3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較

プロ棋士の間でも駒の価値の評価には個人差があります。以前の記事で、谷川浩司さんの駒の価値の評価(谷川理論)を紹介しましたが、今回の記事では、渡辺明さん青野照市さんの駒の価値の評価と比較してみます。

駒の価値の研究シリーズ(No.5)
前回:香の価値の確率分布と香の格言
次回:3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)

このページの目次

谷川浩司さんの駒の価値

渡辺明さんの駒の価値

青野照市さんの駒の価値

3人のプロ棋士の駒の価値の比較


谷川浩司さんの駒の価値

谷川浩司さんの駒の価値(谷川理論)は、本シリーズの最初の記事「将棋の駒の価値の理論化:谷川理論からのスタート」で紹介しましたが、次のようになります。

歩1点、香3点、桂4点、銀5点、金6点、角8点、飛車10点

谷川理論は信頼性が高いですが、駒の点数には整数値を使っているので、小数点以下の精度はありません。

アマチュア向けにわかりやすくするために整数値を使っているという面もあるでしょうし、そもそも駒の価値が状況によって変動するために、精度を高くしすぎても無駄という面もあると思います。

前々回の記事「香の価値は2.75点?」では、駒の点数に小数点以下が付くことになりました。また、前回の記事「香の価値の確率分布と香の格言」では、駒の価値の変動について考えました。このように駒の価値の研究シリーズでは、駒の価値の精度を高めたい、駒の価値の変動についての理解を深めたい、という問題意識があります。

そこで、谷川理論だけではなく、他のプロ棋士の意見も参考にしてみます。


渡辺明さんの駒の価値

渡辺明さんはタイトル獲得通算17期(2016年4月22日現在)を持つ現代のトップ棋士の一人です。渡辺流の駒の価値(値段)は以下のようになります。

歩10円、香桂30~35円、銀50円、金60円、角80円、飛120円

出典:『NHK将棋講座2015年10月号』(p. 27、「渡辺流 勝利の格言ジャッジメント」より)

比較しやすいように、単位を「円→点」として、点数をすべて10分の1にすると、

歩1点、香桂3~3.5点、銀5点、金6点、角8点、飛12点

渡辺明さんの駒の価値(点数)は、谷川浩司さんの駒の価値と似ています。歩、銀、金、角の4種類の駒の価値は全く同じです。谷川理論をベースとして、それを修正している可能性もあるのではないかと思いました。

まず注目すべきは、飛車の点数の高さです。渡辺流では飛車が12点で、谷川理論の10点と比べて、かなり高い点数になっています。

もう一つ注目すべきは、香と桂の価値が同じということです。点数としては3~3.5点です。谷川理論の香3点、桂4点に比べて、香の評価がやや高く、桂の評価がやや低いです。


青野照市さんの駒の価値

青野照市九段は、順位戦A級通算11期の大棋士です。青野照市さんが昭和28年生まれ、谷川浩司さんが昭和37年生まれ、渡辺明さんが昭和59年生まれなので、世代が異なる三者の比較として見ることもできます。

青野照市さんの駒の価値(点数)は、少し雰囲気が違います。

歩1点、香4点、桂5点、銀7点、金8点、角11点、飛12点

出典:『子ども版 将棋のルールを覚えた次に読む本(青野照市著、創元社、2012年)』

この点数の付け方から、青野流の駒の価値の考え方を推察します。

まず、「歩」、「香と桂」、「銀と金」、「角と飛車」の4つのグループ分けが明確です。

角と飛車は「大駒」、銀と金は「金駒(かなごま)」という名称があるように、これらの駒は昔から同じぐらいの価値のグループとして考えられています。残りの小駒は「歩」と、それ以外の「香と桂」でグループ分けされるのが普通です。

「歩」←3点差→「香、桂」←2点差→「銀、金」←3点差→「角、飛車」

グループ内の「香と桂」、「銀と金」、「角と飛車」がそれぞれ1点差であるのに対し、グループ間の「歩と香」は3点差、「桂と銀」は2点差、「金と角」は3点差です。青野流の駒の点数の付け方は、これら4つのグループ間の壁を強く意識していると思われます。

さらに言えば、「歩」と「歩以外の小駒(香、桂、銀、金)」と「大駒(角、飛車)」の大きな3つのグループ分けも見て取れます。


3人のプロ棋士の駒の価値の比較

以下の表に、谷川浩司さん、渡辺明さん、青野照市さんの駒の価値(点数)をまとめます。

3人のプロ棋士の駒の価値の比較

今回の記事は、3人のプロ棋士の駒の価値の紹介がメインでしたが、次回の記事ではこのような駒の価値の個人差について、もう少し深く掘り下げてみます。

駒の価値の研究シリーズ(No.5)
前回:香の価値の確率分布と香の格言
次回:3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)