永瀬拓矢六段は、現在タイトル戦で羽生善治棋聖と五番勝負を戦っています。
驚くべきことに、永瀬拓矢六段は羽生善治棋聖との初対局から4連勝しています。
棋聖戦五番勝負第1局での勝利が4連勝目だったのですが、
それ以前、つまりタイトル戦の前までに初対局から3連勝しています。
永瀬拓矢六段はどのような将棋で羽生善治棋聖に4連勝したのでしょうか?
また、棋聖戦以前の3連勝は、どのような対局だったのでしょうか?
棋聖戦を観戦しながら非常に気になったので調査してみました。
対局の時期と舞台、戦型、どのような将棋だったのかをまとめます。
記事が長くなってしまったので、【前編】【中編】【後編】の3つに分けます。
今回は【前編】で、対局の時期と舞台、戦型についてです。
次回は【中編】で、初対局から3局目までのポイントです。
最後の【後編】は、永瀬拓矢六段の棋風や戦法などについて執筆中です。(未完成)
このページと次回の記事の目次
- 羽生キラーの永瀬拓矢六段
- 羽生善治 vs 永瀬拓矢戦の戦型
- 羽生善治 vs 永瀬拓矢戦の初対局から3局目までのポイント【中編】
- 初対局:最新流行形での羽生善治さんの誤算【中編】
- 2局目:永瀬新手 ~研究手での勝利~【中編】
- 3局目:序中盤の長考 ~永瀬拓矢さんの強い勝ち方~【中編】
羽生キラーの永瀬拓矢六段
永瀬拓矢六段は、初対局から棋聖戦五番勝負第1局まで、羽生善治棋聖に4連勝しています。
棋聖戦の第2局で羽生善治棋聖に敗れたので、4連勝でストップしましたが、
羽生善治棋聖相手に4連勝は凄まじいの一言に尽きます。
ただし、両者の対局数自体は少ないです。
初対局の2013年11月から棋聖戦第1局の2016年6月以前の約2年7ヶ月間で、次の3局しか指していません。
初対局:2013年11月15日(棋王戦挑戦者決定トーナメント)
2局目:2013年12月20日(棋王戦挑戦者決定トーナメント、敗者復活戦)
3局目:2015年8月3日(竜王戦決勝トーナメント)
羽生善治棋聖と永瀬拓矢六段の初対局は、2013年11月15日の棋王戦挑戦者決定トーナメントです。
ここで勝利した永瀬拓矢六段は、トーナメントの次の対戦相手である三浦弘行さんに敗れます。羽生善治棋聖と同じように敗者復活戦に望みをつなぐことになり、その敗者復活戦で再び両者が対戦することになります。
その敗者復活戦が、2013年12月20日の対局です。
この対局でも永瀬拓矢六段が羽生善治棋聖に勝ち、短期間で羽生善治棋聖に2連勝して話題になります。
しかし、それから2015年8月3日の竜王戦決勝トーナメントまで両者の対局はありませんでした。棋王戦の2局目から1年8ヶ月以上が過ぎています。
両者は、順位戦や竜王戦のクラスが大きく違います。
羽生善治棋聖は常に複数のタイトルを持っていますし、その他のタイトル戦でもシードです。
つまり、永瀬拓矢六段が各棋戦の予選を勝ち上がり、決勝トーナメントまで進まないと、羽生善治棋聖とは対局できないということです。
このような理由で、両者の対局は、いずれもタイトル戦の挑戦者決定トーナメントという大事な対局になっています。
とりわけ、永瀬拓矢六段にとっては大きな対局です。
3局の全てで、永瀬拓矢六段が非常に気合いを入れて対局に挑んだのは容易に想像できます。
竜王戦決勝トーナメントでも羽生善治棋聖に勝ち、対羽生戦の成績を3連勝とした永瀬拓矢六段は、まさに羽生キラーと呼ぶのにふさわしい成績の持ち主です。
そもそも、羽生善治棋聖に勝ち越している棋士はほとんどいません。ある程度の対局数があり、それでも勝ち越している棋士は渡辺明竜王だけだと思います。
永瀬拓矢六段が3連勝で羽生キラーと呼ばれてしまうのは、羽生善治棋聖が将棋界で圧倒的に強いことの裏返しです。
羽生善治 vs 永瀬拓矢戦の戦型
初対局:横歩取り(先手:羽生善治)(2013年11月15日)
2局目:相矢倉・▲3七銀戦法(先手:永瀬拓矢)(2013年12月20日)
3局目:相矢倉・早囲い(先手:永瀬拓矢)(2015年8月3日)
棋聖戦①:横歩取り(先手:羽生善治)(千日手)(2016年6月3日)
棋聖戦①:相矢倉・藤井流早囲い(先手:永瀬拓矢)(千日手指し直し局)
棋聖戦②:相矢倉・早囲い(先手:永瀬拓矢)(2016年6月18日)
棋聖戦③:横歩取り(先手:羽生善治)(2016年7月2日)
先手が羽生善治棋聖なら横歩取り、永瀬拓矢六段なら相矢倉で、戦型選択は一貫しています。
横歩取りは後手番が誘導できる戦法で、相矢倉は▲7六歩△8四歩の進行から先手番が誘導できる戦法です。つまり、これまでの対局では、永瀬拓矢六段の方が戦型を決めています。
棋聖戦の今後のポイントは、羽生善治棋聖が後手番で横歩取りに誘導するかどうかです。
あるいは、佐藤天彦名人との王座戦のように、
羽生善治棋聖はここ一番で一手損角換わりを採用することがあります。
永瀬拓矢六段としては、相矢倉、横歩取り、一手損角換わりの対策は必要になります。
羽生善治棋聖相手に番勝負を決めきるには、幅広い戦型への対応が鍵になると思います。
【追記】棋聖戦第4局では、羽生善治棋聖が後手番で「中原流急戦矢倉」という古い戦法を採用しました。流石にこれは予想外でした。第5局は、羽生善治棋聖が後手番で、6手目△9四歩から一手損角換わりに誘導しました。角番なので永瀬拓矢六段の得意形を避け、力と力の勝負にしたかったのだと思います。
次回は【中編】で、初対局から3局目までのポイントです。