7-3. 格言の研究 | じゅげむの将棋ブログ https://shogijugem.com 将棋の戦法や定跡のまとめ、囲い、格言、自戦記、ゆるゆる研究シリーズなど。 Sat, 17 Sep 2016 03:40:08 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.5.3 111067373 将棋の守り方のコツ:玉の囲いと2マス以内のエリア https://shogijugem.com/kakoi-area-1617 Tue, 17 May 2016 07:34:49 +0000 https://shogijugem.com/?p=1617 将棋の格言の拡張「玉の守りは金銀三枚+桂香」の続編です。 この記事では、玉の囲いを構成する金銀などの守備駒の位置について考えます。 玉の囲いと守り方のコツがテーマとなります。   このページの目次 ・「玉の守り...

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将棋の格言の拡張「玉の守りは金銀三枚+桂香」の続編です。
この記事では、玉の囲いを構成する金銀などの守備駒の位置について考えます。
玉の囲いと守り方のコツがテーマとなります。

 

このページの目次

「玉の守りは金銀三枚+桂香」と王の位置

玉を中心に守備駒の位置を考える

  ・矢倉、美濃、穴熊の3つの代表的な囲いの場合

  ・美濃囲いの3九玉型と2八玉型の比較

  ・実戦でよく現れるその他の囲いの場合

  ・玉を中心に相手の攻め駒の位置を考える

玉の囲いと守り方のコツのまとめ

 

「玉の守りは金銀三枚+桂香」と玉の位置

前回の記事「玉の守りは金銀三枚+桂香」の要旨をおさらいすると、

①矢倉、美濃、穴熊では、金銀だけでなく端の桂香も囲いを作る。
②端の桂香を玉の囲いとして使えるかどうかは重要。
③端の桂香を囲いの駒として十分に働かせるためには、玉が7~9筋(1~3筋)にある必要がある。

ということでした。

今回の記事との関係では、③の玉の位置がポイントです。

 

玉を中心に守備駒の位置を考える

上記の参考記事では、「桂香の守り駒としての働き」を主題としていたので、守備駒ではなく玉の位置の方を動かしました。なぜなら香車は端から他の筋に動けないですし、守りの桂馬も動きが制限されているからです。

しかし、本来囲いとは玉を守るものなので、玉の位置を中心に考えるべきです。

7~9筋(1~3筋)に玉がある場合を考えると、端の桂香は玉から2マス以内のエリアに収まります。6筋に玉がある場合は、端の香車は玉から横に3マスの遠さで、この場合に端香が玉の囲いの一部かどうかが不確かになります。

すなわち、玉を中心として、玉から2マス以内が特に重要なエリアと考えられます。

 

矢倉、美濃、穴熊の3つの代表的な囲いの場合

まずは、代表的な囲いを例に考えてみましょう。

矢倉(金矢倉)美濃(本美濃)穴熊(基本形)ではどうでしょうか?

矢倉(金矢倉)と玉から2マス以内のエリア穴熊(基本形)と玉から2マス以内のエリア

上図では、玉から2マス以内のエリアをで色付けしています。

矢倉(金矢倉)と穴熊(基本形)では、金銀が玉から2マス以内のエリアに収まっています。もちろん、これらの金銀は囲いの一部として玉の守りに十分に働いている駒です。

美濃囲い(本美濃)と玉から2マス以内のエリア

上図の美濃囲い(本美濃)の場合、3八の銀4九の銀は玉から2マス以内にありますが、5八の金は玉から3マスの遠さにあります。

香車の場合と異なるのは、5八の金は横に利きがあるので、玉の2マス以内のエリアを「利き」でカバーしているということです。5八の金の場合は、4七と4八の2つの「利き」が玉の2マス以内のエリアに利いています。「守備駒が玉から3マスの距離でも、利きが玉の2マス以内のエリアにあれば守備駒として有効に働く」という考え方もできます。

 

以前の記事で、駒の「利き」と「存在」という2つの視点について考察しています。

将棋の格言「桂先の銀、定跡なり」の分析:3つの関係性
「桂先の銀、定跡なり」という格言があります。「桂先の銀」とは図1のように、相手の桂の頭に銀がある形のことです。盤上の銀が桂頭に移動す...

 

この考え方は、自陣の飛車の守りについても応用できます。

矢倉と自陣の飛車

上図は矢倉と自陣の飛車の関係を示しています。2八の飛車の「存在」は自玉から遠く離れていますが、飛車の「利き」は玉から2マス以内のエリアまで届いています(青色のマス目)。相矢倉における飛車は、攻めの軸であると同時に、遠くから自玉の守りにも働いています。玉飛接近は悪形なので、遠くから利かすのが、飛車を使った自玉の守り方のコツです。

 

ところで、美濃囲い(本美濃)は横からの攻めに対して強い囲いの代表格です(下図)。

美濃囲い(本美濃)と玉から2マス以内のエリア

少し横に出っ張った5八の金は、横からの攻めへの耐久力を増しています。一般化すると、

「玉から3マス以上の遠い場所に配置された駒(美濃囲いの場合の5八の金)でも、その方向からの攻め(美濃囲いの場合は横からの攻め)に対してなら有効に働く」

となります。

 

美濃囲いの2八玉型と3九玉型の比較

「攻めの方向」についてもう少し考えてみましょう。同じ美濃囲いでも、振り飛車vs居飛車の対抗型と、相振り飛車の美濃囲いでは少し違った使われ方をします。

2八玉型の美濃囲い3九玉型の美濃囲い

通常、美濃囲いは2八玉型(左図)が基本形と考えられていて、3九玉型(右図)は2八玉型よりも囲い方が浅いと考えられがちです。これは昔からある振り飛車vs居飛車急戦のイメージが強いためです。

しかし、3九玉型にもメリットがあり、実戦では一概にどちらの方が堅いとは言えません(形勢判断の参考記事)。3九玉を中心に考えると、美濃囲いの金銀3枚のすべてを玉から2マス以内のエリアに収めることができます。この点で、3九玉型の方が金銀の守備力を生かし切れている可能性もあるわけです。

一方で、2八玉型で横以外から攻められた場合に、5八の金が守備駒として有効に働かない場合があります。

美濃囲いへのこびん攻め美濃囲いの受けの手筋

例えば、左図では先手玉に△3六桂▲1八玉△2八金までの詰めろがかかっています。角と桂のコンビネーションを利用した美濃崩しの代表的な形です。このこびん攻めに対する有名な受けの手筋として、左図から▲4六歩△同角▲4七金(右図)があります。5八金の位置だとこびん攻めに対する守備駒としては働かないので、4七の位置へ金を移動させるのがポイントです。この受けの手筋は、「玉から3マスの距離から2マス以内のエリアに守りの金を移動させている」と解釈することもできます。戦いの中で金銀を玉の近くに引きつけるのが玉の守り方のコツです。

玉から3マスの距離にある金銀については、次のように考えられます。

「玉から3マスの距離にある金銀は、その方向からの攻めに対しては守備駒として有効に働く。しかし、別の方向から攻められた場合に、受けに働かない場合もある」

 

実戦でよく現れるその他の囲いの場合

実戦でよく現れる矢倉、美濃、穴熊以外の囲いも見てみましょう。

船囲いと玉から2マス以内のエリア雁木と玉から2マス以内のエリア中原囲い(中原玉)と玉から2マス以内のエリアミレニアムと玉から2マス以内のエリア

玉を守備駒で囲うわけですから、守備駒が玉の近くにあるというのは当たり前といえば当たり前なのですが、船囲い雁木中原囲いミレニアムでは、玉から2マス以内のエリアに金銀が収まっています。

このことから、「玉から2マス以内のエリアにある金銀は、基本的に守備駒として考えていい」という指針が生まれます。実戦で見慣れない玉形になった時に、玉の堅さを計るための指標の一つとして役立ちます。逆に、玉から3マス以上離れた金銀は守備駒としての働きが弱い可能性があるので、玉の近くに引きつけたり、攻め駒として働かせたりすることが有効になります。

 

玉を中心に相手の攻め駒の位置を考える

逆に考えると、玉から2マス以内のエリアに相手の攻め駒がある場合は、玉の危険度が上がります。あるいは、このエリアに相手の攻め駒の「利き」がある場合も、玉の危険度が上がっています。

雁木と飛車先の歩

例えば、上図のように飛車先の歩を突かれた場合に、手抜きができないことは非常に多いです。図面の濃い赤で示した8七のマス目に、後手の8六の歩の利き(と8二の飛車の間接的な利き)が侵入しています。このマス目は、6九の玉から2マス以内のエリアにあります。次に、8七歩成と成られると、7八との王手で守りの金を取られる手が、非常に厳しい狙いとして残ります。

穴熊と端歩

また、上図のように穴熊で端歩を詰められている場合に、端歩を突かれると手抜きができないことも非常に多いです。

これらの場合は、歩の利きが玉から2マス以内のエリアに侵入しています。あと2手で王手がかかる可能性がある、あるいは、あと1手で詰めろや必死がかかる可能性がある、というスピード感の攻めなので、手抜きをすると玉がかなり危険な状態になります。

 

玉の囲いと守り方のコツのまとめ

①玉から2マス以内のエリアは、玉の守りに非常に重要です。
将棋の実戦でよく現れる優れた囲いは、このエリアに金銀を集めています。
③このエリアに相手の攻め駒や利きが侵入してきた時は要注意です。
④戦いながら玉の近くに守備駒を引きつけるのが玉の守り方のコツです。

 

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香の価値の確率分布と香の格言 https://shogijugem.com/kyo-kakugen-kakuritsubumpu-617 Tue, 12 Apr 2016 15:07:49 +0000 https://shogijugem.com/?p=617 前回、香の価値を確率的な平均値(期待値)として考えました。「確率」というのがポイントで、香の価値が状況によって変動することを示唆しています。実際に、駒の価値を利きの数の多さと考えると、盤上で1マスしか利きがない場合と、8...

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前回、香の価値を確率的な平均値(期待値)として考えました。「確率」というのがポイントで、香の価値が状況によって変動することを示唆しています。実際に、駒の価値を利きの数の多さと考えると、盤上で1マスしか利きがない場合と、8マスも利きがある場合では、香の価値が大きく異なります。

 

駒の価値の研究シリーズ(No. 4)
前回:香の価値は2.75点?
次回:3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較

このページの目次

香の価値と格言

駒の価値の多面的な分析

香の価値と確率分布

盤上の香と持ち駒の香


 

香の価値と格言

「香は下段から打て」「下段の香に力あり」という将棋の格言は、下段の香の方が駒の価値が高いことを意味しています。仮説1「利きの数仮説」の観点から説明すると、下段の香の方が利きの数が多いから価値が高いということです。

また「歩切れの香は角以上」という格言もあります。歩切れの場合は、香筋(香の利き)を歩で止めることができないので、香を打った時の利きの数の期待値は格段に上がります。

「底歩には香打ち」「香を持ったら歩の裏を狙え」という格言も、香筋を歩で止められない状況を狙った香の活用法を教えています。

 

香筋を歩以外の駒で止めようとしても、桂や香ならまだしも、金や銀など価値の高い駒で止めると駒損になります。状況によっては、ただの駒損ではなく、いつでも取られる質駒としての駒損になりかねません。その分だけ、単なる金香交換や銀香交換よりも損している可能性があります。そう考えると、金銀よりも上の角ぐらいの価値があってもおかしくはないでしょう。

 

香筋を止められない場合は、最悪8マスの利きを許すことになります。利きの数としても、金の6マスや銀の5マスよりも上になる可能性があるわけです。

 

さらに、前に2マス以上の連続したマス目に利かせられる可能性のある駒は、飛車(龍)と香の2種類しかありません。状況によっては、この特性が決定的な役割を果たすこともあるでしょう。この点については、飛車も同じ事ができるので、飛車よりも香の価値が高いということにはなりませんが、角よりも役に立つ状況は十分に考えられます。

 

このように考えると、「歩切れの香は角以上」という格言は、決して単なる誇張ではないとわかります。


 

駒の価値の多面的な分析

駒の価値は「駒交換の損得」「利きの数」「利きの特性」など色々な視点から考えることができます。

 

ただし、「駒交換の損得」については、「そもそも交換した駒の価値が高いのか低いのか」という原点に戻ることになるので、単体としての駒の価値をあらかじめ考えておく必要があります。駒の価値の研究シリーズでは、スタート地点として、駒の価値を「利きの数」から考えています。

 

一方で、「利きの特性」については、「角ではダメで、香が必要」という状況もあるので、駒の価値の逆転がありえます。これも一種の駒の価値の変動です。


 

香の価値と確率分布

さて、これらの視点のうちで、今までの記事で議論してきた「利きの数」の話に戻りましょう。

香の価値の計算、すなわち「利きの数」の計算のために「確率」の概念を持ち出しましたが、確率的な物事を表現する方法として、確率分布という考え方があります。これは図にすると一目瞭然でわかりやすいので、説明はさておき、香の利きの数の確率分布の図を示します。

 

香の利きの数の確率分布

仮定1:香が二段目から九段目のどの段目にいるかは等確率(8分の1ずつ)。

仮定2:香の利きがどこで止められているかは等確率。(例えば、三段目の香は、二段目に合駒されると利きが1マス、合駒されないと利きが2マス。これらを等確率の2分の1とする。)

上記の2つの仮定については前回の記事「香の価値は2.75点?」を参照。

 

このグラフからわかるように、香の利きは1マスしかない確率が一番高く、利きのあるマス目の数が増えるにしたがって出現確率は低くなります。7マスや8マスなど、非常に利きが多い場合の確率は非常に小さいです。

1マスの34%と2マスの21%を加えると合計55%なので、香は半分以上の確率で1マスか2マスしか利きがないことになります。3マスまで加えると、約71%になります。香の利きは3マス以下の場合で7割を超えるということです。金や銀よりも価値が低いというのは納得できます。桂とはいい勝負でしょう。

一方で、6マスが5.4%、7マスが3.4%、8マスが1.6%なので、6マス以上の場合をすべて加えても確率は約10%です。このぐらいの低確率で、金や銀よりも価値が高くなる可能性があります。


 

盤上の香と持ち駒の香

将棋には持ち駒というルールがあります。持ち駒は盤面の空いてるマスならどこへ打ってもいいので、通常は利きがなるべく多くなるように、香は下段から打ちます。その点では「確率」ではなく、持ち駒の場合は「場所を自由に決めている」と考えることもできます。しかし、効果的な打ち場所が縦に狭い場合もあるので、利きの数だけを気にして好き勝手に香の打ち場所を決めればいい、というわけではありません。また、香を打った瞬間に歩を叩かれると、その瞬間の香の利きは1マスになります。

 

とはいえ、香という駒は「潜在的に」非常に価値の高い駒になる可能性があり、この特性は持ち駒というルールによって増幅されています。

 

逆に、ひとたび持ち駒の香を盤上に打ってしまうと、その香の価値をある程度決めてしまうことに繋がります。すると、持ち駒の香を今使った方がいいのか、もっと効果的に使えるタイミングを狙った方がいいのか、と悩むことになります。この悩みは香に限ったことではなく、どの駒についても共通しています。しかし、香は利きの数が1~8マスで幅広いので、とりわけその悩みは大きくなりそうです。

 

そこで参考となるのが期待値で、香を今打った方が得になるか、それとも温存しておいた方が得になるかの判断材料になります。期待値より利きの数が多ければ、「下段に打ってよく利いているから、すぐに駒得などに繋がらなくても香を据えておこうか」というような判断にも繋がるわけです。

 

さて、香の「利きの数」についての理解はそれなりに深まりました。しかし、「香のスピード」問題については未解決です。この点については、次回以降の記事で考えてみます。

 

駒の価値の研究シリーズ
前回:香の価値は2.75点?
次回:3人のプロ棋士が教える将棋の駒の価値の比較

 

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将棋の格言の拡張「玉の守りは金銀三枚+桂香」 https://shogijugem.com/kakugen-gyoku-mamori-496 Sun, 10 Apr 2016 15:49:41 +0000 https://shogijugem.com/?p=496   「玉の守りは金銀三枚」は非常に有名で実用度の高い格言です。 将棋というゲームは最終的に玉を詰ますことを目的としているので、自玉が詰まないように玉を金銀で囲うことが重要です。この格言では、まず玉の囲いが重要で...

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「玉の守りは金銀三枚」は非常に有名で実用度の高い格言です。

将棋というゲームは最終的に玉を詰ますことを目的としているので、自玉が詰まないように玉を金銀で囲うことが重要です。この格言では、まず玉の囲いが重要であると説いていて、さらに金銀3枚がセオリーだと説いています。

 

代表的な囲いにおける端の桂香

端の桂香と「戦力」と「戦型」

玉の位置と端の桂香の関係

  ・玉が7筋(3筋)の場合

  ・玉が6筋(4筋)の場合

玉の囲いと端の桂香の関係のまとめ


 

代表的な囲いにおける端の桂香

将棋で最も代表的な囲いと言えば、矢倉美濃穴熊の3つの系統に属する囲いです。各系統の中で最も基本的な囲いとされるのが、矢倉系なら金矢倉、美濃系なら本美濃、穴熊なら金銀3枚の基本形、ということになります(図)。「玉の守りは金銀三枚」という長年のセオリーから、これら金銀3枚の囲いが基本形とされているのでしょう。

矢倉囲い(金矢倉)美濃囲い居飛車穴熊(基本形)

ところで、これらの囲いには「金銀3枚」という以外にも、もう一つの共通点があります。それは、桂香が囲いに加わっているという点です。仮に、桂香がなくなったとすると、ずいぶん囲いが弱くなります。すなわち、最もよく実戦に現れる優れた囲いというものは、桂香の守備力を上手く取り入れているわけです。この点で、「玉の守りは金銀三枚+桂香」は一つのセオリーである、と言ってもいいと思います。


 

端の桂香と「戦力」と「戦型」

さて、「玉の守りは金銀三枚」は「囲い」についての格言ですが、別の角度からは「戦力」についての格言であるともいえます。

将棋を「戦力」という視点で考えると、初期戦力として、玉1枚、飛車1枚、角1枚、金2枚、銀2枚、桂2枚、香2枚、歩9枚の合計20枚が両軍に与えられています。この初期戦力を効果的に運用するにあたって、「端の桂香を玉の囲いとして使う」というのは一つの戦略になります。その具体的な方法としては、玉を初期位置の5筋から端の方に寄せればいいことになります。

実際に、居飛車vs振り飛車の対抗型、相矢倉、相振り飛車などの戦型では、多くの場合、玉が序盤の早めの段階で中央の5筋からどちらかの端の方に移動することになります。

ところが、横歩取りや相掛かりでは、玉が5筋のままの中住まいで戦う場合が多いですし、そうでなくても、玉が中央付近の4筋や6筋で長く留まる場合が多くなります。また、相居飛車の角換わりの将棋では、棒銀や早繰り銀の可能性が残っている場合に、居玉のままで玉の移動を保留する指し方がよく見られます。

 

例えば、相掛かりの最序盤を考えると、初手の▲2六歩は、「飛車先を突いて2筋を攻めるので、後手陣の角側の桂香を、簡単に玉の囲いには使わせない。」という意思表示なわけです。後手は攻められそうな場所に玉を移動しづらいです。

これに対して、二手目の△8四歩は、「先手が2筋からの攻めを見せて、角側の桂香を玉の囲いに使いづらくするなら、こちらも飛車先を突いて8筋を攻める形を見せて、先手陣の角側の桂香を玉の囲いに使いづらくする。」という駆け引きであると考えることもできます。というのは、後手に△8四歩と突かれると、先手も攻められるとわかっている左辺(角側)に玉を囲いづらいからです。

さらに、三手目に▲2五歩とすると、戦型はほぼ相掛かりに決まります。端の桂香を玉の囲いには使いづらい戦型です。すなわち、「角側の桂香を玉の囲いに使いづらくする」という互いの主張は通ったことになります。何気ない相掛かりの序盤の出だしですが、「玉の囲いに端の桂香を使えるかどうか」という戦略をめぐって、駆け引きがあると考えることができます。

ちなみに、仮に先手が三手目に▲7六歩を選んだとしても、後手が四手目に△8五歩を選べば角換わりが濃厚、四手目が△3四歩なら横歩取りが濃厚で、いずれにしても先手としては玉を左辺(角側)に囲いづらい形が残ります。


 

玉の位置と端の桂香の関係

このように、「端の桂香を玉の囲いとして使えるかどうか」が、戦型を分けてしまうほどの重要な戦略の分岐点だと考えると、端の桂香と玉の関係性について、細かく考えてみる価値はあります。

 

いったい玉がどの位置にいると、端の桂香が玉の囲いとして働くと考えることができるのでしょうか?

 

玉が9筋(1筋)の穴熊、8筋(2筋)の矢倉、美濃において、桂香が玉の守りに働いているのは明らかです。


 

玉が7筋(3筋)の場合

 

玉が7筋(3筋)の場合はどうでしょうか?

 

玉が7筋(3筋)の有名な囲いをいくつか見てみましょう。囲いの紹介のページに書いたものを取り上げます。

船囲い三手囲いA片矢倉(天野矢倉)金無双(二枚金)

まず、桂馬は急所の玉頭に利いていて、間違いなく守りによく働いています。また、片矢倉、金無双では、桂の存在がマス目を埋めているのも大きく、一段飛車+△8九銀(片矢倉)、一段飛車+△2九銀(金無双)などの筋を防いでいます(金無双の場合は、壁銀と一緒に壁を作っているとも言えますが・・・)。桂の端の利きが、端攻めからの守りになっていることも見逃せないでしょう。

次に香車ですが、香がなければ端が弱すぎます。特に、三手囲いAでは、端香がない形は非常に危険です。他の囲いでも、端香がなければ端攻めが容易になります。玉が7筋(3筋)なので、成り駒を9筋(1筋)に作られる形が厳しく、簡単に挟撃形を築かれてしまいそうです。というわけで、7筋の玉でも端の桂香は玉の守りによく働いていると考えるべきでしょう。


 

玉が6筋(4筋)の場合

 

玉が6筋(4筋)の場合はどうでしょうか?

 

玉が6筋(4筋)の有名な囲いもいくつか見てみましょう。

カニ囲い雁木中原囲い(中原玉)右玉A

6筋(4筋)に玉がいると、桂馬は7七(3七)の地点に利きがあるので、玉のこびんに利いているか(玉が二段目の場合)、または相手の桂で王手をされる地点に利いている(玉が一段目の場合)ことになります。どちらにしても、桂は玉の守りに働いています。

カニ囲い、雁木、中原囲いでは7八の金が守りの急所の駒となりますが、桂はその7八金をよく守っています。桂の利きが金頭に利いているので△7七歩に▲同桂と取れますし、桂がマス目を埋めているので△8九銀の筋も消しています。

また、右玉Aなど桂が跳ねている形では、桂のいる3七の地点(玉のこびん)が弱点になっているものの、桂が急所である玉頭の4筋の守りに利いているメリットは見逃せません。

 

しかし、桂の端の利き(9七あるいは1七)の方は、玉の囲いへの貢献が小さいです。もちろん端の守りには利いているのですが、玉が6筋(4筋)で端から遠いので、「玉の守り」というよりは「自陣の守り」という意味合いが強いです。

また、カニ囲いや雁木では、△8八歩と桂頭に打たれる筋がよく出てくるので、桂は狙われやすい弱点でもあります。他にも、△9八歩▲同香△9九飛など、桂が狙われる筋は色々とあります。

 

結局、6筋(4筋)の玉に対する桂の関係は、「玉の守りにそれなりに働いているが、桂の2つある利きのうちの1つだけがメインで、桂頭の弱点を狙われることもある」となるので、桂の半分ぐらいが守りに働いているという感じです。

 

次に、香車の方はどうでしょうか?

香は端にしか利きがないので、玉からはやや遠いという印象です。6筋(4筋)の玉に対して、端の香が囲いを構成しているのかと考えると疑問が残ります。桂の端の利きと同じように、玉を守っているというよりは、自陣を守っているという意味合いが強くなるからです。


 

玉の囲いと端の桂香の関係のまとめ

以上の考察から、桂香が玉の囲いとして文句なく十分に働いていると言えるのは、玉が7~9筋(振り飛車の場合は1~3筋)にいる場合と考えてよいのではないでしょうか。

 

まとめると、

 

①最も代表的な矢倉、美濃、穴熊では、金銀だけでなく端の桂香も囲いを構成します。

②端の桂香を玉の囲いとして使えるかどうかは、戦型を分けてしまうほどの重要な戦略の分岐点です。

③端の桂香を囲いの駒として十分に働かせるためには、玉が7~9筋(1~3筋)にいる必要があります。

 

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将棋の格言「桂先の銀、定跡なり」の分析:3つの関係性 https://shogijugem.com/kakugen-keisaki-no-gin-47 Mon, 28 Mar 2016 01:35:57 +0000 https://shogijugem.com/?p=47   「桂先の銀、定跡なり」という格言があります。「桂先の銀」とは図1のように、相手の桂の頭に銀がある形のことです。盤上の銀が桂頭に移動することもあれば、持ち駒の銀を桂頭に打つこともあり、どちらも実戦でよく現れま...

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「桂先の銀、定跡なり」という格言があります。「桂先の銀」とは図1のように、相手の桂の頭に銀がある形のことです。盤上の銀が桂頭に移動することもあれば、持ち駒の銀を桂頭に打つこともあり、どちらも実戦でよく現れます。

図1.桂先の銀

「桂先の銀」の効果は主に2つあります。一つは「相手の桂の2マスの利きを、銀の斜め後ろの2マスの利きがカバーしている」ことです。もう一つは、「銀によって桂取りになっている」ことです。これらの2つの効果によって、相手の桂頭に銀がある形が受けの好形とされています。

例えば、相手の桂で攻められている時に、その桂の利きがあるマス目を守ることは「数の受け」の考え方からすると理にかなっています。その点で「桂頭の銀」は桂の2マスの利きを同時に銀で守っています。さらに、桂取りになっているので、相手の攻めを急がせることができる、いわゆる強い受けです。

 

これらの2つの効果を、「桂先の銀」に限定しないで一般化してみましょう。

 

すると、相手のある駒(「桂先の銀」の場合は桂)に働きかける要素として、

 

①その駒を「取り」にする。

②その駒の利きがあるマス目に味方の駒を利かす。

 

という二種類のアプローチがあることがわかります。

 

①その駒を「取り」にする、というのは図2のような状況です。右上図では、後手の△2一桂に対して、先手の▲2二歩が「取り」をかけています。同様に、左上図では、△8二飛に対して、▲9一角が「取り」をかけています。また、左下図では、先手の▲8八角が、後手の△8七銀に「取り」をかけられています。最後に、右下図では、▲1九玉が△2七桂に「取り」をかけられていますが、言うまでもなく、玉に対する「取り」は「王手」です。

相手の駒を「取り」にするのは攻めの基本です。一方で、相手の駒を「取り」にするような受けは「強い受け」と呼ばれて、相手の攻めを急がせたり、駒得を狙ったりする積極的な受けになります。

図2.①「取り」にする図3.③味方の駒を利かす

次に、②その駒の利きがあるマス目に味方の駒を利かす、というのはどんな状況でしょうか。図3を見てもらうと、右上図では、△2一桂の3三の利きがある地点に、先手の▲3四歩が利いています。図2と図3の右上図を比較すると、①と②の違いがよくわかります。

図3の左上図では、△8二飛の8三と7二の利きの両方に、▲6一角の利きが通っているので、△8二飛は縦にも横にも動けません。左下図では、△7六銀の利きがあるので、8八の角は▲7七角と上がると銀に取られてしまいます。右下図の先手玉は、△3六桂が利いているので、2八の地点に逃げることができません。

①と②の違いについては、わかってもらえたと思います。この違いは、「駒の存在」と「駒の利き」の違いと言い換えることもできます。すなわち、「相手の駒が存在するマス目」「相手の駒の利きがあるマス目」は違うということで、前者に働きかけるのが①のアプローチで、後者に働きかけるのが②のアプローチというわけです。

 

「桂先の銀」では、①と②を両方とも満たしていますが、もう一つ大事な関係性があります。それは、「桂で銀が取られない」ということです。一般的に言うと、「③働きかける味方の駒がその駒で取られない」ということです。

①と③を同時に満たすと、相手の駒を一方的に取ることができます。「桂先の銀」の例で言えば、銀は桂を取れますが、桂は銀を取れません。「銀と桂の2駒の力関係で、銀が桂に勝っている」という見方もできます。さらに②も満たしている場合(つまり①と②と③を同時に満たしている場合)は、駒を逃がすこともできません。図1で後手の桂が5七や7七に逃げようとしても、銀が利いているので取られてしまいます。

 

まとめると、「桂先の銀、定跡なり」という格言の有効性は、

 

①銀が桂を「取り」にする。

②桂の利きに銀を利かす。

③銀が桂で取られない。

 

という3つの関係性で成り立っています。このように考えると、たしかに「桂先の銀」が受けの好形であると納得できそうです。実戦で頻繁に現れるのには、それなりの理由があるということです。

 

トップ棋士の渡辺明さんは、著書で次のように表現しています。

桂先の銀はマウントポジションなんです。部分的な力関係は圧倒的に銀が有利。(『渡辺明の思考』、p. 178)

 

 

ところで、桂に対して①~③の関係性をすべて満たせる駒が他にもあります。玉、龍、飛車、馬です。「玉」は銀の利きをすべて持っているので当然ですし、さらに利きが多くて強力な成り駒である「龍」と「馬」については言うまでもありません。しかし、「飛車」については少々気になる点があります。

図4.①~③を満たす飛車

図4の6七の飛車は、6五の桂に対して、①~③をすべて満たしています。図4だけを見れば、飛車が桂に対して一方的に強い関係であることがわかります。その意味では、「桂先の銀」と同じです。それならば、「桂先の銀」と同じように受けの好形と認識してよいのでしょうか?

もし、後手が歩を1枚でも持っていたら、すぐに飛車の頭に歩を叩かれて、①~③の関係性のいずれかが失われることになります(図5)。

図5.叩きの歩

△6六歩▲同飛なら②の関係性が失われるので、△5七桂成や△7七桂成で逃げられてしまいます。

△6六歩に▲8七飛など飛車が横に逃げる手では、①の関係性が失われるので、次に飛車で桂を取ることができません。

△6六歩に▲6八飛や▲6九飛で下に逃げなければならない状況では、①と②の両方の関係性が失われます。

△6六歩に、まさか▲5七飛や▲7七飛とは逃げないでしょうが、③の関係性が失われるので、△同桂成で飛車が桂に取られてしまいます。

というわけで、「桂先の銀」とは違って、飛車では歩を叩かれる筋が気になります。

 

もう一つ別の観点から考えると、飛車は桂の相手をするには駒の価値が高すぎます。例えば、桂の受けのためだけに、持ち駒の飛車を使う展開はつまらないです。その点で、銀なら桂と比べてそれほど駒の価値は変わりません。それでいて、桂に対して「桂先の銀」の形は一方的に強いのです。駒の損得(コストパフォーマンス)の観点でも「桂先の銀」は理にかなっています。

これは、桂が質駒になる場合でも大きな意味を持ちます。実戦で「桂先の銀」に対して、取られそうな桂を歩で支えるという形は頻繁に現れます(図6)。この形では、いつでも質駒の桂を入手することができます。銀桂交換でやや駒損になってしまいますが、銀と桂ならそれほど駒の価値は変わりません。もし銀の代わりに飛車なら、飛桂交換でかなりの駒損になるので、質駒の桂を手に入れるハードルが高くなります。

図6.桂を歩で支える

 

さて、今まで「桂先の銀」について考えてきましたが、いくつかの重要な視点を得ることができました。そのうちの一つは、①~③の関係性で考えるということです。「桂先の銀」に限定しないで一般化して、もう一度まとめると次のようになります。

 

①その駒を「取り」にする。

②その駒の利きがあるマス目に味方の駒を利かす。

③働きかける味方の駒がその駒で取られない。

 

このような視点から、「他の駒と駒の関係性」や「他の格言」を分析しても面白いです。例えば、「大駒は近づけて受けよ」の格言では、受け方としては①が、攻め方としては③が重要なポイントになります。このような例は色々とあるので、また別の記事として書いてみたいと思います。

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将棋の格言「四隅の香を見る」と木村一基vs羽生善治の相矢倉戦 https://shogijugem.com/kakugen-shisumi-no-kyo-17 Fri, 25 Mar 2016 18:21:56 +0000 https://shogijugem.com/?p=17   「四隅の香を見る」という将棋の格言があります。この格言は「盤面全体を見よ」という教えを言い換えたものです。将棋の初形で香は盤面の四隅にあるので、「四枚の香を見ることによって、自然と盤面全体を見ることができる...

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「四隅の香を見る」という将棋の格言があります。この格言は「盤面全体を見よ」という教えを言い換えたものです。将棋の初形で香は盤面の四隅にあるので、「四枚の香を見ることによって、自然と盤面全体を見ることができる」ということです。

将棋の初形図(四隅の香)

例えば、盤面全体を見ることによって、遊び駒を発見して活用を狙う(「遊び駒を活用せよ」)、玉を安全なエリアに逃がす(「玉の早逃げ八手の得」)、局所的には不利なので戦線を拡大する(「不利な時は戦線拡大」)、など他の格言を生かすためのヒントを得ることができます。様々な発想を思い付くためのヒントは盤面全体に散らばっており、「盤面全体を見る」ことは基本的かつ極めて重要な技術と言えるでしょう。

 

さて、「四隅の香を見る」と「盤面全体を見る」という二つの表現は、同じことを言っているようでも、そのニュアンスが異なります。盤面を見るやり方が微妙に違いますし、「目線の使い方」「脳の使い方」「盤面の認識方法」などが必ずしも同じではないと思います。

どういうことかと言うと、「四隅の香を見る」ための一つのやり方として、香がある地点に目の焦点を絞りながら、(香は4枚あるので)目線を4回動かすというやり方があります。一方で、もう一つのやり方は、「盤面全体を眺めて」視界の中に四隅の香を収めるという目の使い方です。後者の場合は、目線自体は盤面の中心付近にあるので、視界において中心からやや離れた位置で四隅の香を捉えていることになります。

この両者は、一見同じようで微妙に違います。それどころか、極めて重要な違いなのではないか?とさえ思います。

 

話が広がりそうな所ですが、少々脱線気味なので、話を少し戻します。

そもそも「盤面全体を見る」とは、どのようなことなのでしょうか?

ここで、プロの実戦例を一つ挙げたいと思います。プロの実戦を参考にして、いくつかの視点から、「四隅の香を見る」「盤面全体を見る」とは何か?を考えてみます。

 

今回取り上げるのは、2014年7月に行われたタイトル戦、木村一基八段vs羽生善治王位の王位戦七番勝負第2局です。(参考資料:将棋世界2014年10月号)

戦型は相矢倉で、▲3七銀戦法の宮田新手と呼ばれる形です。▲3七銀戦法はプロの公式戦で膨大な数の実戦例があります。いわゆる「宮田新手」とは、4六銀―3七桂型から後手の専守防衛策に対して▲6五歩と突く手のことで、宮田敦史さんが最初に指したので宮田新手と呼ばれます。(図1)

2014年第55期王位戦木村羽生(相矢倉)-45

▲3七銀戦法における4六銀―3七桂型の特徴として、先手が主導権を握って攻め続ける展開が多いことが挙げられます。もう一つの大きな特徴は、定跡化がかなり深くまで進んでいる戦型であるということです。

2014年第55期王位戦七番勝負第2局木村羽生(相矢倉)-492014年第55期王位戦七番勝負第2局木村羽生(相矢倉)-73

図2(49手目)は仕掛けの局面ですが、先手の攻めは飛角銀桂香の5枚が参加しており、玉の囲いを構成している金銀3枚と玉側の桂香以外の駒はすべて攻めに参加しています。「盤面全体を見る」の一つの意味は、盤面で遊んでいる駒を作らないことです。特に攻めに注目した場合は、図2のように、玉を守る囲いの駒以外、すべての駒が攻めに参加しているのが一つの理想形です。

図2からしばらく進んで、図3(73手目)まで進むとよくわかるのですが、先手の攻めは飛角銀桂香の5枚をすべて活用した総攻撃になっています。一方で、後手は金銀4枚を玉の近くに集めて、徹底的に受けに回っています。

2014年第55期王位戦七番勝負第2局木村羽生(相矢倉)-88

さて、「盤面全体を見る」ことの別の意味合いが、図4(88手目)で現れています。本局全体の流れの中で、88手目の△8六歩は攻守が入れ替わった瞬間です。今まで徹底的に受けに回っていた後手が、初めて先手陣に手を付けた攻めの一手です。すなわち、攻守の両方を見るということが、「盤面全体を見る」のもう一つの意味合いです。攻めは相手陣の近く、受けは自陣の近くが通常なので、視覚的にも盤面全体を見ることになります。

 

盤面全体で判断した上で、攻めるか受けるかを決めるわけですが、棋士の棋風によって攻めと受けのバランスは違ってきます。本局の先手番の木村一基さんは「千駄ヶ谷の受け師」という異名もあるように、受けに定評がある棋風として知られています。一方で、後手番の羽生善治さんはどちらも苦にしないバランス型と言われています。

もともと、相矢倉の▲3七銀戦法は先手が主導権を握りやすい戦法として知られていました(過去形)。特に、後手に専守防衛を強いる展開では、先手が一方的に攻め続ける時間が長くなります。本局でも図4の一手前の局面までは、先手がずっと攻めていました。ちなみに、本局が指された時点で、ちょうどこの辺りまで同一局面の過去の実戦例があったようなので、すなわち90手近くの深さまで定跡化されつつあるということです。▲3七銀戦法の4六銀―3七桂型で、先手が主導権を握って攻める展開になりやすいというのがよくわかります。90手近くまで前例があるというのも驚きですが、互いに最善を尽くした結果として先手が一方的に攻めていて、なおかつ形勢が難解というのも驚くべきことです。普通は、これだけ長い間一方的に攻め続けているうちに、形勢がどちらかに傾いてしまいそうなものです。

 

受けに定評のある木村八段ですが、本局では先手が先攻する定跡の進行なので、攻める時間帯の方がずっと長い展開になっています。とはいえ、いずれ攻め合いの展開になれば、受けの力も存分に発揮されるわけです。

2014年第55期王位戦七番勝負第2局木村羽生(相矢倉)-93

例えば、図5(93手目)の▲7五歩です。この手は一手前の△3三玉の疑問手をとがめた好手で、この手を境に先手の木村八段が若干優勢になったようです。7三の桂頭を狙った攻めですが、実は△6五香に▲7六金右を用意した受けの手でもあったのです。すなわち、▲7五歩は攻防手ということになります。(参考:将棋世界2014年10月号)

図4の△8六歩と図5の▲7五歩を対比して考えると、△8六歩が攻守を切り替える手であるのに対して、▲7五歩は一手で攻めと受けの両方をにらんだ攻防手ということになります。攻めと受けの両方に働く地点は、急所の一つと言えます。このように、「盤面全体を見る」には、盤面上で急所の地点を発見するという意味合いもあります。

2014年第55期王位戦七番勝負第2局木村羽生(相矢倉)-94

▲7五歩に対する次の一手は、図6(94手目)の△2六歩の垂らしの歩です。今まで盤面の右下のエリアでは戦いが起こっていなかったのですが、一転して入玉を含みにした△2六歩▲2八飛の利かしが入ります。図4の△8六歩から▲同歩△8七歩▲同金△3三玉▲7五歩(図5)△2六歩(図6)という手順なのですが、後手の羽生王位の指し手のみを数手抜き出してみると、△8六歩~△8七歩~△3三玉~△2六歩と盤面のあちこちに飛んでいることがわかります。一連の手順は盤面全体を広く使っており、これも「盤面全体を見る」ことから生まれているといえます。

2014年第55期王位戦七番勝負第2局木村羽生(相矢倉)-148

図7(148手目)は最終盤のクライマックスです。△9六歩の端歩突きによって、9四の飛車だけでなく、今まで盤面の左上の隅で遊んでいた9一の香が最後に働き出します。まさに「四隅の香を見る」そのものとも言える展開です。 ここまでは、おそらく形勢的に微差の局面が長く続いていましたが、この△9六歩が決め手となったようです。最後に飛車に活を入れるとともに、香1本分の戦力も追加できたことが決定的です。

羽生王位は△9六歩にほぼ最後の持ち時間6分を投入していますので(これ以降は1分しか使っていない)、ここで最終的な勝ちを読み切ったのだと思います。

 

一局の将棋の平均的な手数は、プロの対局で110手前後です(参考:平成27年度版『将棋年鑑2015』)。この将棋は投了図まで162手で、平均に比べるとかなり長手数の将棋になりました。しかし、どちらかが明快な順を逃して、あるいは決め切る順を逃してグダグダになった対局ではないと思います。盤面全体で激しい戦いがあり、互いが多くの駒を使い切った結果としての長手数です。

2014年第55期王位戦七番勝負第2局木村羽生(相矢倉)-162

投了図(162手目)を眺めると、激戦の跡が随所に見られます。不動駒が少ないのは熱戦の証と言われますが、本局の不動駒は▲9九香と▲4七歩のたった二枚です。後手が最後に△9一香までさばき切って、本局に相応しい投了図になったと思います。まさに「四隅の香を見る」「盤面全体を見る」が凝縮された一局と言えるのではないでしょうか。

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将棋の格言「位を取ったら位の確保」の3つの理と例外 https://shogijugem.com/kakugen-kurai-6 Thu, 24 Mar 2016 21:02:27 +0000 https://shogijugem.com/?p=6 本記事のテーマ図は、2014年第35回将棋日本シリーズの決勝、▲羽生善治名人vs△渡辺明二冠戦からです。(参考資料:将棋世界2015年2月号)   将棋の格言には例外があります。   「位を取ったら位...

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2014年第35回将棋日本シリーズ決勝羽生渡辺(相矢倉)-34

本記事のテーマ図は、2014年第35回将棋日本シリーズの決勝、▲羽生善治名人vs△渡辺明二冠戦からです。(参考資料:将棋世界2015年2月号)

 

将棋の格言には例外があります。

 

「位を取ったら位の確保」という格言にも例外が存在します。

しかし、そもそも格言と呼ばれるくらいなので、何かしらの理があって、その理によって多くの局面で格言が当てはまるわけです。

また、多くの局面で当てはまるということは、直感的に見えやすい手であり、ひどい悪手にはなりづらいと言えます。それならばと、精査することなしに「まあ大体この手でいいだろう」と判断して、格言通りの手を選んでしまうことも多いと思います。

 

ところが、ある局面で、本当に格言通りの手が最善かどうかはわかりません。

究極的には「局面による」としか言えませんが、格言を格言たらしめる理を分析することによって、格言が適用できる局面か否かを判断する指針が生まれるかもしれません。

そこで今回のテーマは、「位を取ったら位の確保」の理と例外についてです。

 

位(くらい)とは五段目に伸びた歩のことです。居飛車の飛車先の歩は、例外として位とは呼びません。位の例としては、玉頭位取り戦法や5筋位取り戦法を考えるとわかりやすいです。

さて、「位を取ったら位の確保」と言うからには、位を確保できないと何らかの損が生じるというわけです。それは、どんな損なのでしょうか?

 

(1) 一つは手損です。

将棋の初形の駒配置では、歩は三段目にあるので、五段目まで歩を進めるのに2手かかります。2手かかってやっと五段目まで進めた歩を狙われて、簡単に交換されたり、取られてしまったりすると、手損のみが残ってしまいます。   逆に考えると、相手が2手損となるならば、位の歩を交換されても手損はないということになります。

 

(2) 位を失うもう一つの損は、位を取ることによって得ていた駒組み(駒の働き、駒の効率)による利益を失うことです。

位を取ることによって、「相手の歩が進めない」「相手の他の駒も四段目に進めない」など、駒組み(駒の働き、駒の効率)による利益を得られます。「位によって敵陣を圧迫する」という表現がわかりやすいです。位を失うと、その利益を失ってしまいます。

しかし、位を取っても相手の駒の進出を阻止できない場合や、位によって敵陣を圧迫しているわけでもないなら、そもそもこの利益は最初から失われています。そのような場合は、位の確保のために無駄な手数をかけるよりは、他の所に手をかけた方がよいかもしれません。

 

(3) 三つ目の損は、争点を作るという点です。

五段目の歩は敵陣に近いので争点になりやすく、相手にとって格好の目標になってしまう場合があります。五段目の歩だけで何も支えの駒がない場合は、簡単に歩交換されたり、歩を取られてしまったりします。この場合は手損にもなりますが、相手の駒に進出されたり、歩を相手に渡してしまったりするので、単なる手損以上の意味合いがあります。   特に、争点になった位を支え切れずに、駒損までするようなケースは最悪です。

しかし、駒損の場合はともかく、歩交換ぐらいの場合でそれがどちらに利するかは、局面によるとしか言えません。争点を作ることがどちらに利するかわからない場合もあります。

 

(1)手損、(2)駒の働き、(3)争点。取った位を確保できないことによる損失を3つ挙げましたが、この3つは相互に関連していて、全く別々のものというわけではありません。

このような視点から、具体的な局面を調べてみると面白いです。そこでテーマ図(再掲)です。

2014年第35回将棋日本シリーズ決勝羽生渡辺(相矢倉)-34

この局面は相矢倉の定跡に現れる図で、従来は△4五歩以下、▲3七銀△5三銀▲4八飛△4四銀右▲4六歩△同歩▲同角△5五歩▲4五歩△同銀▲5五角△4四歩(図2)が一つの定跡手順でした。

2014年第35回将棋日本シリーズ決勝羽生渡辺(相矢倉)-参考図

後手の△5三銀~△4四銀右が、「位を取ったら位の確保」という格言に従った手順ですが、4筋から反発して先手十分というのが長い間の定説だったらしいです(参考:将棋世界2015年2月号、p. 95)。しかし、手順を見れば明らかなように、位の確保を目指してはいるものの、結果的に位の確保には失敗しています。

つまり、結果的に不可能な位の確保を目指すという点で、△5三銀~△4四銀右の手順が「位を取ったら位の確保」の格言に本当に従っているかどうかの時点で、そもそも怪しいと考えることもできます。

羽生vs渡辺戦では、テーマ図の△4五歩以下、▲3七銀△5三銀▲4八飛△9四歩▲4六歩△同歩▲同角△7三桂(図3)となりました。この対局では、△4四銀右と位の確保を目指さない新構想が功を奏して、後手の渡辺明二冠が快勝しています。

2014年第35回将棋日本シリーズ決勝羽生渡辺(相矢倉)-42

この手順を上記の3つの視点から分析してみます。

 

まず、(1)の手損に関してですが、後手の△4五歩によって、先手は一度4六に上がった銀を▲3七銀と引いているので、▲4六銀~▲3七銀の往復で先手は2手損となっています。対して後手は、(金矢倉の囲いの一部で)もともと4四にいた歩を△4五歩と突いただけなので、余分に1手かけているだけです。従って、手損しているのは後手ではなく、逆に先手が1手損しています。

 

次に、(2)の駒の働き(敵陣の圧迫)という観点ではどうでしょうか。羽生vs渡辺戦の手順では、▲4六歩△同歩▲同角と4筋の歩を交換して、4六に角が進出しています。しかし、4六の地点はもともと銀が進出しようとしていた場所で、4六銀―3七桂型が先手の狙いでした。少なくとも後手は、4六銀―3七桂型を阻止したと言えるので、4五の位を取った意味はありました(位を確保できないとしても)。

 

最後に(3)の争点についてですが、△4五歩が争点になったので、4筋の歩を交換されています。もともと4四にいた歩がなくなったことにより、後手の矢倉(総矢倉)は弱体化し、先手は一歩持つことができました。しかし、これが単純な後手の損であるかどうかは怪しいです。まず、歩交換によって後手も貴重な一歩を持つことができています。それだけではなく、▲4六角と△6四角の対抗形では、4筋の歩交換が必ずしも先手の得にはならないのです。例えば、先手の4七に歩がいないことによって△4七歩と打たれる筋が生じており(角交換になると▲4七同飛は△3八角の飛桂両取りがある)、羽生vs渡辺戦でも実際に現れました。

また通常は、後手陣の4四の歩(と5三の銀)がない形の弱点で、▲3五歩△同歩▲7一角という矢倉では有名な筋が生じます。しかし、この形では▲7一角に△7二飛が非常に味の良い手になっていて、後手は4四の歩がない形を上手く逆用することができます。

 

このように分析すると、「△4五歩と位は取るが、△4四銀右と確保はしない」という手順は、格言には反していますが、①手損、②駒の働き、③争点、のいずれの視点から見ても悪くはないと言えます。

言い換えると、位を確保しない手に理があります。

 

「位を取ったら位の確保」に限らず、格言に反する手を考えてみるのは、新しい手や気付きづらい手を発想するときの一つの視点となります。格言に反する手を、単に奇妙な手と捉えたり、「結果として良い手だった」と結果論的に捉えたりするのみでは、他の局面に応用が利きません。

格言外の手や常識外の手なのに、よくよく考えてみると好手だった、というケースは少なくないと思います。その理を分析することによって、常識外の手が、常識として理解されるようになるのかもしれません。

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