将棋の敗因分析シリーズで、今回の敗因は「最終盤で詰めの失敗」です。
このページの目次
詰めの失敗の2つのパターン
「詰めの失敗」は敗因としては非常にわかりやすいですが、次の2つのパターンがあります。
① 詰めろかどうかの判断が間違っていて、詰ましに行ったら詰まずに負け。
② 本当は詰んでいた局面で、正確に詰まし切ることができなかった。
どちらも「詰ましに行って詰まなかった」ことは共通していますが、①の場合はそもそも最初から詰まない局面で、②の場合は本当は詰んでいた局面、という違いがあります。
不利の度合いと対策
詰ましに行くときは、(場合によっては大量に)駒を渡すことがあるので、詰まなかったときの反動は大きいです。最終盤の切羽詰まった局面では、詰めの失敗は即負けに繋がります。
「詰めの失敗」は、敗因としてシンプルでわかりやすく、さらに将棋の勝ち負けに直結することが大きな特徴です。従って、勝率を上げるためには、「詰み」の部分を鍛えるのが一番手っ取り早いと言えます。「詰み」を鍛えるための王道は「詰将棋」を解くことです。「詰む局面かどうかを判断する力」と「詰んでいる局面を正確に詰ます力」の両方を鍛え上げることができます。
タイトル獲得13期(2016年5月現在)で永世棋聖の称号を持つトップ棋士である佐藤康光さんは著書で次のように述べています。
詰将棋とは、正確な「読み」のトレーニングであると同時に、「読み切れなくても判断できる」状態を保つためのメンテナンスでもある。一見矛盾するようだが、「読むこと」の積み重ねが「読まないこと」を可能にしているのだ。(『長考力』、佐藤康光著、p. 70)
詰みを読み切れない場合
しかし、実戦では持ち時間の制約もあるので、詰みを読み切れない場合も多いと思います。そのような場合に、詰ましに行く以外の選択肢として、
①(曖昧なままで詰ましに行かないで、)確実な詰めろ(必至)をかける。
②(曖昧なままで詰ましに行かないで、)受ける。
③(曖昧なままで詰ましに行かないで、)攻防手を探す。
が考えられます。
①は攻めの代替案で、自玉に詰めろがかかっていない場合は、相手玉に確実な詰めろ(必至)をかければ一手勝ちできる計算です。
②は受けの代替案です。自玉に詰めろがかかっている場合は、相手玉に詰めろをかける余裕はありません。その場合は、攻めを諦めて、一旦受ける必要があります。
もう一つの選択肢が、③の攻防手を探すことです。典型的なのは「詰めろ逃れの詰めろ」で、攻防手によって自玉と相手玉の寄せの速度を逆転させます。
不詰に気付いたら・・・
もし、詰ましに行って、途中で詰まないことが発覚したらどうしたらいいでしょうか?
① 反省して途中で引き返す。
② 潔く諦めて、投了図について考える。
③ 相手の受けミスを期待して、詰まないながらも難しい順を選び続ける。
正直どれもあまり考えたくありませんが、詰まないものは詰まないので仕方がないです。①の場合、上手く途中で引き返せればいいのですが、手遅れの場合はひどい局面になります。ひどい局面を晒すぐらいなら、②の方がマシだという考え方もありますが、この辺りは価値観や美意識の問題でしょう。じゅげむは諦めが悪い方なので、①か③のどちらかで、わずかでも勝ち目が高そうな方を選びたいところです。
詰めの失敗の実戦例
具体例があった方がわかりやすいので、じゅげむの実戦から「詰めの失敗」の例を見てみます。
図1は▲8三桂成と成られた局面です(便宜上、先後逆の図面にしています。「圭」は成桂のことです。)。盤面手前側の後手玉には、▲7二銀△6二玉▲6三香△5二玉▲6一龍△4二玉▲3一龍△5二玉▲6二金までの詰めろがかかっているので、盤面奥側の先手玉に詰めろをかけている余裕はありません。そこで、先手玉を詰ましに行ったのですが、ギリギリ詰まなくて(?)負けになってしまいました。詰ましに行く前に詰みを読み切っていないと、「詰みそうで詰まない」ということがありえます。
実戦の手順は、△8七角成▲同玉△7五桂▲7八玉△8七金▲7九玉△7八歩▲同金△同金▲同玉△8七角▲8八玉△7八金▲9七玉△9六角成▲同玉△9五歩▲9七玉(図2)と続き、
以下、△9六歩▲9八玉△9七歩成▲同桂△同香成▲同玉△9六歩▲9八玉(図3)の局面で、詰ますのを諦めて私の負けになりました。しかし、ここからさらに、△8七桂成▲同玉△7七金と迫る筋もあったので、本当に詰まなかったかどうかは不明です。
ちなみに、図2の局面で、△9六歩の代わりに△8五桂から迫る筋もあり、以下▲9八玉△8七桂成▲同玉△7七桂成(変化図1)の方が良かった可能性もあります。
結局、図1の局面で先手玉に本当に詰みがなかったかどうかは不明ですが、いずれにしても、詰ましに行って詰まなかった場合は負けに直結します。
すなわち、図3の局面では、先手に駒を大量に渡しているので、後手は「受ける」という選択肢を既に失っています。図1の局面なら、「受ける」という選択肢や、「攻防手を探す」という選択肢が残っていたかもしれません。
例えば、図1で△4一歩(変化図2)という受けがあり、▲同龍なら△8七角成▲同玉△4一龍の素抜きの筋があります。攻防手としてパッと見えるのは△5四角打(変化図3)の「詰めろ逃れの詰めろ」ですが、これは▲7六歩と受けられて大変そうです。
図1の局面で何が最善手だったかはわかりませんが、詰ましに行って詰まないと明らかに負けなので、後手としては別の手段を考えるしかなかったと思います。