7-1. 形勢判断 | じゅげむの将棋ブログ https://shogijugem.com 将棋の戦法や定跡のまとめ、囲い、格言、自戦記、ゆるゆる研究シリーズなど。 Sat, 17 Sep 2016 03:37:42 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.5.3 111067373 将棋の形勢判断のコツ(形勢判断シリーズ10回分のまとめ) https://shogijugem.com/keisei-handan-matome-3964 Sat, 03 Sep 2016 08:19:00 +0000 https://shogijugem.com/?p=3964 将棋の形勢判断シリーズ10回分のまとめ記事です。 これまでに、私の実戦から10局の具体的な将棋を取り上げて形勢判断の分析をしました。10局を一つの区切りとして、今までの形勢判断を振り返ってみたいと思います。 ・駒の損得の...

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将棋の形勢判断シリーズ10回分のまとめ記事です。

これまでに、私の実戦から10局の具体的な将棋を取り上げて形勢判断の分析をしました。10局を一つの区切りとして、今までの形勢判断を振り返ってみたいと思います。

・駒の損得の判断が難しい場合のコツは?
・「玉の堅さ」と「玉の安全度」の違いとは?
・駒の働きをどのように考えたらよいか?
・どのような局面で形勢判断をしたらよいか?

など、1局だけではなかなか見えてこなくて、10局を比較分析することで、はじめて見えてくる形勢判断のコツ」を紹介しています。また、形勢判断の精度を上げるための課題も述べています。

 

このページの目次

 

形勢判断シリーズのブログ記事のリスト(10局分)

本記事は10局分のまとめ記事です。
1局ごとの個別の形勢判断についての詳しい内容は、以下のリンクから見られます。

実例1:形勢判断の4要素
実例2:玉の囲いの堅さの定量的な評価
実例3:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合
実例4:優勢か劣勢かがわかりやすい場合
実例5:4つの要素で判断する枠組みの問題点
実例6:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値
実例7:飯島流引き角 vs 四間飛車
実例8:居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠、局面全体のバランスを考える
実例9:中飛車左穴熊 vs 向かい飛車、棋力と形勢判断
実例10:四間飛車 vs 居飛車急戦、大駒の働きと形勢への影響

 

形勢判断の4要素

形勢判断の方法としては、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4要素から分析しています。

一つ一つの要素を個別に意識することによって、形勢判断の精度が高まります。

①から④までの個別の要素については、次のようにまとめました。

 

形勢判断の要素その1:「駒の損得(駒割り)」

まずは、「①駒の損得」について。

駒の損得(駒割り)は形勢判断の基本です。序盤では①~④の中で一番大事な要素と言ってよく、中盤以降も重視されます。

「終盤は駒の損得よりスピード」という格言がありますが、実は終盤でも駒の損得(駒割り)は非常に大きな要素です。

 

駒の損得の判断が難しい場合のコツ

駒の損得(駒割り)の判断は、簡単な場合と難しい場合があります。

「角銀交換」「銀桂交換」など、1対1の駒交換の場合は簡単です。駒の価値の順番は、

飛 > 角 > 金 > 銀 > 桂 > 香 > 歩

なので、駒得か駒損かはパッと分かります。

一方で、「金金歩3 vs 飛桂」実例1:左下図)「銀銀 vs 飛桂」実例5:右下図)「角香歩 vs 飛」実例7)など、組み合わせが複雑な場合の駒の損得(駒割り)の判断はもっと難しくなります。

形勢判断の実例1(駒の損得)形勢判断の実例5(駒の損得)

このような場合は、駒の点数を使って計算するのがコツです。駒の損得(駒割り)を、飛10点、角8点、金6点、銀5点、桂4点、香3点、歩1点と点数で数えることによって(通常は点数をさらに2倍にする)、複雑な駒交換についても有利か不利かを大まかに判断できるようになりました。(参考:駒の点数の谷川理論3人のプロ棋士の駒の点数の比較

 

歩の損得が絡んだ場合はケースバイケース

駒の損得についての課題の一つは、歩の扱いです。

実例4(下図)では、「金 vs 桂歩2」の交換を、同じ合計12点でほぼ互角と判断しました。(駒の点数の合計をそれぞれ2倍しています。)

形勢判断の実例4(駒の損得)

しかし、一般的には「金桂交換」の駒得とされることが多いので、駒の損得がほぼ互角という判断には違和感もあります。駒得かほぼ互角かの違いは、歩の扱いの差によって現れます。実例4では「金 vs 桂歩2」の交換であると同時に、歩を損している側の先手は歩切れでした。

もし、先手が持ち駒に歩を何枚か持っていたと仮定すると、先手の2歩損の意味合いが薄れます。この場合は、「金 vs 桂歩2」の3枚換えでほぼ互角というよりも、「金桂交換」で駒得と判断した方がぴったりします。

しかし、実際の実例4では2歩損した先手が歩切れなので、歩の価値がクローズアップされ、「金 vs 桂歩2」(合計12点ずつ)でほぼ互角という判断にも一理あります。

 

歩の損得が絡んだ駒の損得については、

A. 歩を損した側が歩切れになっている場合。(実例1実例3実例4
B. 歩を損しても歩切れになっていない場合。(実例7実例9実例10
C. 歩の損得の枚数が多い場合。(たとえば、歩5枚の得は、銀得と同じ+10点分もあるとは判断しづらい。)

などケースバイケースで、単純な合計点数による評価から微調整する必要があると考えられます。特に、上記のA~Cの3パターンの違いを意識することがコツです。

 

形勢判断の要素その2:「玉の堅さ(玉の安全度)」

次に、「②玉の堅さ」について。

現代将棋では玉の堅さが非常に重視されます。玉の堅さは勝ちやすさに直結するからです。

玉の堅さに差があり、攻めだけを考えればよい展開だと、実戦的には非常に勝ちやすくなります。逆に、玉が薄い場合は、わずかなミスが致命傷になりやすいです。

 

玉の堅さが大差と言えるのは?

玉の堅さについては、自玉と相手玉の「相対的な」堅さの差で考えることがコツです。

薄い玉だと苦労しやすいものですが、特に相手玉との堅さの差が大きい場合に、玉の薄さの不利が顕著に表れます。相手の攻めに対して手抜きをしづらくなり、一方的に攻められる展開になりやすくなります。具体的には、玉の堅さに金銀2枚以上の差がある場合は、「玉の堅さは大差」と言って構わないと思います。(実例1:下図)

形勢判断の実例1(玉の堅さ)

 

「玉の堅さ」と「玉の安全度」の違い

玉の堅さについての課題の一つは、相手の攻め駒の配置によって玉の堅さが変わることです。この場合は、「玉の堅さ」というよりも「玉の安全度」と表現した方がぴったりします。

実例10(下図)では、「美濃囲い vs 船囲い」で先手玉の方が堅い囲いですが、後手の飛車角の攻め駒が急所に利いているので、玉の安全度としては後手玉の方が上です。

形勢判断の実例10(玉の堅さ)

ただし、「玉が堅くない」と「相手の攻め駒によって玉が安全ではない」の2つは似ているようで異なります。前者の場合は、自陣に手を入れて玉が堅くなることもありますが、ぴったりした補強方法がないこともあります。後者の場合は、相手の攻め駒を排除できれば玉の安全度が上がります。たとえば、実例10では、後手の大駒の利きをさえぎることができれば、先手玉の安全度は一気に向上します。前者と後者の違いを理解することも、玉の堅さを判断するためのコツと言えるでしょう。

 

「形が崩れた囲い」の堅さの評価

玉の堅さに関する課題のもう一つは、「形が崩れた囲い」の堅さの評価です。

具体的には、実例2(左下図)の先手の金無双と後手のカニ囲い、実例3の後手の美濃囲い、実例4の後手の穴熊、実例6(右下図)の先手の銀矢倉と後手の穴熊、実例9の後手の穴熊、などです。

形勢判断の実例2(玉の堅さ)形勢判断の実例6(玉の堅さ)

攻められすぎて、囲いの原形をとどめていない場合はともかくとして、元の囲いから少し形が崩れたぐらいなら、元の囲いとの比較で「形が崩れた囲い」の堅さを評価できると思います。

実例2実例6では、「元の囲いから金銀何枚分弱くなったか」というモノサシで定量的な比較を試みましたが、このような方法が適切かどうかは疑問も残ります。しかしながら、元の囲いを基準にして考えるという発想自体は、それなりに有効だと思われます。

 

形勢判断の要素その3:「駒の働き(駒の効率)」

次に、「③駒の働き」について。

駒の働き(駒の効率)に意識を向けることで、盤上の一つ一つの駒を個別に細かく見れるようになります。

 

遊び駒の形勢へのマイナスの影響

駒の働きについて、一番分かりやすいのが遊び駒で、遊び駒の形勢へのマイナスの影響は評価しやすいです。

駒の働きの評価は、「①駒の損得」や「②玉の堅さ」よりも難しいことが多いので、評価しやすい遊び駒から考えるのがコツです。

特に、実例3(左下図)の先手の左辺の桂香や、実例8(右下図)の盤面右側の互いの桂香のように、玉の囲いと反対側の桂香は取り残されて遊び駒になりやすいです。遊んでいるだけならまだしも、相手にタダで取られることも多々あります。

形勢判断の実例3(遊び駒)形勢判断の実例8(遊び駒)

実例1~10では、金銀が明らかな遊び駒となっているケースはありませんでしたが、駒の価値が高い金銀の遊び駒は、桂香の遊び駒よりも大きなマイナスになるのは当然です。また金銀ではありませんが、実例9の8二の「と金」は、成り駒が遊んでいるケースです。

 

中途半端な位置にある小駒の評価

玉の近くにある駒は守り駒として働きます。
逆に、玉から遠く離れている小駒は、終盤以降は遊び駒になっている可能性が高いです。

一方で、中途半端な位置にある小駒をどう評価したらよいかは難問です。

実例8(左下図)の▲6六金、実例9(右下図)の△5三銀は、比較的玉に近いので守りに働いていますが、玉の囲いからは少し離れていますし、離れ駒の弱点になっている可能性もあります。このような駒は展開によって、守り駒として立派に働く場合も考えられますし、逆に弱点として攻められる場合も考えられます。駒の働きの評価は簡単ではなく、形勢判断における読みの比重が高くなるかもしれません。

形勢判断の実例8(駒の働き)形勢判断の実例9(駒の働き)

また、実例8の△3二金も評価が簡単ではありません。玉の囲いからは離れていますが、自陣の守りに働いているので全くの遊び駒ではありません。△3二金の評価は展開によって左右されそうです。

 

大駒の働きには大きな幅があるので評価が難しくなる

大駒は強力な駒なので、駒の働きを考える上でとても重要です。

利きが多い強力な駒であるが故に、完全に遊び駒になっている場合と、抜群に働いている場合で、大駒の働きには非常に大きな幅があります。駒の働きに大きな幅があるということは、評価の難しさに繋がるので、慎重な取り扱いが必要です。今回の形勢判断では、大駒の働きについて曖昧な評価が多く、今後の課題です。

 

「①駒の損得」や「②玉の堅さ」との関連性

「①駒の損得」と「③駒の働き」の関連で言うと、完全な遊び駒については、駒の損得の評価と比較しやすいです。

実例3(左下図)では、先手陣で遊んでいる桂香のマイナスと、先手の香得のプラスを比較しました。実例10(右下図)でも、駒の損得と遊び駒の評価を関連付けて考えています。

形勢判断の実例3(駒の働き)形勢判断の実例10(駒の働き)

 

「②玉の堅さ」と「③駒の働き」の関連で言うと、囲いを構成している駒(あるいはそれに準ずる駒)について、②と③で重複してしまう問題があります。

たとえば、玉の近くの守りの金は、玉の堅さに貢献していますし、同時に駒の働きが良いとも言えます。

玉の囲いを構成している完全な守備駒と考えるなら、「②玉の堅さ」の項目内で形勢への影響をカウントして、「③駒の働き」の項目では除外するというやり方も一つの手です。ただし、中途半端な位置に駒がある場合や、攻防に利く位置に駒がある場合など、②と③を完全に分離するのが難しいケースもあり得ます。

特に大駒は攻防に働くことが多いので、「②玉の堅さ」と「③駒の働き」の項目を重複して過大評価しないように注意が必要です。たとえば、実例1(下図)の△6九龍や、実例10の△6六角です。

形勢判断の実例1(駒の働き)

 

形勢判断の要素その4:「手番」

最後に、「④手番」について。

形勢判断シリーズでは、実例7(下図)のように、中盤の後半から終盤の入り口あたりの局面をメインとして取り上げました。さらに、さばき合いから大きな駒交換があった直後の局面が多くなりました。いずれも、手番の価値がある程度高くなっている(しかし、高すぎない)局面での形勢判断です。

形勢判断の実例7(手番)

 

どのような局面で形勢判断をしたらよいか?

形勢判断の精度はもちろん重要ですが、「どのような局面で形勢判断をするかの見極め」も大事です。

今回、形勢判断のテーマ図を選ぶプロセスにおいて、「どのような局面で形勢判断がしやすいか」についての経験値が上がったように思います。

さばき合いの最中(直後ではない)や最終盤など、手番の価値が高すぎる瞬間での形勢判断はなかなか難しいです。手番以外の①~③の項目が一手で大きく揺れ動くような激しい流れの中では、形勢判断よりも読みの比重が高くなるからです。いったん局面が落ち着いて、手番の価値もある程度落ち着いた瞬間での形勢判断が良さそうです。ある局面における手番の価値の高さを見極めることは今後の課題です。

 

総合的な形勢判断

①~④の個別の項目(①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番)については、一通りのまとめをしたので、最後に「局面全体としての形勢判断」について述べます。

①~④の項目別の評価を総合して、全体の形勢を精度よく判断することは大きな課題です。

 

実例4(左下図)のように、①~④の優劣が割れていない場合の形勢判断は簡単です。実例1実例2(右下図)、実例10のように、項目の優劣が偏っている場合も、形勢判断の結論を出しやすいです。

形勢判断の実例4(総合的な形勢判断)形勢判断の実例2(総合的な形勢判断)

しかし、実例3(左下図)、実例5実例6のように①~④の項目の優劣が2対2で割れている場合は、①~④の項目別の精度を上げないと難しいので、この点は今度の大きな課題です。また実例8(右下図)では、②と③を合わせて評価しましたが、このような手法も今後の形勢判断に応用したいです。

形勢判断の実例3(総合的な形勢判断)形勢判断の実例8(総合的な形勢判断)

 

今度の方針としては、まだまだ分析の数が少なすぎるので、少しずつ数を増やして形勢判断の経験値を上げるのが一つの方向性です。その際に、①~④の個別の項目については、今回の反省点を踏まえた上で分析し、精度を高めていきたいです。

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将棋の形勢判断:四間飛車 vs 居飛車急戦、大駒の働きと形勢への影響 https://shogijugem.com/keisei-handan-ogoma-3685 Sat, 30 Jul 2016 02:30:56 +0000 https://shogijugem.com/?p=3685 将棋の形勢判断シリーズの第10回です。戦型は四間飛車 vs 居飛車急戦です。大駒は強力な駒なので、形勢に大きな影響を与えます。特に、大駒が攻めと守りの両方に働くときに絶大な影響力があります。 しかし、大駒の力を過大評価し...

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将棋の形勢判断シリーズの第10回です。戦型は四間飛車 vs 居飛車急戦です。大駒は強力な駒なので、形勢に大きな影響を与えます。特に、大駒が攻めと守りの両方に働くときに絶大な影響力があります。

しかし、大駒の力を過大評価しすぎるのも考えものです。形勢判断の4要素で、大駒はいくつかの要素に同時に影響を与えやすいので、冷静かつ適切に評価することが大事です。

 

形勢判断シリーズ(No. 10)
前回:将棋の形勢判断:中飛車左穴熊 vs 向かい飛車、棋力と形勢判断
次回:

このページの目次

 

四間飛車 vs 居飛車急戦のテーマ図

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

四間飛車 vs 居飛車急戦で、じゅげむの昔の実戦です。将棋倶楽部24で先後ともにレーティング1900ぐらいの対局です。

斜め棒銀の定跡形から後手が仕掛けてきて、先手の私は途中でまずい手を指してしまいました。不利を自覚していたので、ここから粘りを意識して指したのですが、この局面でどのくらい形勢が悪化していたのかを分析してみたいと思います。

互いに大駒をさばき合った直後で、中盤の終わりから終盤の入り口あたりの局面なので、形勢判断をするには丁度良いタイミングだと思います。

 

形勢判断の4要素

いつものように、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4項目を考えます。オーソドックスな形勢判断の手法です。

 

駒の損得

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

「①駒の損得」は、先手は桂損ですが歩が1枚多いです。すなわち、先手「歩(2点)」vs 後手「桂(8点)」の比較で、後手の駒得です。

後手は△8九飛成の成り込みと同時に桂を手に入れましたが、先手は▲8一龍と駒損を解消できないのが痛いです。9九の香も一方的に拾われそうです。

 

玉の堅さ

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

「②玉の堅さ」については、互いに金銀3枚の囲いで、囲いの部分だけを考えると、先手の美濃囲いの方が後手の船囲いよりも堅いです。しかし、「②玉の堅さ」は「玉の安全度」として考えるべきで、相手の攻め駒の影響を無視できません。

図の局面では、△8九龍と△6六角が先手の美濃囲いの急所の3九の地点をにらんでいます。ものすごく危険な形で、放置すればすぐに△3九銀と打ち込まれて寄ってしまいます。△3九銀▲1八玉△4九龍が詰めろなので(△3九銀▲1七玉△2五桂~△4九龍でも詰めろ)、実は先手玉は二手スキです。

一方で、後手の船囲いはすぐに寄るような形ではありません。二段龍の▲7二龍に対して、△5二金と△6二銀の2枚が横利きをさえぎっている形で、なかなか抵抗力があります。さらに、△6六角が自陣の守りにもよく働いています。

したがって、「②玉の堅さ」についても、後手有利です。

 

駒の働き

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

「③駒の働き」については、「玉と反対側の端の桂香」と「大駒の働き」について考えます。

端の桂香については、先手は▲9九香の1枚が遊んでいます。一方で、後手は△9一香と△8一桂の2枚が遊んでいます。よって、後手の方がやや損をしています。しかし、先手の▲8九桂は後手に取られた駒なので、「①駒の損得」の項目でその損はしっかりとカウントされています。すなわち、「端にある遊び桂が取られた」ということで、やや損が軽くなっているという程度です。

大駒の働きについては、相当な差があります。△8九龍は先手の美濃囲いの3九の地点をにらんでいる急所の一段龍です。△6六角も急所の3九の地点をにらんでおり、自陣の受けにも働いています。もし仮に、盤上の△6六角が駒台にあったとしても、6六に打ちたいぐらいの急所の位置です。したがって、角を持ち駒として温存しているよりも、6六にある方が働いています。というわけで、後手は龍と角の2枚の大駒がどちらも非常によく働いています。この点は、「②玉の堅さ」の項目にも大きな影響を与えています。

一方で、先手は▲7二龍と持ち角です。▲7二龍は攻めを考えたときに、△8九龍と比べて働きがかなり弱いです。ただし、後手の龍より内側にあるので、▲7九歩の底歩を打てるという利点はあります。また、持ち角は悪くはないですが、ベストの位置にある△6六角と比べるとはっきりと見劣りします。

大駒の働きの差の方が、端の遊び桂1枚の差よりもずっと大きいので、「③駒の働き」は後手有利です。ただし、どのくらい有利かという点に関しては、「②玉の堅さ」の項目ですでにカウントされていて重複する部分もあります。

 

手番

「④手番」は先手です。

中盤の終わりから終盤の入り口あたりなので、手番の価値は序中盤に比べると大きいです。
もし、この局面で手番が後手なら、△3九銀ですぐに将棋が終わってしまうところです。

 

総合的な形勢判断

①~④をまとめると、

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

①駒の損得:後手の駒得・・・先手「歩(2点)」vs 後手「桂(8点)」
②玉の堅さ:後手有利・・・後手の二枚の大駒が脅威
③駒の働き:後手有利・・・大駒の働きの差が大きい
④手番:先手

となって、手番以外の3項目はすべて後手有利です。先手の手番で、すべてをひっくり返すような手があるわけではないので、この局面は後手優勢といえます。

ただし、①~③の3項目が後手有利だからといって、総合的な形勢が大差かというと、それは冷静に考える必要があります。

 

「②玉の堅さ(玉の安全度)」は、この瞬間はものすごく危険ですが、もともとが美濃囲いの堅陣なので、守りの手が入ればけっこう堅くなります。▲7九歩の底歩や▲4八銀が入ると、それなりに粘りのある形になります。

「③駒の働き」の差は、ほぼ「大駒の働き」の差なので、大駒の利きを上手く止めることができれば、その差を小さくすることができます。実戦ではこの後、(必ずしも上手くいったかどうかはともかく)▲7九歩の底歩で龍の横利きを遮断したり、△9九角成と香を取られたときに▲8八歩と馬の利きを遮断したりしました。

そもそも、「②玉の堅さ」と「③駒の働き」は、両方とも後手の大駒の影響が大きく、重複する部分がありました。ということは、後手の大駒の働きを弱くする手を指せば、②と③の両方に効果があります。現状の放置は、②と③の両方の点で非常にまずいですが、先手の受けの手の価値が高い局面です。

ただし、後手は△8九龍も△6六角もよく働いていて、一手で両方を押さえることはできません。駒損でもありますし、形勢が後手優勢であることは変わりません。

 

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

この辺りのニュアンスを含めてまとめ直したいと思います。

現局面では「②玉の堅さ(玉の安全度)」と「③駒の働き」が大差です。しかし、②と③の両方とも後手の大駒の利きを由来としているので、「④手番」を持った先手が大駒の利きをうまく遮断する手段があれば、後手勝勢とまでいえるような局面ではありません。その場合は、後手の駒得もそれほど大きくはないので、後手優勢というぐらいです。

 

実戦ではこの後、▲7九歩△7一歩▲7八龍△同龍▲同歩△8九飛(下図)となりました。▲7九歩の底歩で何とか△8九龍の横利きを遮断しようと試みましたが、△7一歩から龍の交換となって、再び△8九飛の一段飛車を打たれました。

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦(62手目△8九飛まで)

今度は底歩も効かないので、▲6九歩△同飛成▲4八銀△9九角成▲8八歩(下図)と、大駒の利きを遮断できる展開を狙って紛れを求めました。

形勢判断10:ノーマル四間飛車vs居飛車急戦(67手目▲8八歩まで)

一気に寄せられる展開は避けられましたが、駒損は大きくなっており、先手が苦しい形勢に変わりはありません。この後、形勢が接近したと思われる瞬間もありましたが、結局苦しいまま先手の私が敗北しました。

 

形勢判断シリーズ(No. 10)
前回:将棋の形勢判断:中飛車左穴熊 vs 向かい飛車、棋力と形勢判断
次回:

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将棋の形勢判断:中飛車左穴熊 vs 向かい飛車、棋力と形勢判断 https://shogijugem.com/keisei-handan-hidarianaguma-3429 Sat, 16 Jul 2016 07:16:10 +0000 https://shogijugem.com/?p=3429 将棋の形勢判断シリーズの第9回です。今回は向かい飛車 vs 中飛車左穴熊です。美濃囲い vs 穴熊の戦いでは、さばき合った直後の形勢判断が大事です。穴熊の金銀に離れ駒がある場合は、玉の堅さの評価が難しくなります。 &nb...

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将棋の形勢判断シリーズの第9回です。今回は向かい飛車 vs 中飛車左穴熊です。美濃囲い vs 穴熊の戦いでは、さばき合った直後の形勢判断が大事です。穴熊の金銀に離れ駒がある場合は、玉の堅さの評価が難しくなります。

 

形勢判断シリーズ(No.9)
前回:将棋の形勢判断:居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠、局面全体のバランスを考える
次回:将棋の形勢判断:四間飛車 vs 居飛車急戦、大駒の働きと形勢への影響

このページの目次

 

向かい飛車 vs 中飛車左穴熊のテーマ図

形勢判断9:中飛車左穴熊vs向かい飛車のテーマ図

先手向かい飛車vs後手中飛車左穴熊で、じゅげむの昔の実戦です。将棋倶楽部24で、先手の私がレーティング 1800台、後手がレーティング 1700台の対局です。この対局では、中飛車左穴熊への対策が全くできていなくて、中盤の入り口あたりで早くも形勢不利になってしまいました。その後で何とか盛り返しましたが、図の78手目の局面は飛車を交換した直後で、終盤戦に入ろうかというタイミングです。

振り飛車vs居飛車の対抗型の中盤では、互いの攻め駒同士をさばき合う展開が多いです。この対局は、向かい飛車vs中飛車左穴熊ですが、双方の玉が盤面の同じ側(先手から見て右側)に囲われているという点では、振り飛車vs居飛車の対抗型に似ています。盤面の左側では攻撃陣が直接向かい合うことになるので、しばしばさばき合いの展開になります。このような将棋では、さばき合った直後にどちらが優勢なのかが問題となります。

一般的に穴熊は美濃囲いよりも堅いです。盤面の左側で互角のさばき合いをしても、玉の堅さの分だけ不利になることが十分あり得ます。その点には特に注意が必要です。ただし、今回の後手の穴熊は金銀がバラバラで、穴熊といえども十分な堅さとは言えません。

穴熊に対してさばき合いを挑むときに、「どのような局面なら美濃囲いでも優勢か」「さばき合いを挑むと不利になるのはどのような局面か」、その2つのパターンの境界を探ることが大事です。そのためには、さばき合った直後の形勢判断が重要です。

 

形勢判断の4要素

①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、という形勢判断の4項目について考えます。

 

駒の損得

形勢判断9:中飛車左穴熊vs向かい飛車のテーマ図

まず「①駒の損得」は、「先手の1歩損、8二のと金」が先手と後手の差です。

ただし、8二のと金は後手玉から遠すぎるので、仮に「①駒の損得」で考慮に入れたとしても、「③駒の働き」でマイナスになることは明白です。一応、桂香取りになっていますが、飛車でも拾える桂香なので、桂香取りという要素が大きなプラスになるとは思えません。それどころか、▲8二飛と攻防に飛車を打つための邪魔駒にすらなっています。というわけで、8二のと金は「①駒の損得」では無視することにします。

すると、先手の1歩損のみを考えればいいですが、互いに歩切れではなくて、1歩損の先手も持ち駒に歩を2枚持っているので、「①駒の損得」はほぼ互角と考えていいと思います。

 

玉の堅さ

形勢判断9:中飛車左穴熊vs向かい飛車のテーマ図

次に「②玉の堅さ」です。

先手は金銀3枚の美濃囲いが丸々残っています。▲5九歩の底歩も利きます。横からの攻めには、なかなか抵抗力がありそうです。4六歩を突いてある形なので、こびん攻めにもやや耐性があります。後手が穴熊なので端攻めの危険も少ないです。ただし、美濃囲いは穴熊ほど玉が深くはないので、△5六歩と5筋に歩が伸びてくる形がけっこう先手玉に近いので要注意です。

一方、後手の囲いはどうでしょうか。5三銀が少し遠くに離れているので、金銀3枚の囲いと言えるかは微妙なところで、さらに3二金も浮き駒となっています。3三角も受けに利いていますが、▲4五桂の筋で攻められる弱点にもなっています。穴熊なので玉が深いのは利点ですが、現局面での後手陣の形には不安が多いです。

ただし、3二金型は必ずしもマイナスではありません。▲6一飛と一段飛車を打たれた時に金が当たりにならないですし、▲8六角と飛び出したときの角のラインからも逃げています。3一金型と3二金型の優劣の比較は、攻め方や状況によって異なります。

実戦を指している時は、先手の美濃囲いの方が安全度が高そうだと感じていましたが、改めて眺めてみても先手玉の方が堅そうに見えます。しかしながら、対穴熊戦では、玉の深さの利点が見た目以上に効いてくる場合もあります。

「②玉の堅さ」は先手やや有利としておきますが、囲いに対する理解度によって評価が変わってきそうな項目です。

 

駒の働き

形勢判断9:中飛車左穴熊vs向かい飛車のテーマ図

「③駒の働き」については、先後とも玉と反対側の桂香は取られそうな駒です。玉側の金銀については「②玉の囲い」の項目で考えたので、この項目では除外します。注目すべきは、双方の角の働きと5五の歩です。

現局面での先手の角は、攻めにも受けにもあまり働いていません。もちろん1手で▲8六角と銀取りに飛び出すことはできます。しかし、今の6八のポジションでは受けにもあまり働いていないという認識が必要です。それどころか、△6七歩と叩かれたりして、攻めの格好の目標になり得ます。実際に、実戦では角を6八という中途半端な位置に置いたままにしておいたせいで、その角を攻められてひどい目にあいました。すなわち、先手の角は比較的簡単に働かせることはできますが、放置していては駄目な駒です。

一方で、後手の角は現状でも受けにある程度働いていますが、△5六歩と角筋を通したときに働きがかなり良くなります。△6六角と出る手は美濃囲いの急所の3九の地点をにらんでいますし、△9九角成と香を取ってから馬を自陣に引くような順もあります。△5六歩は攻めの拠点にもなりますし、同時に角筋を通すので、非常に味の良い手になっています。

そこで、「③駒の働き」を、「先手の6八角」と「後手の3三角と5五歩のセット」で比較すると、後手の方が少し良いかもしれません。すぐに△5六歩には▲7七角で角交換を迫る手もありますが、それでも△5六歩の拠点は残ります。もし、△8八飛~△8九飛成で桂を取られると、▲7七角ができなくなるという変化も考えられます。また、すぐに▲8六角と働かせる手に対しては、3二金があらかじめ角筋から逃げているのが、後手にとってのプラス要素です。

というわけで、「③駒の働き」は後手やや有利とします。(ただし、「②玉の堅さ」に関係する玉側の金銀を除いています。)

 

手番

最後に「④手番」は先手です。

手番の評価には、「読み」の要素がかなり含まれています。厳しい手があればその分だけ手番の価値が高くなりますし、逆に手詰まりに近い局面では手番の価値は低くなります。ただし、具体的な読みを入れなくても、「終盤の入り口で、しかも持ち駒がそれなりにあって手段が多い」という状況から、「手番の価値はまあまあ高い」という予想ができます。

 

総合的な形勢判断

以上、①~④の4項目をまとめると、

形勢判断9:中飛車左穴熊vs向かい飛車のテーマ図

①駒の損得:ほぼ互角
②玉の堅さ:先手やや有利
③駒の働き:後手やや有利
④手番:先手

です。②~④の項目は先後で割れていますが、「③駒の働き」にそれほど差があるわけではないので、「②玉の堅さ」で勝っていて「④手番」も握っている先手が有利としたいです。

 

ところが、実戦では先手の私が負けました。この後の局面で、何度も疑問手を指してしまったからです。

対局後に形勢判断をすると、どうしても勝敗の結果が先入観になってしまうという問題点があります。これは棋譜並べをしている時にも言えることで、特にプロの棋譜を並べていると、形勢自体が微差であることが多いので、形勢判断が勝敗の結果に左右されてしまうことが多いです。そこまで微差の局面ではなくても、どうしても勝敗の結果に形勢判断が引きずられる部分があります。あるいは、実戦で現れた特定の手順が過大評価されて、形勢判断に影響してしまう傾向もあります。

例えば、今回の対局では先手の美濃囲いが攻め潰されてしまったので、「②玉の堅さ」の評価が多少後手びいきになっている可能性をぬぐえません。また、後手の穴熊はバラバラなので、実戦よりも上手い攻めの手順があった可能性があります。そうすると、「②玉の堅さ」の評価は「先手やや有利」どころではなく、「はっきり先手有利」だった可能性もあります。

また、「③駒の働き」についても、ほぼ互角であってもおかしくありません。先手が最善を尽くした場合に、△5六歩の一手がなかなか入らない可能性もありますし、▲8六角から角を上手く捌いて、後手の3三角の働きを上回ることも考えられます。

 

これらのことは、形勢判断自体が棋力によって左右されることも示しています。

棋力が上がれば形勢判断の精度は当然上がりますが、この場合の「棋力によって左右される」とはそういう意味ではありません。

プロ同士で対局すれば先手が9割勝つような局面でも、アマチュア初段ぐらいの棋力なら後手を持った方が勝ちやすいという局面もあると思います。純粋な形勢の善し悪しだけではなく「指し手の分かりやすさ」も大きな要素です。そう考えると、私の形勢判断はあくまでも「私ぐらいの棋力の目線での形勢判断」ということになります。形勢判断の記事の最初にレーティングを明示しているのはそのためです。

 

形勢判断シリーズ(No.9)
前回:将棋の形勢判断:居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠、局面全体のバランスを考える
次回:将棋の形勢判断:四間飛車 vs 居飛車急戦、大駒の働きと形勢への影響

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将棋の形勢判断:居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠、局面全体のバランスを考える https://shogijugem.com/keisei-handan-balance-2850 Fri, 08 Jul 2016 04:05:09 +0000 https://shogijugem.com/?p=2850 将棋の形勢判断シリーズの第8回です。今回は居飛車穴熊vs中飛車銀冠です。形勢判断の4要素は便利ですが、各要素をバラバラに考えてしまう問題点があります。特に穴熊はバランスを取りづらい戦法なので、「玉の堅さ」や「駒の働き」を...

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将棋の形勢判断シリーズの第8回です。今回は居飛車穴熊vs中飛車銀冠です。形勢判断の4要素は便利ですが、各要素をバラバラに考えてしまう問題点があります。特に穴熊はバランスを取りづらい戦法なので、「玉の堅さ」や「駒の働き」を慎重に見極める必要があります。

 

形勢判断シリーズ(No.8)
前回:将棋の形勢判断:飯島流引き角 vs 四間飛車
次回:将棋の形勢判断:中飛車左穴熊 vs 向かい飛車、棋力と形勢判断

このページの目次

 

居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠のテーマ図

形勢判断8:居飛車穴熊vs中飛車銀冠

居飛車穴熊vs中飛車銀冠の昔の実戦です。将棋倶楽部24で先後とも約レーティング 1900の対局です。

じゅげむが先手番です。当時の私は、居飛車vs振り飛車の対抗型で、居飛車側を持つことが滅多にありませんでした。居飛車穴熊の経験も少ないので、指すのに不慣れで苦労しました。

テーマ図は72手目の局面で、角交換と銀交換をした直後に、後手がじっと△6二歩と自陣の傷を消したところです。

この局面を題材にしたのは、予想していたよりも先手の形勢がイマイチで、このあと実戦で苦労したからです。ネット対局の早指しで、実戦中はじっくりと考える余裕がなかったので、疑問を持ったこの局面について落ち着いて考えてみたいと思いました。大きな駒交換があった直後なので、形勢判断には適したタイミングです。

 

形勢判断の4要素(駒の損得は互角)

オーソドックスな形勢判断の手法を用いて、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の各項目を考えます。

「①駒の損得」は歩の枚数も含めて互角なので、他の3項目について考えます。

 

玉の堅さ:2枚穴熊と2枚銀冠の比較

形勢判断8:居飛車穴熊vs中飛車銀冠

「②玉の堅さ」は、先手の金銀2枚の穴熊に対して、後手は金銀2枚の銀冠です。果たして、どちらが堅いでしょうか?

単純に考えると、金銀の枚数は2枚で同じなので、玉が深い穴熊の方が銀冠よりも堅いと言えそうです。しかし、この一見堅そうな穴熊側を持ってかなり苦労しました。

 

まず、8五に歩が伸びている形なので、いつでも△8六歩▲同歩△8七歩の筋があります。
6六の金が浮いているので、△8七歩以下、▲同銀△5七角の両取りの筋が気になります。

この筋がまともに決まると、いくら穴熊といえども崩壊します。
注目すべきは、6六金のために、△8六歩~△8七歩の筋が受けづらくなっていることです。
玉の堅さの項目に、囲いの金銀桂香以外の駒が影響を与えています。

8五に歩が伸びている形は、8四に空間が空いているので、後手にとっても気持ち悪いです。
しかし、△8六歩と突く権利は後手にあるので、8筋の歩を使った攻防の主導権は後手が握っています。

したがって、8筋の歩の関係は、穴熊側のデメリットになります。

 

後手の銀冠は6筋に△6二歩と打って謝った形ですが、低い陣形でスキが少ないと評価することもできます。

△6二歩は玉から2マス以内のエリアにあり、同じく玉から2マス以内の6三の地点に利いています。以下は、この点についての参考記事です。

将棋の守り方のコツ:玉の囲いと2マス以内のエリア
将棋の格言の拡張「玉の守りは金銀三枚+桂香」の続編です。 この記事では、玉の囲いを構成する金銀などの守備駒の位置について考えます。 玉の...

 

▲6四歩が攻めに利いているので、△6二歩の守備力と相殺するという考え方もあります。

しかし、▲6四歩は6三の1マスしか利きがないのに対して、△6二歩は6三の地点を「利き」で守るだけでなく、歩の「存在」によって6二の地点をカバーしています。すると、△6二歩は2マス分働いていることになります。

この点を積極的に評価すると、6筋の歩の関係は、銀冠側のメリットになります。

 

このように、穴熊側のデメリットと、銀冠側のメリットの両方があります。
これらを考慮する必要があるので、単純に穴熊の方が堅いとは言えないです。

 

駒の働き:飛車と金の比較

形勢判断8:居飛車穴熊vs中飛車銀冠

「③駒の働き」はどうでしょうか?

玉の囲いを構成している玉側の金銀桂香「以外」の駒について考えます。
盤面の右側の桂香は、先後ともに遊び駒になっているので互角です。

問題は盤面の飛車と金の働きです。

 

まずは、▲6六金と△3二金を比較します。

「玉に近い金の方が働きが良い」という論理から、先手の方が良いという判断もあり得ます。

しかし、▲6六金は玉から斜めに3マス離れています。
穴熊の玉から2マス以内のエリアに、6六金の利きはありません。
現局面での▲6六金は、中途半端な位置だと言えるでしょう。

将棋の守り方のコツ:玉の囲いと2マス以内のエリア
将棋の格言の拡張「玉の守りは金銀三枚+桂香」の続編です。 この記事では、玉の囲いを構成する金銀などの守備駒の位置について考えます。 玉の...

 

また、▲6六金は浮き駒で、△5七角のスキがあります。
さらに、現局面で▲6六金は△5六飛のさばきを受けているので、自由に動ける駒ではありません。▲6六金の中途半端な位置取りを解消しづらいです。

振り飛車で△3二金型は好形の一つとされています。
特に中飛車では、△3二金型は頻繁に現れます。陣形のバランスを重視した中飛車と△3二金型の相性が良いからです。
実際にテーマ図の局面でも、先手の角の打ち込みを消していますし、▲3四飛と走ったときの守りにも役立ちます。

したがって、「金が玉に近い」のは、たしかにプラス要素ですが、▲6六金と△3二金の駒の働きの優劣は難しいです。

 

▲3八飛と△5一飛を比較するとどうでしょうか。

両方ともすぐに敵陣に成り込める状況ではありませんが、縦横に広いスペースに利いていて、攻めにも受けにも働いています。飛車の働きはほぼ互角です。

 

まとめると、▲6六金と△3二金の働きは優劣不明で、その他の駒の働きはほぼ互角です。

 

玉の堅さと駒の働きの総合評価:全体のバランスを考える

形勢判断8:居飛車穴熊vs中飛車銀冠

今のところ「②玉の堅さ」も「③駒の働き」も優劣不明です。それなら、②も③もほぼ互角か優劣不明という判断でいいのでしょうか? もう一歩踏み込んだ形勢判断をしたいです。

そこで、盤上と持ち駒を含めた全体のバランスについて考えてみます。

今までは、「金銀2枚の穴熊と銀冠」「▲6六金と△3二金」「▲3八飛と△5一飛」のようにバラバラに比較してきたものを、組み合わせの相性として考えたり、もっと総合的に局面全体のバランスとして考えたりしたいです。

 

たとえば、後手の△5一飛と△3二金という組み合わせは、自陣にスキが少なくて相性が良いです。先手が角を手駒にしている現局面では、この相性の良さが強調されています。

△5一飛のポジションは銀冠との相性も悪くないです。
銀冠の弱点である6一の地点を、△5一飛がカバーしています。
逆に、△5一飛の斜めの弱点である6二の地点を、銀冠の△7二金がカバーしています。

 

一方で、▲3八飛と▲6六金の組み合わせには、特に相性の良さがあるようには思えません。
互いにサポートするには、縦にも横にも離れすぎています。

先手の陣形は、玉は穴熊で端に寄っていて、▲6六金は上ずっています。
全体的にスカスカしていて、角の打ち込みには弱そうです。
穴熊は玉が深いですが、そのためにバランスを保つのが難しくなります。

 

以上から、「②玉の堅さ」と「③駒の働き」を全体的なバランスの観点から総合すると、後手の方がやや有利と判断できます。

 

手番:中盤から終盤

最後に、「④手番」は先手です。

中盤も後半に差し掛かっており、もう少しで終盤に入りそうな局面です。手番の価値はなかなか高くなっています。

仮に、現局面で後手の手番だったら、後手やや有利と判断していいと思います。

 

総合的な形勢判断:分析と総合

①~④の各項目をまとめると、

形勢判断8:居飛車穴熊vs中飛車銀冠

①駒の損得:互角(歩の数、持ち駒の枚数を含めて完全に互角)
②玉の堅さ、③駒の働き:総合して、後手やや有利
④手番:先手

となります。②と③を総合して後手やや有利ですが、手番は先手が握っているので、全体としてはほぼ互角か優劣不明です。少なくとも、大差の局面ではなく、どちらを持っても戦えそうな将棋です。

 

形勢を分析するときに、「分析」とは文字通り「分ける」ことです。

①~④の4項目に「分ける」、あるいは各駒の働きに「分ける」ことによって、局面を細かく見ることができます。

しかし、「分ける」だけでなく、一度バラバラにしたものを「組み合わせる」「まとめる」「総合する」ことも大事です。「分析」と「総合」のどちらか一方のみでは、形勢判断の精度は上がらないでしょう。

 

形勢判断シリーズ(No.8)
前回:将棋の形勢判断:飯島流引き角 vs 四間飛車
次回:将棋の形勢判断:中飛車左穴熊 vs 向かい飛車、棋力と形勢判断

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将棋の形勢判断:飯島流引き角 vs 四間飛車 https://shogijugem.com/keisei-handan-iijimaryu-2472 Thu, 30 Jun 2016 04:50:44 +0000 https://shogijugem.com/?p=2472 将棋の形勢判断シリーズの第7回です。 今回は飯島流引き角 vs 四間飛車の中終盤です。飯島流引き角戦法は、居飛車が振り飛車と同じ美濃囲いに囲えるので有力です。玉の堅さに差がある通常の対抗型の急戦とはやや感覚が異なるので、...

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将棋の形勢判断シリーズの第7回です。

今回は飯島流引き角 vs 四間飛車の中終盤です。飯島流引き角戦法は、居飛車が振り飛車と同じ美濃囲いに囲えるので有力です。玉の堅さに差がある通常の対抗型の急戦とはやや感覚が異なるので、駒をさばいた後の形勢判断を慎重に行う必要があります。

 

形勢判断シリーズ(No.7)
前回:将棋の形勢判断:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値
次回:将棋の形勢判断:居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠、局面全体のバランスを考える

このページの目次

 

飯島流引き角戦法 vs 四間飛車のテーマ図

形勢判断7:飯島流引き角戦法vs四間飛車のテーマ図

飯島流引き角戦法 vs 四間飛車のじゅげむの昔の実戦です。将棋倶楽部24で先後ともレーティング約 1800の対局で、後手の四間飛車側が私です。

▲7六歩不突きが特徴の飯島流引き角戦法への対策が手探りで、本局では一手損ですが序盤に向かい飛車に振り直して、左銀を繰り出して角頭を狙いました。それに対して、先手は飛車角交換で駒をさばく激しい手順を選びました。

通常の対抗型の急戦では、先手が船囲いで玉が薄いので、成立しそうにない展開です。しかし、飯島流引き角戦法では先手の囲いが振り飛車と同じ美濃囲いなのがポイントです。

ちなみに、図の53手目の局面では後手の飛車が再び4筋に戻って来ています。

局面は中盤の後半(あるいは、いわゆる「中終盤」)といったところでしょうか。まだ互いの美濃囲いには手が付いていませんが、先手は持ち駒が豊富で、後手は敵陣に龍がいます。ここでの形勢判断をしたいのですが、気になる点はやはり、先手が急戦でよくある船囲いではなく、振り飛車側と同じ美濃囲いであるところです。先手の囲いの違いが、全体の形勢判断にどのように影響するでしょうか。

 

形勢判断の4要素

いつものように、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4項目の分析で形勢判断をします。

 

駒の損得

形勢判断7:飯島流引き角戦法vs四間飛車のテーマ図

「①駒の損得」は、飛車角交換と先手の香得です。さらに先手は歩が1枚多いです。

飛10点、角8点、香3点、歩1点とすると、先手は「角香歩」の12点を2倍して合計24点、後手は「飛」のみを2倍して合計20点。先手がやや駒得です。しかし、歩の総数では先手が1枚多いですが、持ち駒としては1歩ずつなので、素直に1歩得といえるのかは怪しいです。とはいえ、ほぼ互角からやや先手駒得といっていいでしょう。

 

以下は、駒の点数についての参考記事です。

3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)
前回の続きです。谷川浩司さん、渡辺明さん、青野照市さんの3人のプロ棋士の駒の価値を比較します。将棋の上達に役立つ駒の価値についての理解を深め...

 

玉の堅さ

形勢判断7:飯島流引き角戦法vs四間飛車のテーマ図

「②玉の堅さ」は、同じ美濃囲いでほぼ互角です。▲5七銀と△6四銀の位置の違いや、▲1一馬の自陣への利きの影響で、厳密に同じ形ではありませんが、基本は同じ美濃囲いなのでほぼ互角といっていいと思います。

通常の居飛車 vs 振り飛車の対抗型の急戦では、居飛車が船囲いのことが多いです。美濃囲い vs 船囲いだと、美濃囲いの方が堅いので、通常の急戦では居飛車側が神経を使う必要があります。互角のさばき合いでは、居飛車が玉の堅さの分だけ不利になってしまいます。

しかし、飯島流引き角戦法では居飛車が振り飛車と同じ美濃囲いなので、居飛車側としては強く戦うことができます。玉の堅さが互角なら、自分が優勢な場合の形勢判断もしやすくなります。もし玉の堅さで劣っていると、「別のところでポイントを稼いでも、優勢になっているとは限らない」ということが起こります。

 

駒の働き

形勢判断7:飯島流引き角戦法vs四間飛車のテーマ図

「③駒の働き」についてです。

まず、先手のマイナスポイントとして、▲1九香は取られるだけの駒、▲1一馬は盤面の隅にいるので現局面では働きがやや弱いです。また、両者の「と金」を比較すると、3八にいる後手の「と金」の方が良い位置にあります。

後手は、△2九龍は敵陣でよく働いているのですが、自陣の△4二飛が問題です。

駒の働きは、少なくとも大差ではなさそうですが、厳密な比較は難しいです。

 

後手としては、気になるのが△4二飛だけなので、この駒が上手くさばければ駒の働きには文句がありません。しかし、一番強い駒である飛車なので、さばけなかった時のマイナスは大きいです。

先手としては、2一の「と金」の働きが悪かったり、▲1九香が取られるだけの駒だったり、▲1一馬が盤面の隅にいたりで、気になる点は多いです。しかし、▲1一馬は自陣に引きつけられそうですし、△4二飛がさばけなかった時のマイナスに比べると、先手の他の要素のマイナスはそれほど大きくない気もします。

 

手番

「④手番」は後手です。

手番の価値がどれほど高いかの判断ですが、まだ本格的な終盤戦の手前であるので、手番の価値がものすごく高い局面ではありません。

しかし、先手は持ち駒が豊富ですし、後手は△1九龍と持ち駒を補充する手が残っています。手番の価値はまあまあ高いといえます。

 

総合的な形勢判断

①~④をまとめると、

形勢判断7:飯島流引き角戦法vs四間飛車のテーマ図

①駒の損得:ほぼ互角か先手がやや駒得。
(先手「角香歩(24点)」vs 後手「飛(20点)」)
②玉の堅さ:ほぼ互角。
③駒の働き:比較が難しい。少なくとも大差ではない。
④手番:後手。

というわけで、ほぼ互角の項目が多く、どちらが優勢であるかを断定するのは難しいです。
①は先手やや良し、④は後手なので、4要素の優劣が割れています。

 

例えば、手番を握った後手は△1九龍で香を補充できるので、後手が△1九龍を選べば、駒の損得はほぼ飛車角交換で後手が逆に良くなります。先手がもし船囲いだったら、玉の堅さと飛車角交換の差で、あっさり後手有利と判断できるような状況です。しかし、先手の囲いが横からの攻めに強い美濃囲いなので、飛車に対しても抵抗力があります。ましてや、後手の飛車の1枚は自陣で眠っているので、敵陣の龍1枚だけではすぐに速い攻めはなさそうです。

他には、3八の「と金」を生かして、△4八歩△3七とも考えられます。しかし、△4八歩の攻めは手数がかかりますし、4筋に香を打たれて4二の飛車をいじめられる筋も気になります。△3七とは有力そうで、次に△4七とが実現すれば厳しいです。4二の飛車がさばける形になれば後手優勢になりそうです。他の手として、すぐに飛車をさばこうとして△4五飛なら▲1八角の龍飛車両取りがあります。

 

一方で、後手にとっての懸念材料もあります。

次に▲6六馬と引かれると、盤面の左側(玉側)は、先手の勢力の方が強くなりそうです。馬の力は強大ですし、持ち駒の数が先手の方が多いので、勢力争いでは有利になりやすいです。特に問題なのは、互いの美濃囲いの急所の端です。▲6六馬と馬を引きつければ、端の攻防では先手が有利になるかもしれません。

ただし、後手には△2九龍がいるので、端や玉頭での攻防になったときに、「端や玉頭の攻め」と「龍による横からの攻め」を組み合わせることができます。したがって、先手もその点は慎重にならざるを得ないので簡単ではありません。

 

結論としては優劣不明。形勢は少なくとも大差ではない。

結論がはっきりしなくて申し訳ないですが、「(自分の棋力の範囲で)大差ではない」という判断自体は有益です。悲観する必要は全くないし、十分にチャンスはある将棋です。逆転を狙った無理な指し手も回避できます。

 

実戦ではこの後、端や玉頭方面で激しい攻防が展開されました。後手は受けに回ったのですが、先手に激しく攻められて、危険な局面が何度もありました。先手の攻めミスがあり、後手の受けミスもあり、形勢は混沌としていましたが、攻めている先手の方にチャンスが多い展開だったと思います。しかし、最後に先手が大きなミスをして、攻めが切れてしまいました。

 

形勢判断シリーズ(No.7)
前回:将棋の形勢判断:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値
次回:将棋の形勢判断:居飛車穴熊 vs 中飛車銀冠、局面全体のバランスを考える

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将棋の形勢判断:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値 https://shogijugem.com/keisei-handan-teban-2071 Sat, 18 Jun 2016 15:37:35 +0000 https://shogijugem.com/?p=2071 将棋の形勢判断シリーズの第6回です。 今回は特に、「②玉の堅さ」と「④手番の価値」についての考察が多くなっています。 玉の堅さについては、傷のある銀矢倉と穴熊の比較です。手番の価値については、形勢判断の他の要素(駒の価値...

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将棋の形勢判断シリーズの第6回です。

今回は特に、「②玉の堅さ」「④手番の価値」についての考察が多くなっています。

玉の堅さについては、傷のある銀矢倉と穴熊の比較です。手番の価値については、形勢判断の他の要素(駒の価値、玉の堅さなど)が、手番とどのように関係するかを具体的な読みの中で考えています。

 

形勢判断シリーズ(No.6)
前回:将棋の形勢判断:4つの要素で判断する枠組みの問題点
次回:将棋の形勢判断:飯島流引き角 vs 四間飛車

このページの目次

 

向かい飛車 vs 三間飛車の相振り飛車のテーマ図

形勢判断6:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

テーマ図は相振り飛車の実戦で、将棋倶楽部24で先後ともにレーティング約 1800の対局です。先手向かい飛車 vs 後手三間飛車の戦型で、私が後手を持っています。けっこう昔の対局ですが、当時の私は先手の向かい飛車側を持つことが多く、三間飛車側は不慣れでした。しかし、先後逆では多く指している戦型なので、その時の経験が本局では役に立ちました。

現局面は中盤から終盤への入り口あたりで、ちょうど金銀交換があったところです。中盤から終盤への入り口というタイミングの点でも、駒の交換があったという点でも、形勢判断をしたい局面です。そして、形勢判断の結果次第で今後の方針を考えたいところです。

 

形勢判断の4要素

そこで、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、のオーソドックスな形勢判断の4要素から優劣を分析します。

 

駒の損得と手番

形勢判断6:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「①駒の損得」と「④手番」の2項目はわかりやすいです。

「①駒の損得」については、金銀交換のみです。その他は、持ち駒の歩も盤面の歩も先後で同じ枚数です。すなわち、先手の銀1枚(5点)と後手の金1枚(6点)を比較すればいいので、金と銀の差の分だけ、わずかに後手が駒得です。

以下は、駒の点数についての参考記事です。

3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)
前回の続きです。谷川浩司さん、渡辺明さん、青野照市さんの3人のプロ棋士の駒の価値を比較します。将棋の上達に役立つ駒の価値についての理解を深め...

 

「④手番」は後手。

 

玉の堅さ

形勢判断6:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

問題は「②玉の堅さ」と「③駒の働き」の2項目です。

まず、「②玉の堅さ」については、先手が銀矢倉で後手が穴熊です。しかし、先手の銀矢倉は3筋と4筋の歩のカバーがありません。一方で、後手の穴熊は急所の8筋の歩のカバーがないですし、守りの金を5一の角で狙われています。

これらの要素を考慮して、先手玉と後手玉の堅さをどのように評価すればよいでしょうか?

先手の銀矢倉は金銀3枚の形がそのまま残っています。その意味では好形で、まだ堅いと言えます。しかし、3筋と4筋の歩がないので、いつでも△3六歩や△4六歩の「叩きの歩」や「連打の歩」の手筋で形を乱されます。将来的に、△3五桂の筋などもあります。これらの分だけ、傷のない銀矢倉と比べて弱体化しています。しかし、金矢倉と比べて銀矢倉の長所もあって、△3六歩の叩きには▲同銀左と形良く取れます。△3六歩▲同銀左△3五歩の連打の歩には、▲4七銀と元の位置に戻れます。一方で、銀矢倉は3七の地点が弱いです。今は3五に先手の飛車がいるので無理ですが、△2五桂か△4五桂で後手の飛車と桂が一度に3七の地点を狙う形になると脅威です。

ともあれ、先手玉の堅さの評価としては、銀矢倉がやや弱体化した程度です。

後手の穴熊も金銀3枚の形はそのまま残っています。ただし、急所の8筋に歩がないのは、穴熊にとってかなり怖い形です。例えば、すぐに▲8三歩と打たれても対応に困ります。△同銀でも△同金でも▲8四歩と連打されます。金銀が上ずって、金銀1枚分ぐらいの守備力はすぐになくなってしまう形です。先手の7筋と9筋の歩が伸びているので、なおさら対応しづらいです。かといって、▲8三歩に△7一銀と引くのは、▲8二銀から文字通り金銀1枚をはがされて、もう一度▲8三歩と叩かれます。

いくら穴熊とはいえ、急所を突かれればもろいです。後手玉の堅さの評価としては、もともとの金銀3枚の守備力から、少なくとも金銀1枚分は差し引いて考えた方がいいでしょう。さらに、5一の角に狙われていることを考慮に入れると、もっと堅さの評価は下がります。

 

先手の銀矢倉と後手の穴熊のそれぞれの傷を、金銀の枚数をモノサシにして定量的に評価することを試みます。

以下は、囲いの堅さの定量的な評価についての参考記事です。

将棋の形勢判断:玉の囲いの堅さの定量的な評価
将棋の形勢判断シリーズの第2回です。 今回は、形勢判断の4要素の一つである「②玉の堅さ」を深掘りします。 相手に攻められて「基本...

 

穴熊の8筋の傷は金銀1枚分とします。銀矢倉の3筋と4筋の傷は穴熊ほどひどくはないので、金銀0.5枚分と評価しておきます。穴熊が5一の角に狙われている点については、角を切れば守りの金が1枚減るので金銀1枚分ですが、駒損の攻めですし角を切るとは限らないので、とりあえず金銀0.5枚分と評価します。

すると、先手の銀矢倉は(金銀3枚-金銀0.5枚=)金銀2.5枚の評価、後手の穴熊は(金銀3枚-金銀1枚-金銀0.5枚=)金銀1.5枚の評価となります。すなわち、「金銀2.5枚の銀矢倉」と「金銀1.5枚の穴熊」のどちらが堅いか、という比較になります。傷がないもともとの囲いとしては、金銀の枚数が同じでも銀矢倉より穴熊の方が堅いですが、流石に金銀1枚分違うとなると銀矢倉の方に軍配を上げたくなります。

というわけで、「②玉の堅さ」は先手やや有利。

 

駒の働き

形勢判断6:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

最後に、「③駒の働き」はどうでしょうか。

大駒の働きは先手が良さそうです。5一の角は穴熊の急所の6二の金と、同時に3三の桂を狙っています。後手の持ち駒の角よりも働いていそうです。飛車の働きを比較すると、互いの飛車が3三の桂をはさんで向かい合っている形ですが、このように駒をはさんだ形は後手の飛車にとって負担です。3二の飛が横に移動すると▲3三飛成で桂を取られてしまいますし、3三の桂が△2五桂か△4五桂で跳ねると今度は▲3二飛成で飛車を取られてしまいます。

玉と逆側の小駒については、先手は9九の香と8九の桂が遊んでいます。一方、後手は1一の香が遊んでいます。3三の桂をどう評価するかですが、上手く△2五桂や△4五桂が成立して3七の銀を狙う形になれば、先手の8九の桂と比べて圧倒的に働くことになります。しかし、現状では狙われている駒でもあるので、何とも言えないところです。

総合的に見ると、「③駒の働き」は、大駒の働きに勝る先手がやや有利としたいです。

 

総合的な形勢判断

形勢判断6:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

①~④の4項目がすべて出そろいましたが、

①駒の損得:金銀交換で後手がわずかに駒得
②玉の堅さ:先手やや有利
③駒の働き:先手やや有利
手番:後手

ということで、先手が②と③、後手が①と④で評価が割れています。大差となっている項目もないので、どちらが優勢なのか判断するのが難しいケースです。少なくとも、私の棋力ではどちらが優勢かを断定できません。

例えば、手番を握った後手が△8三歩と穴熊の傷を消したらどうでしょうか。この一手で「②玉の堅さ」は逆転しますが、「④手番」は先手に回ります。手番を握った先手が▲3三角成と桂を取れば、「①駒の損得」は逆転します(変化図1)

変化図1

他の手として、△4四角▲3四飛△9九角成と香を取る順も考えられます。一瞬、「①駒の損得」がかなり後手有利に振れますが、「④手番」を握った先手が▲8三歩と穴熊の急所に手を付けます。仮に▲8三歩△同銀▲8四歩△同銀▲同飛となれば、穴熊の銀を1枚はがせて「②玉の堅さ」の差は広がり、さらに「①駒の損得」も逆転しています(変化図2)

変化図2

△8三歩の変化でも△4四角の変化でも、中盤から終盤なので「④手番」の価値が高くなっているのがポイントです。手番を握れば①や②の要素を、一手でひっくり返せるわけです。

本譜は△8三歩でも△4四角でもなく、△2四角▲3四飛△6一金という手順で後手は受けに回りました(変化図3)

変化図3

5一の角を取る手に期待しましたが、以下▲8三歩から激しく攻められる展開となりました。最終的には、受けでしのいで反撃した後手の勝ちとなりましたが、途中で危ない変化もあり、形勢判断の局面でどちらが優勢だったのかは不明です。

 

形勢判断シリーズ(No.6)
前回:将棋の形勢判断:4つの要素で判断する枠組みの問題点
次回:将棋の形勢判断:飯島流引き角 vs 四間飛車

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将棋の形勢判断:4つの要素で判断する枠組みの問題点 https://shogijugem.com/keisei-handan-yoso-1957 Mon, 23 May 2016 07:45:43 +0000 https://shogijugem.com/?p=1957 将棋の形勢判断シリーズの第5回です。 今回は前回とは異なり、優劣の見極めが難しいケースです。オーソドックスな形勢判断の4要素は、非常にわかりやすい枠組みですが、各要素の評価は必ずしも簡単ではありません。   形...

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将棋の形勢判断シリーズの第5回です。

今回は前回とは異なり、優劣の見極めが難しいケースです。オーソドックスな形勢判断の4要素は、非常にわかりやすい枠組みですが、各要素の評価は必ずしも簡単ではありません。

 

形勢判断シリーズ(No. 5)
前回:将棋の形勢判断:優勢か劣勢かがわかりやすい場合
次回:将棋の形勢判断:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値

このページの目次

 

三間飛車 vs 居飛車急戦のテーマ図

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

三間飛車 vs 居飛車急戦の実戦です。後手のじゅげむがレーティング約 2000で、先手は約 2200の格上です。普段、振り飛車を指すことの多い私が居飛車側を持ったのですが、仕掛けにも苦慮し、玉の薄さにも苦しんだ一局でした。

図は66手目の局面で、中盤から終盤に突入する辺りです。少し前の中盤の攻防で、激しく駒を取り合う展開になりました。

後手は龍を敵陣に成り込んでいますが、玉形はかなり乱れています。一方で、先手は4六銀付きの高美濃囲いが丸々残っています。中盤から終盤への入り口は形勢判断のタイミングとして一つのポイントです。なぜなら、終盤が煮詰まってくるにつれて、スピード勝負になってきて、特に、詰む詰まないの最終盤では駒の損得などは関係なくなることが多いからです。そうなる前の段階で形勢判断をしておこうというわけです。

 

形勢判断の4要素

そこで、図の局面での形勢判断をしてみたいです。オーソドックスな形勢判断の方法として、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4つのポイントから分析します。

 

駒の損得

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

①駒の損得は、先手の「銀2枚」と後手の「飛桂」の比較です。

飛10点、銀5点、桂4点とすると、先手「銀2枚(20点)」、後手「飛桂(28点)」となって、後手の駒得です。(駒を1枚得すると、相手の駒が1枚減り、2枚分の戦力差となるので駒の点数を2倍しています)

さらに、後手の龍と「と金」が成り駒になっている点も考慮すべきかもしれませんが、いずれにしても、後手の駒得です。

 

駒の点数については、こちらの記事を参考にしてください。

3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)
前回の続きです。谷川浩司さん、渡辺明さん、青野照市さんの3人のプロ棋士の駒の価値を比較します。将棋の上達に役立つ駒の価値についての理解を深め...

 

玉の堅さ

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

②玉の堅さは、一見して先手の方が堅そうです。

先手は、4六銀付きの高美濃囲いが手付かずで残っています。しかし、高美濃囲いは横からの攻めに対して、それほど強いわけではありません。とりわけ、飛車や龍で横から攻められる展開には弱いです。▲5九歩の底歩も打てないです。既に△8九龍ににらまれていて、さらに後手は持ち駒に2枚目の飛車がありますので、先手は玉の堅さについて楽観はできません。

後手は金2枚に角が付いた玉形ですが、いかにも薄いです。△5三金は上ずっていますし、△4二金は角が移動したら離れ駒になってしまいます。△3三角は囲いの一部というよりは、むしろ攻めの目標になりそうです。▲4五歩の拠点も気になります。ただし、先手が最強の攻め駒である飛車を持っていないのは大きいです。

先手も後手も気になる点はありますが、やはり高美濃囲いが手付かずで残っているのは大きいです。金銀の枚数から見ても、金銀の連結の良さから見ても、②玉の堅さは先手有利です。

 

駒の働き

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

次は、③駒の働き。

遊び駒の観点からは少し後手が悪そうです。というのは、先手の遊び駒が▲9九香のみであるのに対して、後手は△9一香が遊び駒であるのみならず、△7三桂も残ってしまっています。

大駒の働きを比較すると、△8九龍がいるので後手が良さそうです。後手の盤上の△8九龍は高美濃囲いの急所をにらんでいて、攻めに非常によく働いています。後手のもう1枚の飛車は持ち駒です。△3三角をどう評価するかは難しいですが、現局面では急所に利いているとは言えません。しかし、△6六角と急所に飛び出したり、馬を作って自陣に引きつける展開になったりすれば、非常によく働きます。一方、先手は持ち角が1枚のみです。

△8九龍の力が強大なので、③駒の働きは総合的に見て後手有利としたいです。(盤上の金銀の働きについては、②玉の堅さの項目で評価しています)

 

手番

④手番は先手です。

終盤に入っているので、手番を握っているのは大きいです。▲2五桂や▲4四銀などで攻めることもできますし、▲7三歩成で駒を補充する手もあります。▲5五歩もあるかもしれないです。実際にどう指すのかはともかく、終盤で持ち駒も豊富なので、手番を生かす指し手は色々と考えられます。

 

総合的な形勢判断

①~④までをまとめると、

形勢判断5:三間飛車vs居飛車急戦のテーマ図

①駒の損得:後手の駒得
②玉の堅さ:先手有利
③駒の働き:後手有利
④手番:先手

ということで、②と④は先手で、①と③は後手で、主張できるポイントが真っ二つに分かれています。

このような場合は、項目間の比較をする必要があります。例えば、「①駒の損得」と「②玉の堅さ」のどちらが大きいか、といった判断です。しかし、これらの比較をするにあたって、大きな問題があります。「①駒の損得」は一応具体的な数値でわかりますが、「②玉の堅さ」は簡単に数値化することができません。「③駒の働き」も数値化が難しいです。①から④までの4要素の分析で形勢判断をするという理論の枠組みの問題点ですが、これは今後の課題です。

「②玉の堅さ」の数値化、「③駒の働き」の数値化については、少しずつ研究して記事にしたいと思っています。

正直言って、私の棋力でこの局面の優劣を正確に判断するのは難しいです。しかし、互角ということはなく、局面の優劣はついているはずです。私ぐらいの棋力では「少なくとも大差ではない」「勝負形である」というのを結論としたいです。実戦ではこの後、先手と後手のどちらにもチャンスの局面があったと思いますが、最後に後手の私が、自玉の詰み筋を見えていなくて敗北となりました。

 

形勢判断シリーズ(No. 5)
前回:将棋の形勢判断:優勢か劣勢かがわかりやすい場合
次回:将棋の形勢判断:傷のある銀矢倉と穴熊、手番の価値

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将棋の形勢判断:優勢か劣勢かがわかりやすい場合 https://shogijugem.com/keisei-handan-simple-1557 Sat, 14 May 2016 03:11:10 +0000 https://shogijugem.com/?p=1557 将棋の形勢判断シリーズの第4回です。上達に役立つシリーズにできればと思っています。 今回は形勢の善し悪しが比較的わかりやすいケースです。複雑な問題を解くほぐすのも大事ですが、シンプルな問題なら即判断することも大事です。 ...

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将棋の形勢判断シリーズの第4回です。上達に役立つシリーズにできればと思っています。

今回は形勢の善し悪しが比較的わかりやすいケースです。複雑な問題を解くほぐすのも大事ですが、シンプルな問題なら即判断することも大事です。

 

形勢判断シリーズ(No. 4)
前回:将棋の形勢判断:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合
次回:将棋の形勢判断:4つの要素で判断する枠組みの問題点

このページの目次

 

向かい飛車 vs 三間飛車の相振り飛車のテーマ図

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

相振り飛車のじゅげむの昔の実戦です。将棋倶楽部24のレーティング1800台同士の対局で、先手が私です。先手向かい飛車 vs 後手三間飛車の出だしで、後手は向かい飛車に振り直しています。後手が早めに穴熊を明示したので、先手は玉の囲いよりも攻撃形の構築を優先させる作戦を取りました。

 

上図は54手目で、7三の地点で金桂交換の駒得があったところです。

仕掛けから一段落して、先手が金桂交換を達成したところで形勢判断をします。この局面の少し前には銀交換もありました。形勢判断をするタイミングとして、大きな駒交換が行われた直後は一つのポイントです。

大きな駒交換が行われると双方の持ち駒が増えます。一般的に、持ち駒が多ければ、その分だけ指し手の選択肢は広くなります。そこで、幅広い変化に枝分かれする前に形勢判断をしておけば、その後の方針を決めやすくなるわけです。

さらに、この局面で形勢判断をする理由はもう一つあります。変化の枝分かれの中には、形勢が先手に傾く手順も含まれますし、逆に後手に形勢が傾く手順も含まれるでしょう。この局面から何手か後で優劣がひっくり返るような展開も当然考えられますので、そうなる前に、枝分かれの根元の局面での形勢判断をしてしまおうということです。

 

形勢判断の4要素

例によって、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、の4つのポイントで形勢を分析します。

 

駒の損得

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「①駒の損得」は、金桂交換ですが先手が2歩損です。

つまり、先手の「金」と後手の「桂歩2」の交換です。金6点、桂4点、歩1点で計算して点数を2倍(駒得すると、片方は駒が1枚増えて、もう片方は駒が1枚減るので、駒2枚分の戦力差が生じるため)すると、先手も後手も合計12点となります。先手の歩切れも考慮されますが、「①駒の損得」はほぼ互角です。

 

駒の点数については、こちらの記事を参考にしてください。

3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較(続)
前回の続きです。谷川浩司さん、渡辺明さん、青野照市さんの3人のプロ棋士の駒の価値を比較します。将棋の上達に役立つ駒の価値についての理解を深め...

 

もちろん、攻めの桂と守りの金の交換はかなりのプラスと考えるのが自然です。守りの金がいなくなって、囲いが弱体化したことは全体の形勢に大きな影響を与えます。しかし、その影響は「①駒の損得」だけではなく、「②玉の堅さ」の項目でしっかりと考慮しています。

 

玉の堅さ

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「②玉の堅さ」は、後手のみ囲いが大きく崩れています。

後手はもともと金銀3枚の穴熊でかなり堅かったです。しかし、金を1枚失って、さらに△7三桂と跳ねてしまったので、後手の穴熊は急激に弱体化しています。特に、端と桂頭がもろくなっています。

一方、先手は金無双の一手前の形(あるいは壁銀の船囲い)が、そのまま手付かずで残っています。金無双と比べると、▲4八金直と上がっていませんが、特に問題はありません。4~5筋方面を上部から攻められているわけではないので、むしろ▲4九金型は安定しています。壁銀の船囲いとして見ても、横から攻められている形ではないので、今のところそれほど問題はないです。

双方の玉の堅さを比較すると、金銀2枚で△7三桂と跳ねた穴熊よりは、金銀3枚の金無双の方が流石に堅いでしょう。先手の9筋の端歩が伸びていて、▲6六角が端の急所に利いていることも考慮に入れています。さらに、先手の▲2八銀が壁銀で一見悪形でも、△2二飛のにらみから2筋を守っている重要な守備駒であることも考慮に入れています。

ということで、「②玉の堅さ」は先手有利です。

 

駒の働き

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「③駒の働き」はどうでしょう。

先手は左香を含めて遊び駒が全くないですし、左桂がさばけているので十分です。一方の後手は、△1一香と△2一桂が遊び駒となっています。角の働きも先手に劣ります。したがって、「③駒の効率」も先手有利です。

 

テーマ図は、全体的に駒の役割がはっきりとしています。このような場合は、「③駒の働き」の評価がしやすいです。

形勢判断4のテーマ図:駒の役割を色付けする

上図では、守備駒を、攻め駒を、大駒をオレンジ、遊び駒をに色付けしています。

先手は囲いの金銀3枚+桂香が守備駒です。左香は後手の穴熊をにらむ攻め駒です。大駒の飛車と角は利きが多いので、攻めにも守りにも働いていますが、攻め駒としての意味合いが強いです。

後手は囲いの金銀2枚+桂香が守備駒です。大駒の飛車と角は、攻めにも守りにも働いています。玉と反対側の桂香は遊び駒です。

このように、盤面の駒の役割が明確な局面は形勢判断がしやすいです。テーマ図は視覚的にもスッキリした図面です。

 

逆に、

①中途半端な位置に駒がある。
②利いているか利いていないかの判断が難しい駒がある。
③攻め駒を責める展開で、攻め駒として見るか守備駒として見るかが難しい。
④駒が入り乱れてごちゃごちゃしている。

のような場合は、形勢判断の4要素のうちで、「②玉の堅さ」や「③駒の働き」の評価が難しくなるでしょう。

 

手番

「④手番」は先手です。

中盤の仕掛けから大きな駒交換があり、中盤の後半から終盤の入り口へと移行しつつある局面です。駒交換の直後でひとまず落ち着いたタイミングなので、手番の価値がものすごく高いというわけではありませんが、序中盤と比べると手番の価値は高くなっています。

 

総合的な形勢判断

①~④をまとめると、

形勢判断4:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

①駒の損得:ほぼ互角(先手「金」(12点)vs 後手「桂歩2」(12点))
②玉の堅さ:先手有利(金無双一手前 vs 桂が跳ねた2枚穴熊)
③駒の効率:先手有利(後手の桂香が遊び駒)
④手番:先手

となり、結果として、後手には主張するポイントが一つもありません。後手としては、こうなる前にどれか一つでも主張できるポイントを作るべきでした。あえて言えば、先手は歩切れが気になるところです。しかし、端で一歩補充できる形ですし、大勢を覆すものではないと思われます。

したがって、結論は先手優勢です。

①~④の4要素が割れていない場合は、形勢判断の問題としてはシンプルです。どのくらい形勢が離れているかはともかく、優勢か劣勢かはわかりやすいです。

実戦ではこの後、攻め合いとなりました。しかし、玉の堅さが違うので、先手の攻めに対して後手は手抜きができず、ある程度手数が進んだ局面からは、先手がずっと攻め続ける展開になって押し切りました。

 

形勢判断シリーズ(No.4)
前回:将棋の形勢判断:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合
次回:将棋の形勢判断:4つの要素で判断する枠組みの問題点

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将棋の形勢判断:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合 https://shogijugem.com/keisei-handan-4yoso-wareru-1176 Mon, 09 May 2016 17:51:42 +0000 https://shogijugem.com/?p=1176 形勢判断シリーズの第3回です。 オーソドックスな形勢判断の方法では、「①駒の損得」「②玉の堅さ」「③駒の働き」「④手番」の4要素で優劣を考えます。 しかし、これらの形勢判断の4要素で優劣の評価が真っ二つに割れた場合に、総...

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形勢判断シリーズの第3回です。

オーソドックスな形勢判断の方法では、「①駒の損得」「②玉の堅さ」「③駒の働き」「④手番」の4要素で優劣を考えます。

しかし、これらの形勢判断の4要素で優劣の評価が真っ二つに割れた場合に、総合的な形勢をどのように判断したらよいでしょうか?

今回の記事では、このようなケースについて考えようと思います。

 

形勢判断シリーズ(No.3)
前回:将棋の形勢判断:玉の囲いの堅さの定量的な評価
次回:将棋の形勢判断:優勢か劣勢かがわかりやすい場合

このページの目次

 

向かい飛車 vs 三間飛車の相振り飛車のテーマ図

形勢判断:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

再び先手向かい飛車 vs 後手三間飛車の相振り飛車の実戦です。

先手がじゅげむで、先後とも将棋倶楽部24で約レーティング 2000の対局です。序盤から中盤の入り口で、一ミリも読んでなかった仕掛けを後手からされて、一気に駒交換が行われた直後の局面です。

形勢判断のポイントとして、どうしてこの局面を選んだかというと、互いの駒が大きくさばけて交換になった直後だからです。駒の損得に変化があった局面なので、形勢がどちらかに傾いている可能性があります。この局面の形勢判断によって、そもそも後手の仕掛けが成立していたかも問われることになるでしょう。

 

形勢判断の4要素

例によって、①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、というオーソドックスな形勢判断の手法を用いて考えてみます。

 

駒の損得

形勢判断:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

まず、最初の要素は「①駒の損得」です。

先後で同じ枚数の駒を除いて、先手の「角香歩2」と後手の「飛」を比較すればいいです。

先手の「角香歩2」は角8点、香3点、歩1点×2枚として最後に2倍すると合計26点。後手の「飛」は、飛10点のみを2倍して合計20点です。結局、先手26点 vs 後手20点で先手が駒得です。さらに、後手の歩切れも大きいです。

 

駒の点数についての参考記事

将棋の駒の価値の理論化:谷川理論からのスタート
駒の価値の研究シリーズを始めます。最初にスタート地点として、プロ棋士の谷川浩司さんによる駒の価値の評価である「谷川理論」を紹介します。そして...

 

玉の堅さ

形勢判断:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

次の要素は「②玉の堅さ」です。

先手は金無双の金銀3枚の囲いがそのまま残っています。囲いにほぼ手がついていないことはプラスですが、もともと金無双は横からの攻めには比較的弱いです。後手は飛車を持っており、飛車を打ち込まれて横から攻められる展開は十分に考えられます。その場合に、2八の壁銀は気になるところです。ただし、後手が2筋に飛車を据えていて、4五に桂が跳ねている現局面では、2八の銀は上部からの攻めに対する守り駒として立派に働いています。

一方で後手は、7一玉型の美濃囲いで金銀3枚が残っていますが、6筋に傷があるのはマイナスです。7一玉型の美濃囲いは、8二玉型と比べると横からの攻めに弱いです。さらに、6筋に傷があるので、先手が桂を持てばいつでも▲6三桂が王手になるという問題もあります。しかし、この局面で仮に8二玉型だったとすると、▲8四歩からの玉頭攻めに対して7一玉型よりも当たりがキツくなります。さらに、先手の7筋の歩が伸びているので、すぐに▲7四歩のこびん攻めもあります。7一玉型と8二玉型は一長一短で、玉が8二に入城していないからといって、必ずしも囲いが弱体化しているわけではありません。

これらを考慮して玉の堅さを比較すると、先手の6四の歩が大きな拠点となっていて、後手の美濃囲いの傷になっている分だけ、先手にやや分があると思います。したがって、「②玉の堅さ」はやや先手有利。

 

駒の働き

形勢判断:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

「③駒の働き」の要素はどうでしょうか。

先手は左辺の桂香が遊んでいて、状況によっては取られそうな駒です。加えて、1一の馬が盤面の隅にいて、働きがやや弱いのが気になります。後手は目立った遊び駒はありませんが、飛車の働きがやや弱いです。ただし、先手の馬も後手の飛車も働きが全然弱いというわけではなく、狭いというわけでもありません。例えば、先手なら▲5五馬、後手なら△6四飛や△2六歩など、それぞれ盤上の大駒を働かせる手が残っています。

総合すると、左辺の桂香の遊び駒の分、「③駒の働き」はやや後手有利かもしれません。

 

手番

「④手番」は後手。

局面はすでに中盤から終盤に差し掛かろうとしており、序盤と比べて手番の重要性は大きくなっています。特に、大きな駒交換があった直後の手番は大きいと言われています。

 

総合的な形勢判断

①から④をまとめると、

形勢判断:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

①駒の損得:先手が駒得(先手「角香歩2」(26点)vs 後手「飛」(20点))
②玉の堅さ:やや先手有利(後手の美濃囲いの6筋の傷)
③駒の働き:やや後手有利(先手の左辺の桂香の遊び駒)
④手番:後手

形勢判断の4要素のうち、①と②が先手のポイントで、③と④が後手のポイントです。

先手が「駒の損得」と「玉の堅さ」の要素ではリードしていますが、「駒の働き」はやや後手が良く、「手番」は後手が握っています。

4つの要素で評価が割れているので、「各要素の差はどのくらいなのか」「どの要素を重視すべきなのか」によって、最終的な形勢が左右されることになります。

 

「①駒の損得」と「③駒の働き」の比較

形勢判断:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

例えば、①と③の要素を比較します。

「①駒の損得」では、先手は香1枚分(3点×2 = 6点)ぐらいの駒得です。「香得」というのは、自分は香が1枚多くなって、相手は香が1枚少なくなることです。したがって、合わせて香2枚分の戦力差が生じるので3点を2倍して合計6点差となります。

一方で、「③駒の働き」では先手の左辺の桂香が1枚ずつ遊んでいます。「駒が遊んでいる」という状況は、自分の戦力にはなっていないが、相手の戦力が増えているわけではありません。よって、「駒得」とは違って、戦力差を2倍する必要はありません。すなわち、桂香1枚ずつの戦力差(合計7点)でいいということになります。

すると、①と③の要素比較は、「香2枚の戦力差(6点)」vs「桂香1枚ずつの戦力差(7点)」と考えることができて、両者はほぼ相殺されます。

 

形勢判断への読みの影響

このように考えると、②と④の要素の差を考えればいいことになります。

「④手番」を握った後手が、「②玉の堅さ」の差よりも大きなポイントを上げられるか。この局面でそのような手があるかどうかです。

そうすると結局、この局面からの具体的な手を読んでみないことには形勢判断はできないということになります。

形勢判断:向かい飛車vs三間飛車のテーマ図

私の棋力なりにこの後の手を読んでみます。例えば、後手の飛車を働かせる手である①△6四飛②△2六歩、飛車を打ち込む手である③△6九飛④△7九飛が目に付きます。

 

①△6四飛は6筋の傷を緩和するのと同時に、次に△6九飛成を狙っています。しかし、△6四飛▲5五馬△6九飛成▲4五馬と進んだときに、▲4五馬が駒得しながら8九の桂にヒモをつけていて、さらに敵陣もにらんでいるので、かなり味が良さそうな手です。▲5五馬の時に△3七桂成や△5七桂成で先手陣を乱す手もありますが、やはり駒得が大きそうです。

②△2六歩は本譜の順で、以下▲同歩△同飛▲2七歩△8六飛▲8八香△7六飛▲6七角と進みましたが、私ぐらいの棋力では難解な形勢で、少なくとも大差ではなさそうです。▲8八香のところで▲8八歩、▲6七角のところで▲7七馬などの方が良かったかもしれません。私の棋力では正解はわかりませんが、最善の順を選べば、先手が指せていた可能性はあります。

③△6九飛は▲7八角で飛桂両取りがあって、以下△6五飛成には▲6八香があります。▲7八角の時に、△3七桂成▲同銀△7九飛成でも先手の駒得が大きそうです。

④△7九飛には▲8八馬で、後手は自陣に龍を引き返さなくてはならないところが不満です。

 

というわけで、結論としては、形勢は少なくとも大差ではないし、私の棋力では優劣不明。先手が指せている可能性はあります。

現局面の形勢判断に読みの影響が入ってくるのがポイントです。読みの力が上がれば、その分、形勢判断の精度も上がります。しかしながら、「具体的な手を詳しく読まなくても形勢がわかる」というのも形勢判断のキモなので、その点を忘れずに、「読み」だけに頼らないようにしたいです。

 

形勢判断シリーズ(No.3)
前回:将棋の形勢判断:玉の囲いの堅さの定量的な評価
次回:将棋の形勢判断:優勢か劣勢かがわかりやすい場合

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将棋の形勢判断:玉の囲いの堅さの定量的な評価 https://shogijugem.com/keisei-handan-kakoi-katasa-945 Tue, 26 Apr 2016 17:33:01 +0000 https://shogijugem.com/?p=945 将棋の形勢判断シリーズの第2回です。 今回は、形勢判断の4要素の一つである「②玉の堅さ」を深掘りします。 相手に攻められて「基本形から形が変わってしまった囲い」の堅さをどのように評価したらよいでしょうか? じゅげむの実戦...

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将棋の形勢判断シリーズの第2回です。

今回は、形勢判断の4要素の一つである「②玉の堅さ」を深掘りします。

相手に攻められて「基本形から形が変わってしまった囲い」の堅さをどのように評価したらよいでしょうか?

じゅげむの実戦を題材にして、玉の囲いの堅さを評価するときに、精度を上げる方法を色々と考えてみます。

 

形勢判断シリーズ(No.2)
前回:将棋の形勢判断シリーズのスタート:形勢判断の4要素
次回:将棋の形勢判断:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合

このページの目次

 

向かい飛車 vs 三間飛車の相振り飛車のテーマ図

形勢判断2:向かい飛車vs三間飛車の相振り飛車のテーマ図

先手向かい飛車 vs 後手三間飛車の相振り飛車でじゅげむの昔の実戦です。将棋倶楽部24でレーティング 2000を達成した思い出深い対局で、先手がじゅげむです。

この対局では、先手が端攻めで先攻して、端を破って銀桂交換の駒得を達成しました。そのあと後手が、先手の金無双の急所である玉のこびんを狙って、4筋の継ぎ歩攻めから4六の歩を取り込んで反撃した局面です。

 

形勢判断の4要素

早速、形勢判断をします。①駒の損得、②玉の堅さ、③駒の働き、④手番、をどのように評価したらよいでしょうか?

 

駒の損得

形勢判断2:向かい飛車vs三間飛車の相振り飛車のテーマ図

「①駒の損得」は、銀桂交換で先手の駒得。

他の駒については歩の枚数(盤上の歩+持ち歩)まで全く同じです。

 

玉の堅さ

形勢判断2:向かい飛車vs三間飛車の相振り飛車のテーマ図

「②玉の堅さ」については、もともと先手は金無双、後手は美濃囲いだったのですが、どちらも既に手が付いています。つまり、最初の手付かずの綺麗な囲いではなく、「攻められて形が変わった囲いの堅さ」を適切に評価する必要があります。

先手の囲いは金銀4枚、後手の囲いは金2枚ですので、金銀の枚数だけ見ると先手がかなり有利です(以下は参考記事です)。

将棋の初心者でも簡単にわかる囲いの堅さの原則1~3
囲いの堅さの原則がわかっていると、実戦で知らない形が現れても応用が効きやすいです。 非常にシンプルな原則なので、将棋の初心者でも簡単にわか...

 

しかし、先手の囲いは2八の銀が壁銀の悪形で、玉の逃げ道を塞いでいます。さらに、玉のこびんの急所を攻められていて、後手の4六の歩は大きな攻めの拠点となっています。

先手の2八の壁銀については、「銀がいない方がよかった」という展開も大いにありえます。その場合は、銀1枚分の守備力は無効、ひどければさらにマイナスになります。すると、先手の囲いを金銀3枚の評価、あるいはもっと低く評価することもできます。しかしながら、2八の銀は玉頭の3七に利いているので、完全な邪魔駒というわけではありません。例えば、△3六歩▲同歩△3七歩のような攻めに対しては、受け駒として立派に働いています。2八の壁銀をどの程度のマイナスと評価するかは難しいですが、分からないながらも何とか定量化したいので、一応2八銀の守備力はゼロと評価しておきます。つまり、あってもなくても同じという評価です(参考1図:2八の銀がない仮想局面)。

金無双の堅さ:▲2八銀がない

次に、4六歩の傷をどう評価するかです。この歩の脅威はかなり大きくて、少なくとも金銀1枚分以上はありそうです。例えば、先手の5六銀がない代わりに、後手の4六歩がなくて、先手の4七歩がある形(参考2図)と比較してみます。こちらの方がずっと安全に見えます。

金無双の堅さ:5六銀と4六歩がない

また、後手が△4七香と打ち込む筋を想定して、△4七香▲同銀△同歩成▲同金左△4六歩▲同金△同角(参考3図:1二の香を持ち駒と仮定して、4七に打ち込んだ仮想局面)と進んだとしますと(他の受け方ももちろん考えられますが)、簡単に金銀2枚をはがされます。

そこで、4六歩の傷を消そうとして、テーマ図から▲4七歩△同歩成▲同銀△4六歩▲同銀△同角▲4七歩△2四角(参考4図)としますと、先手の囲いから銀1枚が消えて、さらに後手の手駒に銀が1枚増えてしまいます。

これらのことを総合的に考えて、4六歩と取り込まれた形を金銀1.5~2枚分ぐらいのマイナスと評価したいです。

金無双の堅さ:△4七香と打ち込んだ金無双の堅さ:4筋の傷を消す

一方、後手の囲いはどう評価すればよいでしょうか。

基本は金2枚で、銀のないカニ囲いです。端に手が付いていることと、7三桂が跳ねている形は弱点で、明らかにマイナスポイントです。また、8五の歩が上ずっているので、▲8三歩や▲8四歩の垂れ歩や、桂を持ったら▲8四桂も厳しいです。5二の金が浮き駒になっているのも気になります。

それらを考慮した上で、後手の囲いを「金2枚のカニ囲い」の評価からどのくらい割り引けばいいでしょうか。先手の攻め方によって耐久力が変わりますし、定量化することは難しいですが、金0.5~1枚分ぐらい割り引いてもいいような気がします。

 

以上の考察から、先手は(金銀4枚-銀1枚-金銀1.5~2枚=)金銀1~1.5枚分の守備力、後手は(金2枚-金0.5~1枚=)金1~1.5枚分の守備力であると考えられます。結論としては、「②玉の堅さ」は互角に近く、少なくとも大差ではありません。

 

駒の働き

形勢判断2:向かい飛車vs三間飛車の相振り飛車のテーマ図

「③駒の働き」はどうでしょうか。先手も後手もひどい遊び駒はありません。

先手の飛車は攻めに働きそうですし、角はいいポジションにいてよく働いています。

一方、後手の飛車は先手の玉頭をにらんでいて、5四の銀が動けば飛車の横利きも利いてきそうです。後手の角は金無双の急所にある4六の歩を支えていて、3三の桂にヒモを付けて守備にも働いています。

飛角の働きの比較は難しいところで、よくわからないというのが本音ですが、先手の6六の角がかなりよく働いているので、若干先手持ちのような気もします。

それから、先手だけ左桂をさばいているのは明確なポイントです。飛角の働きはともかくとして、左桂の分があるので、駒の働きは先手にやや軍配が上がるかもしれません。

 

手番

形勢判断2:向かい飛車vs三間飛車の相振り飛車のテーマ図

「④手番」は先手。

既に双方の玉の囲いに手が付いています。中盤の後半あたりに見えますが、互いの玉形が比較的薄いので一気に終盤戦に突入してもおかしくない局面です。手番の価値はそれなりに高いと言えます。

 

総合的な形勢判断

①~④まで出そろったので、最後に総合的に形勢を判断します。

形勢判断2:向かい飛車vs三間飛車の相振り飛車のテーマ図

①駒の損得:銀桂交換で先手がやや駒得。
②玉の堅さ:互角に近い。少なくとも大差ではない。
③駒の働き:やや先手が良さそう。
④手番:先手

①~③までで大きく差が開いている項目はないですが、「①駒の損得」と「③駒の働き」は先手がやや良さそうなので、「④手番」も握っている先手が優勢と判断します。

ただし、「②玉の堅さ」の評価にはかなり苦労したので、この項目が本当に互角に近いかどうかは、何とも言えないところです。しかし、中盤の終わりから終盤の入り口に差し掛かっている局面なので、手番をどちらが握っているかは大きいです。したがって、玉の堅さの評価が多少ブレたとしても、先手が指せるという結論は変わらないと思います。

結論は先手優勢。

 

実戦ではこの後、手番を握った先手が攻める時間の方が長かったです。後手に受けの疑問手があって、最終的には形勢に差が開きましたが、攻められ続ける展開で疑問手が出るのは仕方がありません。玉が薄い形で攻められ続けると、どうしても悪手や疑問手が致命的になりやすいので、後手としては難しい展開だったと思います。

 

今回、基本的な形勢判断の枠組みとしてはオーソドックスな方法を用いて、その中の一項目である「②玉の堅さ」について特に力を入れました。次回は、①~④の項目で優劣の評価が割れた場合について考えます。

 

形勢判断シリーズ(No.2)
前回:将棋の形勢判断シリーズのスタート:形勢判断の4要素
次回:将棋の形勢判断:①~④の4要素で優劣の評価が割れた場合

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