です。

△6八とに対して▲同玉なら△6七銀、▲同角でも受け切れないので、▲8八玉と逃げます。

△6四金と急所の角を取りに行くのが上手い決め方です。角を取れば先手玉が詰む形なのを見越しています。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:△6四金で角を取りにいく)

△6四金からの指し手:▲4三歩成△6五金▲7二飛△4二歩▲4四歩△2二玉▲3二と△1三玉(下図)

▲4三歩成から▲7二飛で後手玉も危なくなりますが、藤井聡太四段の受けが冷静です。

後手玉は△2二玉~△1三玉と端に逃げる形が安全のようです。下図の△1三玉はいわゆる「斜めZ」という形で、後ろ斜めに利く駒(角か銀)がない限りは絶対に詰まない形です。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(終盤戦:△1三玉と逃げて斜めZとなる)

△1三玉からの指し手:▲6八角△6七歩成▲6五銀△7八銀(投了図)

下図の△7八銀までで先手の梶浦宏孝四段が投了です。

投了図の△7八銀は、次の△8七金までの詰めろです。▲7八同飛と受けても、以下△同と▲同玉△6七銀から一手一手の寄せとなります。

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(投了図)

叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段△藤井聡太四段(△7八銀を見て先手の梶浦宏孝四段が投了)
(先手の梶浦宏孝四段が投了)

まとめ

本局は角換わり腰掛け銀の激しい将棋になりました。

一番の見所は中盤戦で、互いの読みの力が問われる展開です。先手の梶浦宏孝四段も、後手の藤井聡太四段も、存分に力を発揮できたと思います。

中盤の最後の辺りまで形勢のバランスが保たれていて、ponanzaの評価値が±100以内で互角の局面が長く続きます。両対局者の読みが入った正確な指し手が印象的でした。

しかし、中盤から終盤にかけての局面で形勢の針が大きく傾きます。

本局で勝敗を分けた大きなポイントは、

① 59手目▲2二銀を梶浦宏孝四段が見逃す。
② 59手目▲7五角~70手目△6三桂までの局面での梶浦宏孝四段の悪手。

の2つだったと思います。逆に言うと、藤井聡太四段には形勢を損なうような目立った悪手が全くなく、その事実には戦慄を覚えるほどです。

ちなみに、後者はニコニコ生放送の機材トラブルのためにponanzaの評価値の詳細が不明ですが、後でソフトで研究してみようと思います。

【追記】将棋ソフト「技巧」で機材トラブルの間に何が起こったのかを研究しました。

叡王戦▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段戦の空白の時間帯で何が起こったのか? 勝敗を分けた本当の理由が明らかに!
叡王戦開幕局では藤井聡太四段が勝利して、プロデビュー24連勝を記録しました。 この対局は中盤戦で互角の局面が長く続く熱戦だったのですが...

いったん優勢になってから、終盤での藤井聡太四段の決め方は非常に速かったです。

途中で疑問手もありましたが、最短の寄せを目指す切れ味の鋭い指し回しが印象的でした。

藤井聡太四段は本局に勝利してプロデビューから無敗の24連勝で、叡王戦の次局の都成竜馬四段戦でも勝利して現在25連勝を記録しています。

凄まじい記録ですが、今度は歴代最多連勝記録の28連勝を抜くかどうかに注目です。