叡王戦開幕局では藤井聡太四段が勝利して、プロデビュー24連勝を記録しました。
この対局は中盤戦で互角の局面が長く続く熱戦だったのですが、中盤から終盤にかけて一気に藤井聡太四段が優勢になりました。
対局の詳細については、以下の記事を参考にしてください。
しかし、どうして優勢になったのかニコニコ生放送を見ていただけでは分かりませんでした。
原因はニコニコ生放送の機材トラブルです。
ちょうど、形勢に差がついた場面をまたいで映像と音声が消えてしまい、その間の将棋ソフトの評価値が放送内では全く検討されていないです。
ニコニコ生放送の視聴者にとっての「空白の時間帯」です。
勝敗を決定づけた本当の理由が気になりませんか?
じゅげむは非常に気になったので、将棋ソフト「技巧」で棋譜解析をしてみました。すると、空白の時間帯で何が起こっていたかの真相が明らかになりました。
将棋ソフト「技巧」による棋譜解析結果
将棋ソフト「技巧」によると、△6五歩~△6三桂までの13手の間で、少しずつ後手優勢になっていったことが分かります。
この間、梶浦宏孝四段の指し手と技巧の推奨手が一致しているのは、全6手中でたったの1手だけです。一方で、藤井聡太四段は7手のうち6手も技巧の推奨手を指しています。
そして、結果としては、ほぼ互角だった形勢がはっきりと後手優勢まで傾いてしまいました。
すなわち、ニコニコ生放送がストップしていた空白の時間帯の真相は、
「梶浦宏孝四段が疑問手を繰り返し、結果として形勢を大きく損ねていた」
ということになります。
そして、将棋ソフトの棋力がプロ棋士を超えている現在、
ソフトとの一致率が高い棋士=強い棋士
というシンプルな図式が成り立っているようです。
もちろん異論はあるでしょうが、本局においてはこの図式がそのまま当てはまっています。
叡王戦:梶浦宏孝四段 vs 藤井聡太四段戦での有力な変化
本局で勝負を分けた中盤から終盤にかけての空白の時間帯で、将棋ソフト「技巧」が推奨する変化手順を紹介します。
ニコニコ生放送では検討されていなかった部分ですが、形勢が大きく動いた重要な場面であることは間違いないです。
61手目▲4九飛の変化(梶浦宏孝四段の指し手は▲6八飛)
61手目▲4九飛(上図)以下、△2二玉▲5三角成△4二金打▲7五馬△6三金▲4四歩(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-198です。
この手順では飛車を4筋から動かさずに、後の▲4四歩の一手をより厳しくしています。実はこの▲4四歩が多くの変化手順で現れてポイントとなる一手となっています。
また▲6八飛と比べて、玉飛接近の悪形にもなっていません。
評価値はギリギリ互角の範囲内で、この変化なら先手も十分に戦えていたようです。
62手目△6四金の変化(藤井聡太四段の指し手は△2六馬)
62手目△6四金(上図)以下、▲9七角△2五銀▲同歩△6六桂▲7四歩(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-295です。
実戦の進行とはかなり異なるので比較は難しいですが、△7八桂成から守りの要の金を取れるのが大きいです。ただし、打った△6四金が負担になる可能性もあるので、読みが必要な一手だと思います。
63手目▲4四歩の変化(梶浦宏孝四段の指し手は▲7四歩)
63手目▲4四歩(上図)以下、△2二玉▲7四歩△2五銀▲6二歩成△同金▲7三歩成△同金▲5三角成(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での評価値は-323です。
この変化手順では▲4四歩の手筋の効果がよく分かります。6~7筋の手順の組み立ては実戦とほぼ同じですが、▲4四歩で馬筋を止めているので最後の▲5三角成が実現します。
それでも後手が優勢ですが、実戦の進行に比べるとずいぶん先手が得をしているようです。
65手目▲4四歩の変化(梶浦宏孝四段の指し手は▲6二歩成)
65手目▲4四歩(上図)以下、△2二玉▲4三歩成△同金▲7三歩成△同金▲6五銀右△6四歩▲5六銀△5四桂(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-456です。
▲4四歩のタイミングが一手遅れると、▲5三角成とすることができなくなります。△5四桂と打たれて▲6六角の活用も消されると、先手は角が非常に使いにくくなります。
後手優勢なのは変わりませんが、早めに▲4四歩と突く変化よりも形勢は悪化しています。
69手目▲4四歩の変化(梶浦宏孝四段の指し手は▲6五銀右)
69手目▲4四歩(上図)以下、△同馬▲5五銀打△7四歩▲9七角△2六馬▲4四歩△7五桂▲4三歩成△同金▲4四歩△4二金▲6五飛△6三歩(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-712です。
評価値ははっきり後手優勢を示しており、このように▲4四歩を突くのが遅れれば遅れるほど形勢が悪くなるようです。
まとめ
空白の時間帯の真相は「梶浦宏孝四段が疑問手を繰り返し、結果として形勢を大きく損ねていた」ということになります。
具体的には▲4四歩がポイントとなる一手で、この手が遅れれば遅れるほど先手の形勢が悪化するようです。
一方で、藤井聡太四段の将棋ソフト「技巧」との一致率がかなり高いことも分かりました。「ソフトとの一致率が高い棋士=強い棋士」という図式が本局では成り立っています。