将棋の敗因の分析:じゅげむの実戦での3つの敗因

敗因の分析シリーズを始めます。プロの対局の敗因を分析できるほどの棋力はないので、じゅげむの対局がメインになりそうです。

このシリーズの一つの狙いとしては、敗因のパターン化です。
将棋の研究としては、勝ち負けに直結する部分です。

このページの目次

序盤の作戦負け

最終盤で詰み筋の見落とし

盤面全体が見えていない

一局の将棋に敗因は複数ある


序盤の作戦負け

向かい飛車vs三間飛車の相振り飛車の実戦で、先手がじゅげむです。将棋倶楽部24のレーティング2000ぐらいの対局です。

過去の記事「じゅげむの実戦:将棋倶楽部24での初対局」で、四間飛車を指すのがやや久しぶりと書きましたが、向かい飛車vs三間飛車の戦型も久しぶりです。久しぶりに指す戦型というのは怖いものです。

本局では序盤の注意点を忘れていて、案の定やらかしてしまいました(汗)

危険な▲3八銀

向かい飛車vs三間飛車の定跡形の出だしだったのですが、一つのポイントが図1の▲3八銀です。この手をきっかけに先手が作戦負けに陥りました。美濃囲いを狙った手ですが、やや危険な意味合いがあります。代わりに▲8五歩や▲2八銀の方が無難です。

機敏な一手

次の△3六歩(図2)が機敏な一手。▲同歩と取ると△5五角の変化が気になります。

△5五角以下、▲3七銀△同角成▲同桂△3六飛(変化図1)、あるいは▲6五歩△7七角成▲同桂△5五角▲6六角△同角▲同銀△6七角(変化図2)などが考えられます。厳密な形勢はともかく嫌な変化です。

気になる変化1気になる変化2

本譜では図2で▲4八玉としたので、以下、△3七歩成▲同銀△3六歩▲4六銀△4四歩▲5六銀△4三銀▲3八金△5四銀(図3)と進みます。しかし、結果的に作戦負けになったので、▲同歩の方が良かった可能性はあります。

作戦負けの局面

△5四銀と上がられた局面では、先手の「作戦負け」がはっきりしています。

理由1:いつでも後手から△4五歩の仕掛けがある。
理由2:先手の方が玉を堅くしづらい。

後手が△4五歩からの仕掛けの権利を握っています。別の言い方をすると、後手に主導権のある展開です。先手は常に仕掛けに気を配りながら駒組みを進めなければいけません。

△3六歩の拠点は後手の明確なアドバンテージです。まず、拠点の歩自体が攻め駒として働きます。さらに、駒組みに制限をかける駒として先手陣にプレッシャーをかけています。これらの二つの効果によって、先手の方が玉を堅くしづらいです。

先手としては、本当は△3六歩を取りに行きたいのですが、そもそもその手段が難しそうです。さらに、いつでも△4五歩の仕掛けを見せられているので、大きく陣形を乱して拠点の歩を取りに行くことはできません。

△5四銀以下は、▲6五歩△5二金左▲5八金△3三角▲1六歩△1四歩▲8五歩△8二玉▲7五歩△4五歩(図4)と進みます。

仕掛けの局面

このタイミングの仕掛けがベストだったかは難しいところですが、玉の堅さに差があり、△3六歩の拠点が重くのしかかっているので先手苦戦です。作戦負けになると、中盤で本格的な戦いが始まった時点で既に苦しくなっています。


最終盤で詰み筋の見落とし

終盤の局面

さて、作戦負けから盛り返して、図5は▲8二銀と打った局面です。ここから△3七歩成▲5九玉△4八と▲同玉△5五馬▲同成銀△3七角▲4九玉△3八歩(図6)と進みます。

後手玉に詰みがある局面

図6では後手玉に詰みがあります。手順としては▲9一銀成△8三玉▲9二角△9四玉▲9六香△9五桂▲同香△同玉▲9六歩△9四玉▲9五歩(変化図3)までの11手詰です。この詰みが見えていなかったので、別の手を指してしまい、結局この将棋は負けになってしまいました。

詰み上がりの図

「詰み筋の見落とし」という敗因は、シンプルかつ決定的です。
もし詰ますことができていたら、そのまま勝ちになるので、最も勝敗に直結する敗因と言ってもいいでしょう。


盤面全体が見えていない

実は図6の局面では、後手玉を詰ます以外にも勝てそうな順があります。
▲3二歩△同飛▲3三歩(変化図4)の連打の歩で飛車先を止める順です。

飛車先を止める(変化図)

後手の狙いは△3九歩成▲同玉△5五角成の開き王手です。
その筋を消すために飛車先を止めておくのも冷静な手だったと思います。

どうしてこの手が見えなかったのでしょうか。

図5からの後手の△3七歩成以下の攻めで、意識が盤面の右下に集中してしまったことが一つの原因であると思っています。

以前の記事「将棋の格言「四隅の香を見る」と木村一基vs羽生善治の相矢倉戦」で書きましたが、「四隅の香を見る」という格言があるように、盤面全体を見ることはとても重要な技術です。

本局では二つの意味で、盤面全体が見えていませんでした。

一つは盤面の右下に意識が集中していたことです。意識と視線はリンクするので、盤面全体が見えなくならないように注意が必要です。

もう一つは受けに意識が集中していたことです。攻めに意識を向ければ、後手玉の詰み筋も発見できたかもしれません。

このような観点から、敗因のもう一つを、「盤面全体が見えていない」と考えることができます。

ちなみに実戦では図6以下、▲4八金△3九歩成▲5九玉△4八角成▲同飛△6六香(図7)が詰めろで、以下負けました。▲5九玉の代わりに▲5八玉△4八角成▲6七玉なら勝っていた可能性もあります。

先手玉は詰めろ


一局の将棋の敗因は複数ある

本局では序盤で「作戦負け」から始まり、一度は逆転しましたが、最終盤で「詰み筋の見落とし」で敗北しました。「盤面全体が見えていない」状況に陥らなければ、最終盤では別の勝ち筋もあったと思います。

このように一局の将棋の敗因は複数あります。
このことは一局の敗戦から多くのことを学べるということを意味しています。

それどころか、強いプロ棋士は勝った将棋でも入念に調べています。タイトル戦の感想戦などでは、勝った将棋の悪かった部分を積極的に検討するのはおなじみの光景です。その様子は「勝っても敗因を探すのか」と思えてしまうほどの徹底ぶりです。