将棋の敗因の分析「序中盤で攻め筋の見落とし」

将棋の敗因分析シリーズで、今回の敗因は「序中盤で攻め筋の見落とし」です。早速ですが、図1での先手の攻め筋を考えてみてください。

敗因の分析「攻め筋の見落とし」(図1)

このページの目次

「攻め筋の見落とし」のパターンは幅広い

攻める側だけに攻め筋が見えているアドバンテージ

  ・不利の度合い

対策と勉強法

  ・受けが苦手な人は・・・

「攻め筋の見落とし」の実戦例

  ・敗因の細分化と多面化


「攻め筋の見落とし」のパターンは幅広い

「攻め筋の見落とし」のパターンはさまざまです。

攻め筋の見落としは、序盤、中盤、終盤のすべてで起こりえます。序盤では、攻め筋の見落としがその後の駒組みに大きな影響を与える場合もありますし、終盤では、攻め筋どころか詰み筋の見落としが絡んでいる場合もあります。

また、攻める側が見落としている場合は、その攻め筋は盤上に現れないので「攻め筋の見送り」という結果になります。逆に、受ける側が見落としている場合は、その攻め筋は盤上に現れるので「攻め筋の見落とし」という結果になります。

このように「序盤」「中盤」「終盤」という分け方、または「攻める側」「受ける側」という分け方で違いがあるので、一口に「攻め筋の見落とし」と言っても、その状況には幅があります。


攻める側だけに攻め筋が見えているアドバンテージ

見落としていた攻め筋で攻められた状況を考えてみましょう。

この場合、相手にはその攻め筋が見えていて、自分には見えていなかった、ということになります。(攻め筋を「見送った」場合は、自分と相手の両方ともその筋が見えていなかった可能性があります。)

このような状況は、その攻め筋が見えている側に明らかなアドバンテージがあります。

攻める側が見えている場合は、その攻め筋を選ぶかどうかの選択権があります。選択権があって、その攻め筋を選ぶということは、その攻め筋が有力であるということです。一方で、見えていない側は、有力な攻め筋に対して、相手に指されて初めて気付くことになります。特に早指しの将棋では、短い時間の中で上手く対処できるかどうかが問題となるでしょう。気付いた時にはもはや手遅れというケースもありえます。


不利の度合い

どのような攻め筋を見落としていたかによって、不利の度合いは異なります。ものすごく強烈な攻め筋を見落とすと、そのまま潰されて敗勢に陥ることもあります。

「攻める側」と「受ける側」で、有力な攻め筋が見えていなかった場合のリスクが異なることには注意が必要です。

有力な攻め筋を「攻める側」が見えていなかった場合は、「攻め筋の見送り」となり、すぐに潰されるわけではないのでリスクは低めです。しかし、「受ける側」が見えていなかった場合は、「攻め筋の見落とし」となり、潰されたり駒損をしたりなどのリスクが高くなります。


対策と勉強法

有力な攻め筋がどのくらい見えるかどうかは、将棋の地力と直結しています。

その意味では、実戦、棋譜並べ、将棋観戦、定跡書(特に序中盤)、詰将棋(特に終盤)、手筋集、次の一手問題など、一般的な将棋の勉強法はすべて効果があると思います。

特にオススメなのは、手筋集、次の一手問題で、実戦でよく現れる攻め筋の基本パターンについて覚えておくことです。これらの勉強法は中盤をテーマにした問題も多いです。問題形式の方が、盤面で攻め筋を見つける訓練はしやすいと思います。


受けが苦手な人は・・・

先ほども述べたように、「受ける側」の方が見落としのリスクは高くなります。しかし、「攻める側」以上に「受ける側」が攻め筋を見えていないケースが多いように感じています。

盤面を逆向きにひっくり返して「攻める側」ならその攻め筋が簡単に見えるけれども、同じ攻め筋を「受ける側」だとなかなか見えないということも起こります。私はそのパターンが多く、攻めの棋力と受けの棋力に差があります。

なぜ、同じ攻め筋が「攻める側」だと見えるのに、「受ける側」だと見えないのでしょうか?

シンプルな理由の一つとして考えられるのは、逆向きの盤面に慣れていないということです。詰将棋、必至問題、次の一手問題など、市販の棋書では普通向きの問題が大半です。本を逆さまにして問題を解くという方法で簡単に解決できそうですが、そもそも逆さまにして解こうと思うかという問題もありますし、解説文などの文字が逆さまになると読むのに面倒臭いです。

しかし、本格的に弱点を克服しようと思ったときに、逆向きの盤面に慣れるという方法は有力だと思います。


攻め筋の見落としの実戦例

冒頭の図1はじゅげむの実戦からで、四間飛車vs三間飛車の相振り飛車の一局面です。先手がレーティング2200台の格上で、後手の私がレーティング2000ぐらいの対局です。

敗因の分析「攻め筋の見落とし」(図1)

6筋の歩交換に対して△6三歩と受けた局面ですが、ここで強烈な攻め筋があります。

実戦の進行は、▲5四飛△同歩▲2三銀(図2)

敗因の分析「攻め筋の見落とし」(図2)

飛車を切って、飛車角両取りの銀打ちです。先に飛車銀交換で駒損しているので、通常は図2から△4二飛▲2二銀成△同飛(変化図1)で駒の損得は飛車角交換で済むのですが、この場合は変化図1から▲4四角(変化図2)王手飛車が決まってしまいます。

敗因の分析「攻め筋の見落とし」(変化図1)敗因の分析「攻め筋の見落とし」(変化図2)

図2の▲2三銀に対する受けはなかなか難しいです。2二の角には飛車のヒモがついているので、3二の飛車の方を受けたいのですが、△4二飛と角にヒモを付けながら逃げると先ほどの王手飛車です。△4二金などで飛車にヒモを付ける手でも、▲2二銀成△同飛▲4四飛(変化図3)の王手飛車です。

敗因の分析「攻め筋の見落とし」(変化図3)

飛車にヒモを付けながら(3二に利かせながら)、王手飛車を防ぐ(4四に利かせる、または王手飛車のラインに駒を置く)必要があります。もし後手が銀を持っていれば△4三銀と打って耐えたいところですが、ないものはないです。あとは、△4二飛打、△3四飛打、あるいは△3三飛打の根性の自陣飛車です。

このうち△3四飛打(変化図4)には▲3二銀成や▲3四銀成で飛車を素直に取る手もありますが、▲4五銀(変化図5)という歩頭に銀を出る怖い手があります。△同歩なら▲2二銀成で飛車と角銀の二枚換えの駒損です。

敗因の分析「攻め筋の見落とし」(変化図4)敗因の分析「攻め筋の見落とし」(変化図5)

また△3三飛打は▲4四角の王手飛車で駄目なので、実戦は△4二飛打(図3)と指しました。

敗因の分析「攻め筋の見落とし」(図3)敗因の分析「攻め筋の見落とし」(図4)

図3以下、▲3二銀成△同飛▲2四飛(図4)で、ひとまず大きな駒損は避けられたのですが、▲2二飛成△同飛▲4四角の王手飛車の筋と▲2三飛成の筋の両方を受けることが困難です。以下、さらにボロボロになり、あげくの果てに秒読みの時間切れで短手数の負けという惨敗でした。

図1の局面図から、図4あたりまでの攻め筋を読めたでしょうか?


敗因の細分化と多面化

さて、この記事の最初の方で「攻め筋の見落とし」の状況には幅があると書きました。「序盤」「中盤」「終盤」という分類からすると、図1は序盤から中盤の入り口あたりです。本譜のような強烈な攻め筋をくらわなければ、もう少し序盤の駒組みが続いていた可能性もあります。

さらに図1は「序中盤の」「飛車切りの」攻め筋の見落とし、と細分化して特徴付けることができます。攻める側が駒損になるので、攻め筋を見落としやすい要素の一つです。特に序盤から中盤で飛車切りが成立するケースは、終盤に比べると少ないので、不注意になりやすいと思います。意識的に盲点を消していくことが大事です。

もう一つ、実は私が「四間飛車vs三間飛車」という戦型をあまり指したことがない、というのも見落としの一つの原因となっていました。

図1からの攻め筋は、先手が三間飛車でも向かい飛車でも可能です。ただし、普段指し慣れている戦型だと、「意識しないでも自然に危険な変化を避けている」ことが多々あります。定跡手順として覚えているとか、手数や手順の関係で構造的に危険な変化が実現しにくい、などです。

ともあれ、当たり前と言えば当たり前ですが、指し慣れていない戦型では普段以上に慎重になることが求められます。