The post 王位戦第1局▲羽生善治王位 vs △菅井竜也七段の感想と将棋ソフト「技巧」による棋譜解析 first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>王位戦第1局▲羽生善治王位 vs △菅井竜也七段戦は、序盤・中盤・終盤のすべてで見所が多い大熱戦となりました。
序盤は早々に、羽生善治王位が公式戦で初めて指す驚きの一手が盤上に出現します。
挑戦者の菅井竜也七段も得意の戦型となり、互いの力を存分に出せる状況で、濃密な中盤戦が繰り広げられます。
終盤まで互角の戦いが続く緊迫した展開で、地力が試される難解な局面が次々と現れます。
最終盤で一瞬の形勢の揺れ動きもあり、最後まで勝敗の分からない大熱戦でした。
王位戦公式サイト:https://live.shogi.or.jp/oui/
棋譜中継:https://live.shogi.or.jp/oui/kifu/58/oui201707050101.html
中継ブログ:https://kifulog.shogi.or.jp/oui/
※ 王位戦はAbemaTVでも動画中継があります。
序盤でまず驚いたのが、羽生善治王位の3手目▲9六歩(図1)です。
相振り飛車の含みや、端歩の駆け引きといった高度な意味合いだと思うのですが、羽生王位が3手目▲9六歩を指したのは初めてです。
菅井竜也七段も驚いたと思うのですが、4分の少考で△9四歩と端歩を受けます。
意外なことに、次の▲2六歩に羽生王位は18分も考えています。
持ち時間が8時間の対局なので、1日目の午前中はゆっくり考えているのかもしれませんが、端歩を受ける普通の△9四歩に対して早くもこれだけ時間を使っているのは不思議です。
どうやら、あらかじめ作戦を決めていたというわけではなさそうな雰囲気です。
羽生王位が▲2六歩を突いて居飛車に決めたので、菅井七段は飛車を3→2筋に途中下車しながら向かい飛車にします。(図2)
菅井七段は指し慣れた戦型で、丸山忠久九段、渡辺明竜王を相手に採用して勝っています。
本局の序盤戦では、羽生王位が時間を多く使っており、常に菅井七段の持ち時間を上回っています。3手目▲9六歩で注文をつけたのに、注文をつけた側の羽生王位の方が考え込んでいるのは奇妙な感じです。3手目▲9六歩は菅井七段の研究を警戒したのでしょうか?
菅井七段といえば、昔はゴキゲン中飛車の第一人者の一人として有名で、今では居飛車を含めて何でも指しこなしますが、その序盤研究には定評があります。
ところが、菅井七段は研究熱心であると同時に、未知の局面を楽しむという面があります。対局当日に盤の前に座ってから作戦を考えるようなところもあるそうです。
羽生王位が研究を警戒して3手目▲9六歩と突いたのだとしたら、逆に菅井七段の指し慣れた戦型になってしまった上に、自分の方が時間を多く使ってしまったので完全に裏目です。
それとも、丸山忠久九段や渡辺明竜王を破った戦法にあえて誘導するために、3手目▲9六歩を初めて指してみたのでしょうか?
真相は分かりませんが、結果的には序盤で時間を使いすぎてしまったかもしれないです。
将棋ソフト「技巧」の評価値は300点ぐらいで、羽生王位の指しやすさを示しています。もともと、振り飛車は評価値が低く出る上に、3→2筋と飛車を途中下車している手損の分もあると思います。
ところが、駒組みが進んでみると、徐々に評価値の差が小さくなっており、中盤戦に差し掛かる頃にはほぼ互角となっているのが面白いところです。
図3は、羽生王位が両取りの▲6六角を打った局面です。8四の歩は取れますが、打った角がやや狭いという問題もあります。この手を境にして、中盤戦に突入します。
持ち駒に歩を手に入れた先手は、3筋からの桂頭攻めを狙いますが、これを受けての菅井七段の△6二角の自陣角が決断の一手です。
実は一手前の△5五歩のところで46分の長考をしており、かなりの読みを入れていることが分かります。△6二角と打たずに、△4四歩→△4三金と桂頭を守る手もあるので比較が難しかったのでしょう。ちなみに、技巧は△4四歩の方を推奨しています。
この辺りは、技巧の評価値によると、ほぼ互角の形勢が続いています。両者ともに長考して慎重に指し手を進めており、上手くバランスを取っているようです。
実戦の進行と技巧の推奨手との一致率も高くなっています。
ここからは、どちらの角がよく働くかが一つのポイントになりそうです。
図5が封じ手の局面です。菅井七段が封じ手に費やした時間は1時間32分で大長考です。
封じ手の△5六同歩は自然な一着ですが、実は技巧は△2四歩を推奨しています。菅井七段の大長考も△2四歩との比較が理由だったのでしょうか?
技巧はこの局面の後も何度も△2四歩を示しており、2筋の逆襲を推奨しています。一方で、実戦の手順では5筋に手をかけています。
形勢の方はというと、技巧の評価値はやや羽生王位よりで約300となっており、少し先手が指しやすくなったのかもしれないです。角は互いに手放しましたが、先手だけ持ち駒に歩を2枚持っています。玉の囲いもしっかりしているので、それほど不満はないかもしれません。
本局は互いに駒組みの繰り替えがあり、長い中盤戦となっています。羽生王位がややペースを握っているとはいえ、評価値で200~300ぐらいの微差です。いつの間にか、両対局者の持ち時間は残り半分の約4時間で、同じぐらいになっています。
中盤の競り合いがずっと続いているのですが、菅井七段も玉を穴熊に組み換えます。(図7)
既に駒はぶつかっているのですが、戦いながら玉を囲う感覚が参考になります。互いに無理な動きをせずに、じりじりとした展開になっています。
ただし、△4六歩や△3六歩など後手から動く変化がいろいろあり、先手としては警戒する必要があります。
この辺りは、羽生王位が時間を多く使っていて、感想戦でもまとめづらくて苦労していたとのことです。一方、菅井七段はそれほど時間を使わずにテンポよく指しています。
技巧の評価値では羽生王位が指しやすさをキープしているのですが、指し手に苦労しているのは羽生王位の方です。既に持ち時間を6時間以上使っており、菅井七段との差も1時間以上に広がっています。
将棋ソフトと人間の違いが現れていて興味深いです。
菅井七段の△7五歩あたりから玉頭戦が始まります。玉頭戦になると、先手の▲2八角や▲4七銀が遊ぶ可能性がありますし、素晴らしい判断だったようです。
▲6五歩の瞬間に△8五歩(図8)が手筋の焦点の歩で、▲8五同銀なら△7五銀、▲8五同金なら△6五銀があります。玉頭戦なので角を取ってもあまり嬉しくなく、金銀の厚みの方が重要な将棋になっています。
技巧の評価値ではほぼ互角ですが、羽生王位は形勢をやや悲観していたようです。中盤戦の半ばぐらいから、ずっと後手の動きを警戒する必要があり、主導権を握れなかったのが原因かもしれません。▲2八角と▲4七銀の活用が遅れているのも気になります。
ほぼ互角で終盤戦に突入しましたが、羽生王位はやや悲観しており、一方で菅井七段は難しいと思っていたようです。
対局後の感想戦と、技巧の評価値から判断すると、菅井七段の方が正確な形勢判断をしていた可能性があります。
図9の▲7一銀は後手玉にプレッシャーをかける一手ですが、4五の金を取って▲8八金打と埋めた方が良かったかもしれないです。
その後も、8二の金を取って早めに▲8八金打と埋める手順が感想戦で示されており、先手が面白い変化も現れていたようです。
技巧の評価値では、先手がやや指しやすい局面が多かったのですが、羽生王位が悲観していたというのは先ほど書いた通りです。
したがって、この辺りは互いに形勢に自信がなかったことになります。
それでも、どちらも大きな疑問手を指していないというのは流石の一言です。バランスの取れた局面が長く続く大熱戦となっています。
形勢に差がつき始めたのは、図10のあたりからです。図10の▲6四歩から▲6五銀で飛車角両取りをかけた方針が良くなかったようで、▲5五銀から遊び駒のさばきを優先させた方が勝りました。これが終盤で勝敗を分けたポイントの一つです。
図11で△7八歩成とした局面では、菅井七段が優勢となっています。先手は角筋に駒が重複していて、攻めが遅くなっています。
終盤戦の最後のポイントとなったのが、図12の局面でした。
実は△7六歩は悪手で、図12で▲6八歩の手筋なら大変だったようです。感想戦でも指摘された一手で、先手玉の危険度を下げることができます。
▲6八歩ではなく、代わりに指した▲7三角(図13)が結果的に敗着となってしまいました。後手玉に王手がかかるようにするための勝負手ですが、△5二飛で逃げられた飛車が受けに働き、菅井七段の勝勢が決定的なものとなります。
▲6八歩を発見できなかったのは、残り時間が10分になっていたのも大きいと思います。持ち時間がない状況で、一瞬だけ生まれたチャンスをものにするというのは難しいです。
図14は、5五の銀を6六に引いた局面で、角道を通しながら▲6六の銀を受けに働かせた攻防の一手です。しかし、ここでは先手玉に即詰みがあります。
投了図以下、▲9九玉なら△8八金、▲8七玉なら△7七金打から△8八銀、▲9七玉なら△8八銀から△7七金打でいずれも先手玉は即詰みです。
菅井七段は初戦を勝ち切り、嬉しいタイトル戦初勝利となりました。
王位戦第1局の本局は、羽生善治王位の3手目▲9六歩という驚きの一手で始まりました。
しかし、菅井竜也七段は落ち着いており、得意としている戦型に持ち込みます。
中盤戦はじっくりとした将棋になり、戦いながら玉を囲い直す展開です。形勢はやや羽生王位が指しやすかったようですが、まとめにくい形で苦労したようです。
ほぼ互角で終盤戦に突入し、難解な局面が続きましたが、形勢を悲観していた羽生王位が疑問となる手順を選び、菅井七段が優勢となります。
最後の最後で羽生王位が一瞬のチャンスを逃し、菅井竜也七段がそのまま勝ち切りました。
これで王位戦七番勝負は菅井竜也七段の先勝です。
第2局の日程は、7月25、26日(火、水)です。次の対局も大熱戦を期待しています。
<王位戦七番勝負第1局 ▲羽生善治王位 vs △菅井竜也七段>(flash盤の棋譜)
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]]>The post 棋聖戦第3局▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖の感想と将棋ソフト「技巧」による棋譜解析 first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>棋聖戦第3局▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖戦は、序盤戦略の面白さと将棋の怖さが詰まった一局となりました。
序盤は羽生善治棋聖が意外な戦法を採用します。昔プロでも大流行して、アマでは今でも大人気の戦法です。
中盤で未知の局面に突入してから、勝負は一つの山場を迎えます。形勢不明の中盤戦で、お互いの読みの力が試されます。
終盤は、将棋というゲームの怖さがよく分かる展開になってしまいました。非常に鮮やかな手順が盤上に現れます。
本記事では、将棋ソフト「技巧」を用いて、棋聖戦第3局の棋譜解析をしながら、ポイントとなった局面を振り返っています。
<棋聖戦公式サイト>
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序盤早々に驚いたのが、羽生善治棋聖の戦法です。2手目△3四歩で横歩取りかと思われたのですが、なんと4手目△4四歩と角道を止めてからの6手目△4二飛(図1)で四間飛車となりました。
最近では、羽生善治棋聖の四間飛車はなかなか珍しいのですが、藤井システムが流行っていた時期は居飛車側も振り飛車側もかなり指していたと思います。
予想されにくく、かつ経験が豊富な戦法を選んだと言えます。あるいは、2連勝して余裕ができたために、振り飛車を選んだということでしょうか?
斎藤慎太郎七段は、19手目▲3六歩(図2)で急戦を見せて、居玉のままの藤井システムを牽制します。
この辺りの指し方は、藤井システムが流行していた時期にかなり細かく研究されていたと思います。四間飛車側の待ち方としても、△6四歩、△9五歩、△4三銀など組み合わせが色々とあり、どのような布陣にするかは難しいところです。
将棋ソフトでは振り飛車の評価値が低めに出るという話があるのですが、本局の序盤でも技巧の評価値は200ぐらいとなっており、居飛車がやや指しやすい数値を示しています。
図3が序盤の大きな分岐点です。△8五桂の仕掛けも考えられる局面ですが、羽生棋聖は△7一玉で囲いを優先して、仕掛けを見送りました。
△7一玉で16分も時間を使っているので、有力だったのかもしれないです。
藤井システムは振り飛車側からの急戦が大きな特徴ですが、本局では藤井システムらしい展開ではなく普通の四間飛車になりました。
斎藤慎太郎七段の駒組みが慎重で、後手に仕掛けのチャンスを与えなかったのか、それとも羽生善治棋聖が本局の進行でも十分とみたのでしょうか?
将棋ソフト「技巧」の読み筋でも、△8五桂と仕掛ける手は示されていないようです。
評価値はほぼ互角ですが、先手は居飛車穴熊、後手は美濃囲いなので、玉の堅さには大きな差があります。
41手目▲3五歩(図4)の仕掛けで中盤戦に突入します。
この仕掛けには前例があり、2006年12月の棋聖戦▲羽生善治三冠 vs △藤井猛九段戦と全く同じ手順です。
先手は3筋と2筋の歩を突き捨てて▲6五歩から角交換を狙います。△6五同桂が銀に当たるので駒損になりますが、▲2四飛まで進むと飛車先を突破することができます。
仕掛けの手順は、将棋ソフト「技巧」の推奨手順とも完全に一致します。この辺りは、選択肢がなく一本道ということなのでしょう。
54手目△4八角(図5)の局面までは▲羽生△藤井猛戦と同じでしたが、55手目▲6七金寄で前例を離れて未知の局面に突入します。
羽生棋聖は昔自分が居飛車を持って指した将棋なので、その時に色々な変化手順を研究したのではないでしょうか。本局で羽生棋聖が逆の四間飛車側を持っているということは、少なくとも互角以上には戦えるとみているのでしょう。
羽生棋聖の過去のタイトル戦をいろいろと並べていると、途中まで前例と全く同じで、そのまま優勢になって、自然に勝ち切っている将棋がちょこちょこあります。いわば、経験や知識で勝っている将棋です。
斎藤七段は▲6七金寄のところで46分の長考をしています。このタイミングで長考をするということは、前例の▲羽生△藤井猛戦は当然把握しているということでしょう。前例と同じままでずるずると行くよりは、早い段階で変化した方が得策だと判断したのでしょうか?
ただし、ここで長考したために斎藤七段の残り時間は2時間を切ってしまい、羽生棋聖とは1時間近くの差があります。
ここまでの展開を結果だけで見てみると、羽生棋聖が経験のある形に誘導したために、持ち時間ではかなり有利になっています。
序盤の戦法選択からの駆け引きで、羽生棋聖が持ち時間のアドバンテージを得たと考えると、なかなか興味深い展開です。
実は、将棋ソフト「技巧」の推奨手は、55手目▲6七金寄ではなく▲6八金でした。ただし、▲6八金は守りの金が玉から離れるので、人間的にはかなり指しにくい一手です。
また、55手目▲6七金寄からは、実戦の指し手と技巧の推奨手が食い違うケースがかなり多くなります。有力手が多くて変化が幅広い中盤の難所に入ったということです。
この辺りは本局の勝負所の一つだったのだと思います。羽生棋聖も時間をたっぷりと使ったために、持ち時間の残りもほとんど同じになっています。
形勢はどうかというと、技巧の評価値ではほぼ互角で推移し、両対局者ともミスなく難解な中盤戦を乗り切ったことが分かります。
中盤までに形勢が傾くことがなく、ほぼ互角で終盤戦に突入したので、あとは終盤の読みの勝負ということになります。
羽生棋聖の66手目△5五桂(図6)は自然な攻めですが、技巧の推奨手の△2八龍よりも勝っているということで「好手」とソフトに認定されています。ソフトが自分で間違えを認めているみたいで、不思議な気分になります。
もう終盤戦なので、厳密に読めば勝ち負けの結論が出るはずです。
しかし、将棋ソフトの膨大な読みを持ってしても、終盤戦は難しいということが分かってきており、最近では終盤まで持ち時間を残す傾向になっているようです。
本局でも△5五桂の辺りで、両対局者とも1時間ぐらい持ち時間を残しています。
羽生棋聖の70手目△6八銀、斎藤七段の71手目▲3四馬(図7)は、もしかすると疑問手かもしれません。技巧の評価値が200以上振れています。
しかし、ソフトも間違えることがありますし、評価値の変化もものすごい大きいわけではないので、本当に疑問手かどうかはよく分からないです。
ずっと互角に近い形勢で、バランスの取れた白熱した終盤戦となっています。
ここまでほぼ互角の熱戦が続いていましたが、羽生棋聖の78手目△6七桂(図8)が一手ばったりの敗着となってしまいました。将棋の怖さがよく分かる一手です。
次の79手目▲7三金のタダ捨てが鋭い一手で、後手玉は一気に寄ってしまいます。
敗着の△6七桂からは完全に一本道です。技巧の読み筋と実戦の進行は完全に一致し、評価値はずっと1500ぐらいで斎藤七段の勝勢です。
87手目▲5二金(図9)のところでは、もう後手玉に受けがなくなっています。
羽生棋聖は苦し紛れに王手龍取り(図10)をかけて、先手の攻め駒を抜きますが、駒を渡しすぎてしまったので大勢は決しています。
98手目△4一角(図11)では、後手玉に即詰みがあります。
実は一手前の97手目▲6七桂の合駒が上手い一手で、この桂馬が詰みに働いて華麗な収束となります。
投了図の▲7五同桂(図12)までで、先手の斎藤慎太郎七段の勝ちとなりました。
投了図から、△7四玉や△9四玉や△7二玉なら▲8三角以下、△9二玉や△8二玉なら▲8三金以下、△9三玉でも▲9四金以下、いずれも即詰みとなります。
これで、斎藤慎太郎七段にとっては嬉しいタイトル戦初勝利となりました。
棋聖戦第3局の本局は、羽生善治棋聖が四間飛車の藤井システムを採用するという驚きの序盤からスタートしました。
中盤の途中まで前例のある将棋でしたが、未知の局面に突入してからは、形勢不明の難解な中盤戦が繰り広げられます。
ほぼ互角で終盤に突入し、終盤勝負という展開でしたが、羽生善治棋聖に痛恨のミスが出てしまい、一手ばったりで斎藤慎太郎七段の勝勢となりました。
最後の斎藤慎太郎七段の決め方は、非常に鮮やかだったと思います。
これで、棋聖戦五番勝負は斎藤慎太郎七段の1勝、羽生善治棋聖の2勝となりました。
次の第4局は、斎藤慎太郎七段にとっては再びの角番で、羽生善治棋聖にとっては棋聖戦10連覇がかかった一局となります。
第4局の日程は7月11日(火)です。次も熱戦を期待したいと思います。
<棋聖戦五番勝負第3局 ▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖>(flash盤の棋譜)
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]]>The post 棋聖戦第2局▲羽生善治棋聖 vs △斎藤慎太郎七段の感想と将棋ソフト「技巧」による棋譜解析 first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>棋聖戦第2局▲羽生善治棋聖 vs △斉藤慎太郎七段戦は、中盤から終盤にかけて見所が多い熱戦となりました。
序盤は流行の最新形となり、途中から未知の局面に突入します。
中盤は本局の一番の見所です。互いに急所の角を放ち、どちらの角がよく働くかが見物です。攻めるか守るか難しい局面が現れ、読みの力と大局観が試されることになります。そして、ごちゃごちゃした局面での細かな対応の違いで形勢が動いてしまいます。
終盤は、逆転を許さない非常に正確な指し手が目立ちました。
本記事では、将棋ソフト「技巧」を用いて、棋聖戦第2局の棋譜解析をしながら、ポイントとなった局面を振り返っています。
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戦型は角換わりの最新形です。
先手の羽生善治棋聖は、流行している▲4八金・▲2九飛型を選択し、後手の斎藤慎太郎七段も△6二金・△8一飛型の同型で追随しています。
それ以外の駒組みのポイントとしては、最近では△4二銀ではなく△2二銀と上がる形が主流になっていることです。▲5五角の筋を警戒するとともに、△3一玉→△2二玉まで囲うのではなく、△4二玉型で戦う展開も視野に入れています。
(初手から31手目▲5六銀までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」の棋譜解析によると、形勢は全くの互角です。
上図は4二の玉を△5二玉と動かした局面です。後手の斎藤慎太郎七段が、攻め合いの方針ではなく、手待ちをしながら右玉の構想であることがはっきりします。
△5二玉の一手前までは、プロの実戦例が9局あります。この△5二玉で実戦例が2局に減り、次の▲8八玉からは未知の局面になります。
後手は右玉に組み換えながら手待ちをして、先手が打開を狙う展開となります。
このように、腰掛け銀から右玉に組み換える将棋は最近では増えてきており、流行最先端の戦型となっています。
(32手目△3三銀から50手目△5一飛までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」の評価値は、-200から200の範囲内でほぼ互角です。
上図の▲4七角の自陣角が、羽生善治棋聖の決断の一手です。
一手前に▲9八香と上がってから▲4七角と打つのが独特の間合いの測り方です。
ところが、将棋ソフト「技巧」は、一手前の▲9八香のところですぐに▲4七角と打つ手を推奨しています。また、▲9八香と上がった後は、▲4七角ではなく素直に▲9九玉と潜る手を推奨しています。
すなわち、将棋ソフトの方が自然な手順を示しており、羽生善治棋聖の方が凝った手を指しているということになります。この辺りの違いは面白いです。
(51手目▲9八香から62手目△7四同銀までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフトと羽生善治棋聖の指し手は違いますが、形勢としてはほぼ互角です。将棋ソフトの推奨手を外したからといって、すぐに不利になるというわけではありません。
▲4七角の自陣角から将棋は中盤戦に突入します。
上図の辺りで中盤戦の難所を迎えます。斎藤慎太郎七段は感想戦で「ここからわからなかった」と話しています。
△4四同銀は▲5二歩が気になるので、実戦は△5四銀でしたが、将棋ソフト「技巧」の推奨手は△4七歩の叩きです。
この辺りは感想戦でも熱心に検討されましたが、なかなか結論が出ない難解な中盤戦となっています。
(63手目▲4四歩から71手目▲4五角までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」で棋譜解析すると、63手目▲4四歩、64手目△5四銀、66手目△6三銀、67手目▲7五歩は、実戦の進行と技巧の推奨手が異なっています。
しかし、形勢としてはほぼ互角で、局面のバランスを保っています。
上図の辺りが中盤戦の山場の一つだったと思います。
後手の斎藤慎太郎七段が急所の角を打った局面ですが、どうやらこの辺りから先手の羽生善治棋聖が徐々に優勢になっているようです。
△7四角は△9五歩の端攻めを狙っており、厳しい一手に見えるのですが、この角打ちが疑問手だったのでしょうか?
(72手目△7四角から86手目△9六歩までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」は、72手目△7四角~74手目△9五歩の攻めよりも、△4二歩の受けを推奨しています。
74手目△9五歩の後は、しばらく先手も後手も技巧の推奨手順の通りに進むのですが、79手目▲7五金のところでは既に評価値が約500で、先手がはっきり優勢となっています。
後手の斎藤慎太郎七段が悪くなったのは、図5で△7四角~△9五歩と攻めた方針が問題だった可能性はあります。もしそうでなければ、図4あたりが問題だったことになるでしょう。
上図は中盤戦から終盤戦に突入するあたりの局面です。
本局で明暗を分けたのはこの辺りです。非常に難しい局面で、両者にチャンスがあったと思いますが、最終的には先手の羽生善治棋聖が力を見せています。
(87手目▲2一とから95手目▲8七歩までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
将棋ソフト「技巧」の棋譜解析の結果によると、最初に大きな疑問手を指したのが後手の斎藤慎太郎七段で、図6での△8六歩がその疑問手です。
技巧の推奨手は△9五銀ですが、△8六歩の一手で評価値が82から477まで大きく先手優勢に振れています。
しかし、直後の羽生善治棋聖の▲8六同歩も疑問手で、今度は評価値が477から177まで大きく後手の方に傾いています。ここで▲8六同銀なら先手優勢だったようです。
しかし、その後の斎藤慎太郎七段の92手目△8六銀が、また疑問手だったらしく、ここでは△8七歩の叩きを入れた方が良かったようです。
両者とも最善を逃していた可能性が高いですが、図6での△8六歩、92手目△8六銀の2度の疑問手を指してしまった斎藤慎太郎七段が、最終的には劣勢になってしまいました。
劣勢で終盤を迎えてしまった斎藤慎太郎七段としては、どこかで逆転を狙った勝負手を放つ必要があります。
上図の96手目△9七歩成は勝負手の一つで、攻めに活路を見出そうとしています。技巧の評価値は悪くなりますが、攻めないと逆転のチャンスは生まれないということでしょう。
(96手目△9七歩成から106手目△5四香までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
勝負手は正確に対応されると悪くなるという性質の手なので、評価値が1000以上になってしまったのも仕方のないことです。
ここからは、羽生善治棋聖の正確な差し手が目立ちます。将棋ソフト「技巧」との一致率が高いですし、一致しない手でも評価値が下がっているわけではないので、有力な手が複数あるということだと思います。
既に先手の羽生善治棋聖がどのように決めるかという局面になっています。
上図では▲7三同桂成と踏み込んでも勝ちですが、冷静に▲5四角と香車を取って勝勢を確実なものにしています。
(107手目▲6三桂成から117手目▲6八玉までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
ソフトの評価値を解析していると、終盤戦では羽生善治棋聖と技巧の指し手の一致率がかなり高いことが分かります。
そして、指し手が一致していないのに、急激に評価値が上がることもあります。
たとえば、109手目▲7三香成の後で、評価値が1767から2488に急激に上がっています。おそらく、技巧の推奨手よりも羽生善治棋聖の指し手の方が勝っているからです。
逆に、ソフトの踏み込みが素晴らしいこともあり、図8での▲7三同桂成のような手は、リスクを恐れないソフトらしい決め方と言えます。
上図では後手玉に即詰みがあります。
▲7三桂成から詰まして、先手の羽生善治棋聖の勝ちとなりました。
投了図以下は、△8三同玉▲7二角成△9三玉▲8四金△9二玉▲8三金△9一玉▲8二金までの即詰みです。
(118手目△9七飛成から投了図までの棋譜と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析の結果)
棋聖戦第2局となる本局は、中盤戦が一番の見所でした。
非常に難解な局面が続き、読みの正確さと大局観が試される展開で、地力に勝る羽生善治棋聖がねじ伏せたという印象です。
終盤では羽生善治棋聖の正確な指し手が目立ち、斎藤慎太郎七段の勝負手にもチャンスを与えることなく、見事に勝ち切っています。
これで、棋聖戦五番勝負は羽生善治棋聖の2連勝となりました。
次の第3局は羽生善治棋聖にとっては、棋聖戦10連覇がかかった将棋になります。斎藤慎太郎七段にとっては角番で、まずは1局返したいところです。
第3局の日程は、7月1日(土)です。両対局者による熱戦を期待したいと思います。
<棋聖戦五番勝負第1局 ▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖>(flash盤の棋譜)
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]]>The post 叡王戦▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段戦の空白の時間帯で何が起こったのか? 勝敗を分けた本当の理由が明らかに! first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>この対局は中盤戦で互角の局面が長く続く熱戦だったのですが、中盤から終盤にかけて一気に藤井聡太四段が優勢になりました。
対局の詳細については、以下の記事を参考にしてください。
しかし、どうして優勢になったのかニコニコ生放送を見ていただけでは分かりませんでした。
原因はニコニコ生放送の機材トラブルです。
ちょうど、形勢に差がついた場面をまたいで映像と音声が消えてしまい、その間の将棋ソフトの評価値が放送内では全く検討されていないです。
ニコニコ生放送の視聴者にとっての「空白の時間帯」です。
勝敗を決定づけた本当の理由が気になりませんか?
じゅげむは非常に気になったので、将棋ソフト「技巧」で棋譜解析をしてみました。すると、空白の時間帯で何が起こっていたかの真相が明らかになりました。
将棋ソフト「技巧」によると、△6五歩~△6三桂までの13手の間で、少しずつ後手優勢になっていったことが分かります。
この間、梶浦宏孝四段の指し手と技巧の推奨手が一致しているのは、全6手中でたったの1手だけです。一方で、藤井聡太四段は7手のうち6手も技巧の推奨手を指しています。
そして、結果としては、ほぼ互角だった形勢がはっきりと後手優勢まで傾いてしまいました。
すなわち、ニコニコ生放送がストップしていた空白の時間帯の真相は、
「梶浦宏孝四段が疑問手を繰り返し、結果として形勢を大きく損ねていた」
ということになります。
そして、将棋ソフトの棋力がプロ棋士を超えている現在、
ソフトとの一致率が高い棋士=強い棋士
というシンプルな図式が成り立っているようです。
もちろん異論はあるでしょうが、本局においてはこの図式がそのまま当てはまっています。
本局で勝負を分けた中盤から終盤にかけての空白の時間帯で、将棋ソフト「技巧」が推奨する変化手順を紹介します。
ニコニコ生放送では検討されていなかった部分ですが、形勢が大きく動いた重要な場面であることは間違いないです。
61手目▲4九飛(上図)以下、△2二玉▲5三角成△4二金打▲7五馬△6三金▲4四歩(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-198です。
この手順では飛車を4筋から動かさずに、後の▲4四歩の一手をより厳しくしています。実はこの▲4四歩が多くの変化手順で現れてポイントとなる一手となっています。
また▲6八飛と比べて、玉飛接近の悪形にもなっていません。
評価値はギリギリ互角の範囲内で、この変化なら先手も十分に戦えていたようです。
62手目△6四金(上図)以下、▲9七角△2五銀▲同歩△6六桂▲7四歩(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-295です。
実戦の進行とはかなり異なるので比較は難しいですが、△7八桂成から守りの要の金を取れるのが大きいです。ただし、打った△6四金が負担になる可能性もあるので、読みが必要な一手だと思います。
63手目▲4四歩(上図)以下、△2二玉▲7四歩△2五銀▲6二歩成△同金▲7三歩成△同金▲5三角成(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での評価値は-323です。
この変化手順では▲4四歩の手筋の効果がよく分かります。6~7筋の手順の組み立ては実戦とほぼ同じですが、▲4四歩で馬筋を止めているので最後の▲5三角成が実現します。
それでも後手が優勢ですが、実戦の進行に比べるとずいぶん先手が得をしているようです。
65手目▲4四歩(上図)以下、△2二玉▲4三歩成△同金▲7三歩成△同金▲6五銀右△6四歩▲5六銀△5四桂(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-456です。
▲4四歩のタイミングが一手遅れると、▲5三角成とすることができなくなります。△5四桂と打たれて▲6六角の活用も消されると、先手は角が非常に使いにくくなります。
後手優勢なのは変わりませんが、早めに▲4四歩と突く変化よりも形勢は悪化しています。
69手目▲4四歩(上図)以下、△同馬▲5五銀打△7四歩▲9七角△2六馬▲4四歩△7五桂▲4三歩成△同金▲4四歩△4二金▲6五飛△6三歩(下図)が将棋ソフト「技巧」の推奨手順です。下図での技巧の評価値は-712です。
評価値ははっきり後手優勢を示しており、このように▲4四歩を突くのが遅れれば遅れるほど形勢が悪くなるようです。
空白の時間帯の真相は「梶浦宏孝四段が疑問手を繰り返し、結果として形勢を大きく損ねていた」ということになります。
具体的には▲4四歩がポイントとなる一手で、この手が遅れれば遅れるほど先手の形勢が悪化するようです。
一方で、藤井聡太四段の将棋ソフト「技巧」との一致率がかなり高いことも分かりました。「ソフトとの一致率が高い棋士=強い棋士」という図式が本局では成り立っています。
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]]>The post 藤井聡太四段の24連勝はなるか? 叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段戦のまとめ first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>第3期叡王戦開幕局▲梶浦宏孝四段 vs △藤井聡太四段戦です。(上の画像は対局開始直前の両対局者の様子)
今年から叡王戦がタイトル戦に格上げされ、記念すべき年の開幕局です。
その開幕局には、最近将棋界の内外で注目されている藤井聡太四段が登場しています。
加藤一二三さん、谷川浩司さん、羽生善治さん、渡辺明さんに続く5人目の中学生棋士として注目を集めているのが藤井聡太四段です。
ただし、藤井聡太四段が注目されているのは中学生棋士というだけではなく、既にプロ将棋界で結果を残しているからです。本対局までに、公式戦無敗でプロデビュー23連勝を記録しており、歴代最多連勝記録の28連勝を狙える位置まで来ています。
まさしく天才と呼ぶべき藤井聡太四段が、どのような将棋を指すのか非常に気になります。
ニコニコ生放送の解説は糸谷哲郎八段、聞き手は山口恵梨子女流二段です。
ニコニコ生放送:2017年6月10日 叡王戦開幕局 梶浦宏孝四段 vs 藤井聡太四段
棋譜:2017年6月10日 叡王戦開幕局 梶浦宏孝四段 vs 藤井聡太四段
・まとめ
初手からの指し手:▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲7七角△3四歩▲6八銀△3二金▲7八金△7七角成(下図)
序盤はパタパタと手が進みます。
初手から角換わりの定跡通りの進行で、下図で後手の藤井聡太四段が△7七角成と角交換した局面で戦型が角換わりに確定します。
本局は、藤井聡太四段の対局ということで非常に注目を集めています。
既に対局が始まっているのにも関わらず、報道陣が対局室に入ってきます。どうやら、対局開始の時に入りきれなかった報道陣が、第2陣として押し寄せているようです。
(藤井聡太四段にカメラを向ける報道陣)
(藤井聡太四段の様子)
(梶浦宏孝四段の様子)
△7七角成からの指し手:▲7七同銀△2二銀▲3八銀△6二銀▲4六歩△4二玉▲4七銀△7四歩▲5八金△6四歩(下図)
何気ない序盤戦ですが細かな工夫や駆け引きが行われています。
たとえば、後手の藤井聡太四段が△6四歩より先に△7四歩を突いているのが、序盤の駒組みにおける一つのポイントです。△7四歩からの早繰り銀を見せることで、先手の梶浦宏孝四段の駒組みを牽制しています。
上図の△6四歩で、結局は角換わり腰掛け銀に落ち着きます。
しかし、本局の解説者の糸谷哲郎八段によると、先手の梶浦宏孝四段の▲5八金を見て、△6四歩~△6三銀からの腰掛け銀を目指したのではないかということです。
最近は将棋ソフトの影響で▲4八金型の角換わり腰掛け銀が流行っていますが、▲4八金型の腰掛け銀に対しては、△7三銀~△6四銀の早繰り銀が有力のようです。
・先手が▲5八金型 → 後手は△6四歩~△6三銀からの腰掛け銀
・先手が▲4八金型 → 後手は△7三銀~△6四銀からの早繰り銀
というような序盤の駆け引きがあったようです。
先手が▲3六歩~▲3七桂~▲4八金から▲4八金型の陣形を急げば、後手は△7三銀~△6四銀~△7五歩(下図)の早繰り銀で対抗するのが有力です。
上図から▲7五同歩△同銀▲2五歩△8六歩▲同歩△7六歩(下図)が予想手順の一例で、後手が早繰り銀で先攻することができます。
△6四歩からの指し手:▲3六歩△6三銀▲6八玉△7三桂▲5六銀△6二金▲3七桂△8一飛▲6六歩△3三銀▲7九玉(下図)
序盤の駆け引きの末に、先手の▲5八金型と後手の△6二金型の対抗形になりました。
解説の糸谷哲郎八段によると、▲4八金型と△6二金型の同型だと、現在は先手が指せると考えられているようです。
一方で、▲5八金型と△6二金型の対抗形だと、普通に仕掛け合うような形なら、後手もなかなか指せるというのがプロ棋士の見解のようです。
▲7九玉からの指し手:△1四歩▲9六歩△9四歩▲1六歩△5四銀▲4五歩(下図)
両方の端歩を突き合ってから、後手の藤井聡太四段は△5四銀の腰掛け銀に構え、先手の梶浦宏孝四段は▲4五歩で4筋の位を取ります。
下図は序盤の分岐点となる重要な局面で、藤井聡太四段の手が止まります。
今まで両対局者は快調なペースで飛ばしていましたが、この辺りから一気にスローダウンします。これから勝負所を迎えつつあるという雰囲気が画面越しにも伝わってきます。
上図で、先手は次に▲4六角の狙いがあります。たとえば、上図から△3一玉▲4六角△6三銀▲5五銀(下図)となると、次の▲6四銀が受からなくなります。
解説の糸谷哲郎八段によると、上図では△6三銀と引く実戦例が多いようです。
先に△6三銀と引いておくと、▲4六角に対しては△5四歩(下図)で▲5五銀の筋を受けることができます。このような理由で、△3一玉よりも△6三銀の方が無難な一手と言えます。
▲4五歩からの指し手:△3一玉▲4六角△6五歩(下図)
藤井聡太四段は実戦例も多く無難な△6三銀ではなく、△3一玉と指しました。しかし、△3一玉には前述のような攻め筋があります。
▲4六角と打たれて大丈夫なのでしょうか?
そう思っていたら△6五歩の仕掛けです。攻め合いを目指す積極的な一手で、一気に中盤戦に突入します。
△6五歩と仕掛けた直後の将棋ソフト「ponanza」の評価値は-45で、ほぼ互角という形勢判断です。ここからは変化が広く難解な中盤戦で、両対局者の読みの力が問われます。
序盤で差がつかなかったことで、梶浦宏孝四段にとっても、藤井聡太四段にとっても、力を存分に発揮できる将棋になったと思います。
△6五歩からの指し手:▲6五同歩△7五歩▲2五桂(下図)
△7五歩に対して▲6六銀の受けが解説の糸谷哲郎八段の予想手ですが、先手の梶浦宏孝四段が指したのは▲2五桂です。
▲2五桂は△2四銀と受けられて桂馬が質駒になるので、後手の攻めを誘発する可能性があります。将来的に7七の銀がどこかに動いた時に、△6六桂などの筋があります。
互いに前傾姿勢で、天井カメラからの映像に頭がかかっています。
梶浦宏孝四段はかなり集中して読みを入れているようで、体を前後にゆすってリズムを取り、読みに没頭しています。
一方で、藤井聡太四段も、梶浦四段よりも動きは少ないですが、ときおり小刻みに体を揺らしたり、盤面をじっと見つめたりしながら読みに集中しています。
体の動きの違いによって、読みのモードのようなものを切り替えているのでしょうか?
▲2五桂からの指し手:△2四銀▲6七金右(下図)
梶浦宏孝四段は▲6七金右。金矢倉の形を作り、玉を堅くする実戦的な一手です。
この辺りでは、両対局者が小刻みに時間を使っています。読みの力が問われる難解な中盤戦となっています。
▲6七金右に対して、藤井聡太四段が長考しています。持ち時間1時間の対局で10分以上考えているので、なかなかの長考と言えます。
糸谷哲郎八段によると、上図では△6五銀、△8六歩、△4一飛などの候補手があるようです。ちなみに、ponanzaの推奨手は△6五銀と△8六歩の間で揺れ動いています。
▲6七金右からの指し手:△6五銀▲6三歩(下図)
藤井聡太四段が14分ぐらいの長考で△6五銀を決断します。▲6五同銀なら△同桂▲6六銀△4七角が糸谷哲郎八段の予想手順です。
しかし、実戦では▲6三歩の手筋が飛び出します。以下△7二金で、後手は金銀4枚がバラバラになっています。
▲6三歩からの指し手:△7二金▲5五角△7六歩▲同銀(下図)
▲5五角の局面で、藤井聡太四段の残り時間が30分を切ります。持ち時間1時間の対局なので、かなり時間を使っている印象です。
藤井聡太四段がこの辺りを勝負所と見ているのは間違いなさそうです。
上図の▲7六同銀の局面で、糸谷哲郎八段とponanzaの推奨手は一致しており、次の△6六歩を読んでいます。
△6六歩以下の変化手順の一例は、▲同金△同銀▲同角△2五銀▲同歩△4六角▲1八飛△7四桂(下図)です。最後の△7四桂に角を逃げると△5七角成が厳しいです。
ponanzaは上記の手順中の△2五銀を▲同歩と取らずに、▲1一角成と攻める激しい変化も読んでいるようです。
▲7六同銀からの指し手:△6六歩▲同金△同銀▲同角△4六角(下図)
藤井聡太四段も△6六歩の一手を選択します。この辺りは、ponanzaの推奨手との一致率がかなり高いような印象です。
△6六歩の局面での将棋ソフト「ponanza」の評価値は-87で、形勢判断はほぼ互角です。
バランスが取れており、非常に良い将棋となっています。難解な中盤戦でどちらもなかなか崩れないのは、両対局者の強さの証明と言えます。
△4六角に対して▲2九飛と逃げると、以下△2五銀▲1一角成△5七角成(下図)があります。このように△4六角は△5七角成の筋を見せて、▲1一角成の攻めを牽制しています。
ponanzaは△4六角に対して▲5八飛を示しています。人間的な感覚では、非常に指しづらい手のようです。
この辺りは感想戦でも検討され、▲2七飛と上に逃げる変化もあるようです。
梶浦宏孝四段は△4六角の局面で長考に沈んでいます。
形勢判断はほぼ互角ですが、糸谷哲郎八段によると「玉が薄い後手の方が苦労する将棋」とのことです。ponanzaの評価値も64で、ほぼ互角ながらわずかに先手推しです。
△4六角からの指し手:▲4八飛△6五歩▲7五角(下図)
梶浦宏孝四段は▲4八飛。角に当てて人間的な感覚では自然な一手ですが、ponanzaの推奨手▲5八飛とは異なります。
しかし、▲4八飛の局面のponanzaの評価値は44で、疑問手というわけではないようです。依然として、ほぼ互角の難解な中盤戦が続いています。
▲4八飛に対して、藤井聡太四段が△6五歩と指した局面が、本局の勝敗を左右するポイントの一つとなったようです。
(▲4八飛の局面のponanzaの評価値は44)
△6五歩の局面で、ponanzaの推奨手は▲2二銀(下図)です。以下、△同金▲同角成△同玉▲4六飛が予想手順で、後手陣の守りの要の金をはがせるのが大きいです。
対局後の感想戦でも、この▲2二銀が一番熱心に検討されました。
▲2二銀に対して△4二玉と逃げる変化も検討され、以下▲4六飛△6六歩▲2一銀不成△同飛▲4四歩△同歩▲4三歩△同金▲5五桂(下図)が変化の一例となります。後手が受け切る自信はないとのことです。
ちなみに、△6五歩に対して▲1一角成は悪手で、△5七角成(下図)で王手飛車取りが決まってしまいます。
実戦はponanza推奨手の▲2二銀ではなく▲7五角です。
梶浦宏孝四段が▲2二銀を逃したのは大きいですが、代わりの▲7五角が悪手というわけではなく、直後のponanzaの評価値は-20(下図)でまだ互角です。
とはいえ、▲2二銀で後手玉を薄くできれば、実戦的に勝ちやすい局面になったはずです。
この辺りの梶浦宏孝四段は、形勢のバランスを保てる手順で互角をキープしています。ただし、ponanzaの読み筋とは食い違うことが多いという印象です。ponanzaとは棋風が違うのかもしれないですし、人間的に見えづらい手を見落としている可能性もあります。
▲7五角からの指し手:△3七角成▲6八飛△2六馬(下図)
△3七角成の局面はまだ互角。以下、▲6八飛△2六馬と進みます。この△2六馬は、△2五銀の桂取りを狙いながら、▲5三角成も防いでいる一石二鳥の手です。
△2六馬からの指し手:▲7四歩△2五銀▲6二歩成△同金▲7三歩成△同金▲6五銀右△6三桂(下図)
▲6二歩成は手筋の成り捨てで、6筋の飛車先を軽くすることにより、後で▲6二飛成と成り込む変化が生まれます。
しかし、実戦の進行では△6三桂と打たれたので、本当に得になったかどうかは難しいようです。対局後の感想戦でも指摘されていました。
どうやら、この辺りの手順で梶浦宏孝四段に悪手があったようです。
実はニコニコ生放送で、機材のトラブルで映像と音声がしばらく止まっていました。
機材トラブルが直ってから、ponanzaの評価値を見てみたら-751で、いきなり後手の藤井聡太四段が優勢になっていて驚きました。
評価値が-751となっているのは、上図の△6三桂の局面です。
糸谷哲郎八段によると、△2六馬から△2五銀で自玉を安全にして、△6三桂で▲7五角のラインも阻止できたのが大きいようです。
【追記】将棋ソフト「技巧」で機材トラブルの間に何が起こったのかを調査しました。
△6三桂からの指し手:▲6六角△5五金▲6四歩△5九馬(下図)
▲6六角には△5五金が厳しく後手が好調です。
最後の△5九馬は決めにいった手で、ponanzaの評価値は-905を示しています。
藤井聡太四段は終盤に自信を持っているのでしょう。この辺りの指し手は非常に早く、最短の寄せを目指しているような手順です。
△5九馬からの指し手:▲7七角△6八馬▲同金△2九飛▲6九桂△6七歩(下図)
△2九飛と飛車を敵陣に打ち込んだ局面でのponanzaの評価値は-1430で、どんどん差が開いています。
しかし、藤井聡太四段にも疑問手(下図の△6七歩の叩き)が出ます。代わりに△6五金の方が明快だったようです。感想戦では▲6七同銀を軽視していたと話しています。
△6七歩からの指し手:▲6七同銀△8六歩▲同歩△6五金▲4七角(下図)
△8六歩の局面の評価値は-877で、差が一気に詰まります。しかし、まだはっきりと後手が優勢なので、正確に指せれば勝ち切れます。
▲8六同歩の局面で、藤井聡太四段が1分将棋に入ります。疑問手があった直後に持ち時間がなくなって秒読みなので、焦ってもおかしくない状況です。
一方で、梶浦宏孝四段は▲4七角の飛金両取りに逆転の望みを託します。
(△8六歩の局面でのponanzaの評価値は-877)
ところで、聞き手の山口恵梨子女流二段が最近テレビ番組に出演したようで、番組内で「木造平屋3階建て」という名言をおっしゃったようです。
▲4七角からの指し手:△6六歩(下図)
藤井聡太四段の△6六歩はかなり気合いの入った手つきで盤面が乱れます。▲2九角で飛車を取られてしまいますが、大丈夫なのでしょうか?
ponanzaの評価値は-1387で、後手勝勢を示しています。
しかし、糸谷哲郎八段は△6六歩を危険と見ています。糸谷八段の推奨手は△6六歩の代わりに△2八飛成です。
糸谷八段によると、評価値では差が開いていますが、一手間違えたら逆転してもおかしくない将棋になっているようです。
△6六歩からの指し手:▲2九角△6七歩成▲6五角△6六歩▲7六銀△5五桂▲4四歩(下図)
山口恵梨子女流二段によると、藤井聡太四段の母の言葉を引用して「最近の藤井四段は勝敗よりも内容のことを重視して、連勝のことは気にしていない」とのことです。
△6七歩成の局面でのponanzaの評価値は-1757です。
梶浦宏孝四段は非常に苦しいですが、逆転を目指して▲4四歩と攻めます。
(△6七歩成の局面のponanzaの評価値は-1757で後手勝勢)
▲4四歩からの指し手:△6八と▲8八玉△6四金(下図)
藤井聡太四段がどうやって決めるかという局面です。
△6八とに対して▲同玉なら△6七銀、▲同角でも受け切れないので、▲8八玉と逃げます。
△6四金と急所の角を取りに行くのが上手い決め方です。角を取れば先手玉が詰む形なのを見越しています。
△6四金からの指し手:▲4三歩成△6五金▲7二飛△4二歩▲4四歩△2二玉▲3二と△1三玉(下図)
▲4三歩成から▲7二飛で後手玉も危なくなりますが、藤井聡太四段の受けが冷静です。
後手玉は△2二玉~△1三玉と端に逃げる形が安全のようです。下図の△1三玉はいわゆる「斜めZ」という形で、後ろ斜めに利く駒(角か銀)がない限りは絶対に詰まない形です。
△1三玉からの指し手:▲6八角△6七歩成▲6五銀△7八銀(投了図)
下図の△7八銀までで先手の梶浦宏孝四段が投了です。
投了図の△7八銀は、次の△8七金までの詰めろです。▲7八同飛と受けても、以下△同と▲同玉△6七銀から一手一手の寄せとなります。
本局は角換わり腰掛け銀の激しい将棋になりました。
一番の見所は中盤戦で、互いの読みの力が問われる展開です。先手の梶浦宏孝四段も、後手の藤井聡太四段も、存分に力を発揮できたと思います。
中盤の最後の辺りまで形勢のバランスが保たれていて、ponanzaの評価値が±100以内で互角の局面が長く続きます。両対局者の読みが入った正確な指し手が印象的でした。
しかし、中盤から終盤にかけての局面で形勢の針が大きく傾きます。
本局で勝敗を分けた大きなポイントは、
① 59手目▲2二銀を梶浦宏孝四段が見逃す。
② 59手目▲7五角~70手目△6三桂までの局面での梶浦宏孝四段の悪手。
の2つだったと思います。逆に言うと、藤井聡太四段には形勢を損なうような目立った悪手が全くなく、その事実には戦慄を覚えるほどです。
ちなみに、後者はニコニコ生放送の機材トラブルのためにponanzaの評価値の詳細が不明ですが、後でソフトで研究してみようと思います。
【追記】将棋ソフト「技巧」で機材トラブルの間に何が起こったのかを研究しました。
いったん優勢になってから、終盤での藤井聡太四段の決め方は非常に速かったです。
途中で疑問手もありましたが、最短の寄せを目指す切れ味の鋭い指し回しが印象的でした。
藤井聡太四段は本局に勝利してプロデビューから無敗の24連勝で、叡王戦の次局の都成竜馬四段戦でも勝利して現在25連勝を記録しています。
凄まじい記録ですが、今度は歴代最多連勝記録の28連勝を抜くかどうかに注目です。
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]]>The post 名人戦第6局▲稲葉陽八段 vs △佐藤天彦名人の感想と将棋ソフト「技巧」による棋譜解析 first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>名人戦第6局▲稲葉陽八段 vs △佐藤天彦名人戦の感想と、将棋ソフト「技巧」による棋譜解析です。序盤、中盤、終盤のポイントの局面を振り返っています。
第5局まで佐藤天彦名人から見て3勝2敗で、初の名人戦防衛に王手がかかっています。稲葉陽八段にとっては、初タイトル獲得のために絶対に落とせない将棋です。
本局は序中盤が非常に濃密な将棋となりました。
構想力が問われる展開で、互いの力をぶつけ合う名人戦らしい一局だったと思います。
<ニコニコ生放送(7日間限定でタイムシフト視聴あり)>
名人戦 第6局 初日:https://live.nicovideo.jp/watch/lv297951081
名人戦 第6局 2日目:https://live.nicovideo.jp/watch/lv297951473
戦型は相掛かりの最新形です。相掛かりは先手と後手の両方の同意がないと成立しない戦法なので、稲葉陽八段も佐藤天彦名人も自信があったのだと思います。
図1のように飛車先の歩交換を保留するのが最近のトレンドです。将棋ソフトの影響で流行している指し方で、歩交換の一手を後回しにして別の所に使おうという狙いです。「後回しできる手は後回しにする」というのが現代将棋の一つの思想になっています。
まだ最序盤なので、評価値としては互角の範囲で推移しています。
相掛かりは定跡があまり整備されていないので、力将棋になりやすいという特徴があります。ましてや前例のない最新形となると、序盤の駒組みに細心の注意を払う必要があります。
名人戦は2日制のタイトル戦ですが、1日目は30手目△7四歩までしか進みませんでした。まだ戦いが始まっていない序盤の駒組みの段階で、持ち時間の半分近くを消費していることになります。遅々ととしてなかなか局面が進まず、非常にゆっくりとした進行です。
稲葉陽八段の31手目▲3六歩(図2)が封じ手です。先後でよく似た形をしていますが、先手は飛車先の歩交換が主張で、後手は歩交換の一手を別のところに回しているので手得になっています。
将棋ソフト「技巧」の評価値は、ほぼ互角の範囲内で推移しています。
形勢にはっきりと差がつかないように、互いに時間をかけて注意深く序盤の駒組みを進めていることが分かります。しかし、おそらくこの辺りの序盤構想で、評価値だけでは見えない差がついてしまったと思います。
序盤から中盤にかけての構想が非常に難しい将棋で、将棋ソフト「技巧」の推奨手と両対局者の指し手が一致しない手も多くなっています。しかし、佐藤天彦名人の方が、ソフトとの指し手の一致率がやや高いです。
52手目△3三桂(図3)は駒組みが一段落した局面です。
図3を眺めてみると、先手の稲葉陽八段は中住まい、後手の佐藤天彦名人は菊水矢倉の布陣となっています。後手の菊水矢倉の囲いの方が堅いので、佐藤天彦名人がややポイントを上げているように見えます。
先手の中住まいは、全体的に右玉の駒組みに似ています。▲5八玉型の代わりに▲3八玉型でも違和感のない陣形です。バランスは良いのですが、角交換をしているわけでもないので、玉の薄さや戦場からの近さの方が気になります。
図3付近の技巧の評価値は-200ぐらいとなっており、後手の佐藤天彦名人がやや作戦勝ちになっていると思われます。序盤の構想では、名人が挑戦者を上回ったと言ってよいでしょう。
61手目▲7五歩(図4)から本格的な開戦です。
以下△6二桂▲6五桂打と進み、その後の▲7六桂などもあり、桂馬の使い方が非常に巧みな中盤戦です。ちなみに、△6二桂以降は、将棋ソフト「技巧」の推奨手順と実戦手順が全く同じです。将棋ソフトもこれらの桂馬遣いを読んでいました。
評価値は-100~200ぐらいを推移しており、後手の佐藤天彦名人がやや指しやすいぐらいの形勢です。しかし、先手玉の方が薄くて戦場に近いために、稲葉陽八段の方が神経を使う展開だと思います。
序盤の進行が非常にゆっくりで、互いの持ち時間が少ないことも考慮すると、評価値以上の差がついていると思われます。盤面の純粋な形勢以上に、先手が勝ちづらい展開です。
70手目△6四同歩(図5)の局面が、本局で優劣を大きく分けたポイントの一つ目です。
図5での稲葉陽八段の▲7四歩が、将棋ソフト「技巧」によると疑問手で、評価値が-41(互角)から-462(後手はっきり優勢)まで一気に下がっています。
図5からの技巧の推奨手順は、▲5三銀△6五歩▲4二銀成△同金引▲6一角△7三飛▲6五銀(評価値-49)で、この手順ならほぼ互角でした。
実は、本局で稲葉陽八段の疑問手は2つだけです。たった2つの疑問手で、ほぼ互角からはっきり劣勢に、そして劣勢から敗勢に陥ってしまいました。
80手目△6二桂(図6)の局面で、稲葉陽八段に2つ目の疑問手が出てしまいます。
図6での▲6六歩がその疑問手です。代わりに、将棋ソフト「技巧」の推奨手である▲5五歩なら、苦しいながらも粘れたかもしれません。
図6からの技巧の推奨手順は、▲5五歩△6三桂▲6四銀△7五歩▲同銀引△同桂▲同銀△6五桂(評価値-789)です。
これ以降は勝負所がなかったので、▲6六歩が敗着になってしまいました。
それにしても、たった1手で評価値が500近くも下がる(-590から-1039)というのは、稲葉陽八段にとっては非常に厳しい結果です。
先手玉の近くのやり取りなので、評価値がシビアに動いたのだと思います。つまり、序盤構想の失敗が中盤以降に影響してしまったということです。序盤の評価値だけでは見えづらい差がついており、疑問手によって一気に表面化したように見えます。
先手の稲葉陽八段はすでに敗勢ですが、紛れを求めて勝負手を放ちます。
それが図7からの端攻めで、後手玉に嫌味をつけようとします。しかし、図8まで進んで、結局▲1三角成の攻めは実現せず、勝負手は不発に終わってしまいます。
将棋ソフト「技巧」の評価値は-1000以下で安定しており、佐藤天彦名人が丁寧に対応して、逆転のチャンスを与えていないことが分かります。
最後は佐藤天彦名人が危なげなく勝ち切りました。図9が投了図です。
投了図では、後手玉が手付かずで全く嫌味がありません。一方で、先手玉は風前の灯火で、受け切ることは困難です。攻防ともに見込みがなく、稲葉陽八段の投了は仕方ないです。
名人戦第6局の本局は、序盤と中盤が見所だったと思います。
序盤の構想力を問われる相掛かりらしい展開で、佐藤天彦名人が力を見せつけました。
稲葉陽八段にとっては、作戦負けの上に持ち時間の少なさも重なり、実際の形勢以上に勝ちづらい将棋になってしまったのが残念です。
中盤戦は桂馬が乱舞して、非常に面白い将棋だったと思います。
名人戦七番勝負は佐藤天彦名人の4勝2敗で初防衛となりました。両対局者の他のタイトル戦での活躍も期待しています。
<第75期名人戦七番勝負第6局 ▲稲葉陽八段 vs △佐藤天彦名人>(flash盤の棋譜)
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]]>The post 棋聖戦第1局▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖の感想と将棋ソフト「技巧」による棋譜解析 first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>棋聖戦第1局▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖戦は、素晴らしい内容だったと思います。
斉藤慎太郎七段はタイトル戦初登場で、羽生善治棋聖にとっては棋聖戦10連覇が懸かったシリーズです。
序盤は互いの駆け引きの結果として、昭和の時代のような古風な将棋になりました。
中盤は攻め合いで非常に激しい展開となり、変化が広い難解な局面が続きます。
本局の一番の見所は終盤戦です。羽生善治棋聖らしい勝負術が盤上に現れ、両者にチャンスのある際どい終盤戦となります。最後までどちらが勝つか全く分からない熱戦で、名局賞の候補にもなりそうな素晴らしい将棋だったと思います。
本記事では、将棋ソフト「技巧」で棋聖戦第1局の棋譜解析をしながら、ポイントの局面を振り返っています。
<棋聖戦公式サイト>
棋譜中継:https://live.shogi.or.jp/kisei/kifu/88/kisei201706010101.html
中継ブログ:https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/
戦型は相矢倉になりました。先手の斎藤慎太郎七段が相矢倉に誘導して、後手の羽生善治棋聖が受けて立った形です。
もともと斎藤慎太郎七段は矢倉を好んで指しています。タイトル戦初登場の初戦で矢倉を選んだのは、得意戦法ということもあるでしょうし、格式が高く伝統ある矢倉戦を選んだという意味合いもあるかもしれません。斎藤慎太郎七段には正統派という印象を強く受けます。
一方で、後手の羽生善治棋聖は急戦を意識した駒組みをしています。△6四歩から△7三桂(図1)のタイミングが早く、いつでも△6五歩からの仕掛けを狙っています。
将棋ソフト「技巧」の評価値はほぼ互角です。先手が100点ぐらいを中心に推移していますが、評価値で100点というのは互角の範囲内です。
後手の羽生善治棋聖が△4四歩と角道を止めたことで急戦はなくなりました。持久戦調のじっくりとした相矢倉に進みます。
図2は△2二玉で後手の囲いが完成した局面で、完全に先後同型になっています。▲4七銀▲3七桂型(△6三銀△7三桂型)の同型は、昭和の時代によく指された古風な相矢倉です。
図2から▲4五歩で先手の斎藤慎太郎七段が仕掛けて、中盤戦の戦いが始まります。
図2の形勢判断は、将棋ソフト「技巧」によるとほぼ互角です。先後同型なので、手番を握っている先手の方にやや振れているぐらいです。
▲4五歩の仕掛け以降は、さまざまな変化手順があります。変化が広い難解な中盤戦で、斎藤慎太郎七段の51手目▲2四歩は32分の長考、次の▲3五歩にも21分使っています。
この時点で、斎藤七段は持ち時間の半分以上の2時間21分を使っていて(棋聖戦は持ち時間4時間制)、残り時間が羽生棋聖よりも40分も少なくなっています。この持ち時間の差が、終盤戦で響いてくることになります。
羽生棋聖が期待したのが図3の△6七歩で、▲5七角でも▲6七同金でも大きな利かしになります。
将棋ソフト「技巧」によると、△6七歩の辺りから評価値に動きがあります。
どうやら技巧は△6七歩に対する▲5七角をあまり評価していないらしく、評価値61→-179で200点以上も後手が良くなっています。技巧の推奨手は▲6七同金です。
羽生棋聖が期待した△6七歩に対して、斎藤七段が対応を誤り、形勢がやや後手に傾いた可能性があります。すなわち、「対戦相手が対応を誤りやすい難しい局面を渡す一手」に羽生棋聖が期待していたわけです。
その目論見通りに斎藤七段が対応を間違えてしまい、後手ペースになったようです。この辺りに羽生棋聖の勝負術の一端がうかがえます。
△6七歩の好手で一時は後手がペースを握っていましたが、その後で羽生善治棋聖が疑問手を指してしまいます。
図4の△8五歩が一度目の疑問手で、将棋ソフト「技巧」の評価値によると、後手優勢(-357)からほぼ互角(21)まで差が詰まってしまっています。
さらに、図5の△6五桂が二度目の疑問手だったようです。技巧の推奨手は△4七金で、それならほぼ互角とのことです。
羽生棋聖の二度の疑問手によって、斎藤七段が優勢で終盤戦に突入します。
終盤戦は非常に難解で、将棋ソフトも読み切れずに手の平を返しているのが驚きです。
たとえば、83手目の▲4四角から90手目の△同玉まで、実戦の進行と技巧の推奨手順はほぼ同じです(3三の地点で歩が先に成るか、桂馬が先に成るかの違いはある)。この間、技巧の推奨手順とほぼ同じなのに、評価値は-439から413に変わっています。後手優勢から先手優勢へと手の平を返しており、ソフトが完全に読み切れていない証拠と言えます。
ニコニコ生放送で表示される解析ソフトはもっと精度が高いのですが、この辺りは互角に近い評価値が続き、どちらが勝ってもおかしくない熱戦だったことが分かります。
図6の▲7七同桂を技巧は疑問手と判定していますが、本当に疑問手だったかどうかは難しいところです。それだけ難しい終盤戦ということです。
ただし、▲7七同桂以下、△7五角▲同歩△8六歩▲同歩△6七歩(図7)が角切りから一転して上手い手渡しです。「終盤の忙しい場面で難しい局面を相手に渡す」という羽生棋聖が土壇場でたびたび見せる勝負術です。ニコ生解説の田村康介七段によると、図7では正確に指せば先手の勝ちがありそうだが、時間がないと勝ち切るのはかなり難しいようです。
斎藤七段は持ち時間を使い切り、△6七歩の局面から1分将棋です。一方で、羽生棋聖は30分以上残しています。
図7の△6七歩以下、斎藤七段は▲4四角から猛攻しますが、形勢に決定的な差がつかない難解な終盤戦がまだ続いています。
終盤戦は最後までどちらが勝つか分からない展開でしたが、最終盤で斎藤慎太郎七段にチャンスがあったようです。
図8がポイントの局面で、ここで▲4四歩なら先手が優勢だったようです。しかし、▲4四歩の代わりに指した▲5三金が悪手で、一気に逆転してしまいます。
互いに持ち駒が豊富で王手がたくさんかかりますし、攻防手や詰めろ逃れの詰めろが現れやすい局面なので、読み切るのは非常に難しいです。
斎藤七段は持ち時間も残っていなかったので、ミスをするのは仕方がなかったと思います。
図9が投了図です。盤面の駒が少なく、熱戦だったことがよく分かる投了図だと思います。
角1枚、金3枚、銀3枚、桂馬3枚、歩3枚の後手の持ち駒を、四暗刻単騎の角待ちと言っていた田村康介七段のセンスには脱帽です。
棋聖戦第1局の本局は、特に終盤戦が素晴らしい対局だったと思います。
羽生善治棋聖の終盤での手渡しから、斎藤慎太郎七段が決め切れるかどうかというギリギリの勝負になり、最後まで緊迫した将棋になりました。
次の五番勝負第2局の日程は6月17日(土)です。両対局者の将棋はよく噛み合っている印象で、また熱戦になることが期待できそうです。
<棋聖戦五番勝負第1局 ▲斎藤慎太郎七段 vs △羽生善治棋聖>(flash盤の棋譜)
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]]>The post 名人戦第3局▲佐藤天彦名人 vs △稲葉陽八段戦の感想と将棋ソフト「技巧」による棋譜解析 first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>名人戦第3局▲佐藤天彦名人 vs △稲葉陽八段戦は、とても面白い熱戦になりました。
序盤は早い段階から前例のない未知の局面となり、お互いに手探りでの序盤戦となります。
中盤では、先手の佐藤天彦名人が筋違い角の面白い構想を見せます。互角に近い中盤戦が長く続き、じりじりとした展開になります。
局面が動いたのは中盤から終盤にかけてです。佐藤天彦名人の疑問手から、一時は稲葉陽八段がはっきりと優勢の局面になります。しかし、その少し後で稲葉陽八段にも失着があり、佐藤天彦名人がやや優勢で終盤戦を迎えます。その後、終盤戦でも形勢が入れ替わります。
本記事では、将棋ソフト「技巧」で名人戦第3局の棋譜解析をしながら、ポイントの局面を振り返っています。
<ニコニコ生放送>
初日:第75期名人戦 七番勝負 第3局 初日 佐藤天彦名人 vs 稲葉陽八段
2日目:第75期名人戦 七番勝負 第3局 2日目 佐藤天彦名人 vs 稲葉陽八段
序盤の戦型は相掛かりになりました。初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩の出だしで、後手の稲葉陽八段が横歩取りを目指したのに対して、先手の佐藤天彦名人が拒否する展開です。
後手だけが飛車先の歩を交換するタイプの相掛かりの最新形です。先手だけ飛車先の歩を交換していなくて損なように見えますが、最近の将棋ソフトの影響で注目されている指し方です。
前例が非常に少ない将棋で、序盤から両者が時間を使って慎重に駒組みを進めます。22手目△7四歩(図1)からは完全に前例のない将棋です。
将棋ソフト「技巧」の棋譜解析によると、図1の少し前の△8五飛が疑問手となっています。代わりに△7六飛と横歩を取る手もあったようです。しかし、この辺りは序盤の方針を決める段階で、悪い手ということではないと思います。
図1から▲5六歩と突いて、5筋の位取りを見せます。先手に5筋の位を取られると、後手の角が使いにくくなるので、後手から△8八角成と角交換する流れになりました。
それから少し手数が進み、33手目▲5六角(図2)となります。5筋の位を取ってからの筋違い角が佐藤天彦名人の構想でした。この角は2~3筋の右辺の攻めを狙っているだけではなく、△7三桂と跳ねた時の桂頭や、遠く離れた端の9筋もにらんでいます。
図2での将棋ソフト「技巧」の評価値は-149となっており、後手がやや指しやすいという形勢判断です。先手の玉が薄いことや、角を手放している影響があると思います。
図2から△7三桂▲7七桂△8一飛▲3五歩の進行で、3筋で歩がぶつかり中盤戦の戦いが始まります。
先手は▲3五歩から仕掛けますが、押し引きのあるじりじりとした中盤戦となります。将棋ソフト「技巧」によると、互角~後手がやや指しやすいぐらいの局面が長く続いています。
中盤戦のポイントとなったのが、図3の62手目△5四歩の局面です。先手の佐藤天彦名人が▲5四同歩と取ったために、稲葉陽八段の△5五角の両取りを許してしまい、ここから後手が優勢になりました。
62手目△5四歩(図3)での将棋ソフト「技巧」の評価値は-143で、互角~後手がやや指しやすいぐらいです。しかし、63手目▲5四同歩の局面での評価値は-396で、後手がはっきりと優勢になっています。
図3での技巧の推奨手順は、▲2四歩△5五歩▲2三歩成の攻め合いです。
図3から少し進んだところで、今度は後手の稲葉陽八段が悪手を指してしまいました。図4の70手目△5六歩が問題で、以下▲5六同銀△4六角▲3七金△5七角成▲4七金△同馬で、せっかく作った馬を切ることになります。さらに、以下▲4七同銀△5七桂▲7九玉△4九桂成と進み、先手は金を取られますが、成桂がそっぽに行っています。
70手目△5六歩(図4)の手前では、将棋ソフト「技巧」の評価値は-528で、後手がはっきり優勢でした。しかし、80手目△4九桂成の局面では、評価値200ぐらいで先手がやや優勢となっています。
先手の佐藤天彦名人がやや優勢で終盤戦に突入です。既に、両者の持ち時間は残り1時間を切っています。
互いに残り時間が少ないこともあり、終盤戦では一手ごとに評価値の揺れ動きがあります。
先手がやや優勢ぐらいの局面が続きますが、終盤の評価値としては微差で、どちらに転んでもおかしくないという展開です。
将棋ソフト「技巧」の棋譜解析によると、97手目▲5六同飛が疑問手だったようです。
そして、後手の稲葉陽八段の優勢を決定づけたのが、ちょうど100手目の△6二桂(図5)の受けの好手です。▲7二角の飛銀両取りに対して、急所の銀の方を守っています。次の▲8一角成で飛車を取られた後に、▲7一馬が王手にならないのがポイントです。
図5での技巧の評価値は-417で、はっきり後手優勢となっています。
△6二桂以降は評価値もずっとマイナスで、後手の勝ち筋となっています。
将棋ソフト「技巧」の解析によると、図6での107手目▲6二桂成が敗着となっています。しかし、▲6二桂成が敗着というのはおそらく間違いで、将棋ソフトの精度の問題のようです。▲6二桂成の代わりに、技巧の推奨手の▲4一飛成としても、以下△3五玉と逃げれば後手が勝勢(評価値-1993)です。
図6から▲6二桂成は飛車を自陣に利かせた手ですが、以下△5九飛から後手の稲葉陽八段の勝ちとなりました。図7の投了図以降は、▲7七玉△7八金▲同玉△6八飛▲8九玉△8八金までの即詰みとなります。
名人戦第3局の本局は、中終盤で何度も形勢が入れ替わる熱戦だったと思います。終盤では稲葉陽八段の受けの好手もあり、最後は挑戦者が勝ち切っています。
これで名人戦七番勝負の星は、稲葉陽八段が2勝、佐藤天彦名人が1勝となり、稲葉陽八段が一歩リードしました。
次の第4局の日程は5月16~17日です。両者が再び熱い将棋を見せてくれることを期待しています。
<第75期名人戦七番勝負第3局 ▲佐藤天彦名人 vs △稲葉陽八段>(flash盤の棋譜)
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]]>The post 佐藤天彦名人はどのくらい将棋ソフトを使ってるの? 研究の中でソフトが占める割合は・・・ first appeared on じゅげむの将棋ブログ.
]]>今年の将棋界の大きなニュースとして、佐藤天彦名人の誕生は記憶に新しいところです。
名人位を奪取する前も、王座戦と棋王戦の挑戦など目覚ましい活躍が続いていました。
もう一つ、最近の将棋界で常にホットな話題となっているのが将棋ソフト関連です。
電王戦FINALから1年以上が過ぎた現在でも、最も刺激的な話題であり続けています。
今回の記事では、「佐藤天彦名人×将棋ソフト」をテーマにして考えたいと思います。
渡辺明竜王や羽生善治三冠にも登場していただきました。
話題の新書『不屈の棋士(大川慎太郎著、講談社現代新書、2016年)』の前書きによると、
佐藤天彦名人「研究の中でソフトが占める割合は3割くらい」
『不屈の棋士(大川慎太郎著、2016年)』
ん?
3割ってそれなりの割合ですね。
いやいや、「研究の中の」3割だからそんなに大したことないかも?
プロ棋士の主な勉強方法は、実戦、詰将棋、研究(棋譜並べなどを含む)の3つです。
ただし、プロ棋士同士の研究会で行われるVS(1対1の練習対局)などは、上の3つの中では「実戦」に入りますが、これを「研究」と呼ぶプロ棋士もいると思います。
佐藤天彦名人の言う「3割」が、将棋の勉強全体の中での3割なのか、狭い意味での「研究」の中での3割なのかは不明です。
仮に、狭い意味での研究の割合を5割とします(実戦、詰将棋を除いて)。最新流行形を頻繁に採用している佐藤天彦名人なので、研究の割合は低くはないでしょう。
すると、5割の3割なので、ソフト研究が占める割合は15%ということになります。
将棋の勉強全体の3割だった場合は、そのままなので30%です。
どちらかは不明ですが、佐藤天彦名人が将棋ソフトを使っている割合はおおよそ15~30%と予想できます。
15~30%という数字は多いのか? それとも少ないのか?
たとえば、1日7時間将棋の勉強をした場合、15%で1時間ぐらいになるので、15~30%は1日1~2時間ぐらいです。
じゅげむ自身は何らかのプロフェッショナルではないので実感はわかないのですが、たとえば、「1日7時間ぐらい練習に費やしているプロの音楽家が、1日1~2時間はコンスタントに時間をかける練習法」と考えてみたらどうでしょうか?
名人、けっこうソフト使ってるよ・・・
少なくとも、将棋の勉強全体の中で、ソフト研究が主要な一部分を占めているのは間違いないと言えます。
将棋ソフトで研究することは、やっぱり重要なんでしょうか?
しかし、渡辺明竜王は(勝敗については)ソフトの影響はあまりないと言っていますし、実際のところはどうなんでしょうか?
弱点を補うためにソフトを使うのが効果的というのがじゅげむの説です。
あくまでも、単なる仮説です。
出典:https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/
まず、逆にソフトで強化できる部分が自分の弱点ではない場合はどうか?
たとえば、渡辺明竜王は研究家でスペシャリストとして有名です。もともと序中盤の研究は将棋界トップクラスで、他のトップ棋士と比べても強みがある部分と言えるでしょう。
もちろん、渡辺明竜王は将棋ソフトの有無は関係なく超強い棋士です。さらに言えば、ソフトがない将棋界の環境の方が有利な棋士だと思います。
実は、以前の記事で引用した「現状ソフト研究が浸透していても、勝つ人は以前と変わっていません。」という渡辺明竜王のコメントには、
渡辺明竜王「・・・将棋連盟がソフトを配布するぐらいなら、いっそ禁止した方がいい気がします。これは大事なことですが、現状ソフト研究が浸透していても、勝つ人は以前と変わっていません。」
という前置きがあるんですね。
渡辺明竜王が「将棋ソフトは禁止になってもいい」と思っているのは間違いないです。このことから推察すると、渡辺明竜王は「ソフトがない環境の方が自分にとって有利」だとおそらく自覚しています。
そして、ソフトがない環境の方が竜王にとって有利な理由は、将棋ソフトで強化できる部分と渡辺明竜王の本来の強みが近いからだと思います。すなわち、ソフト研究の広がりによって、将棋界全体の序中盤の研究レベルが上がると、渡辺明竜王の本来の強みを生かしにくくなるというわけです。
それに加えて、もう一つ気になる点があります。
評価値という数値による形勢判断が将棋ソフトの特徴です。最近はソフトの影響で、点数で形勢判断をする棋士が増えているそうです。
しかし、渡辺明竜王はもともと(コンピュータ将棋の影響とは関係なく)、加点・減点方式に近いやり方で形勢判断をしていたようです。
僕は現役屈指の理論派ですから。たとえば桂得してプラス何点。その後にミスをしてマイナス何点というように差し引きしています。
すなわち、形勢を数値化するという手法は、渡辺明竜王にとっては何ら目新しい技術ではないということになります。既に、あの形は何点ぐらいで・・・という感覚が染みついているので、ソフトの形勢判断の手法から学べることは少ないでしょう。
さらに付け加えると、渡辺明竜王の長所の一つが無理気味の攻めをつなぐ技術です。この点についても、将棋ソフトから学びやすい部分と竜王の強みに似たところがあります。将棋ソフトに感化されて、攻めへの意識を高め、結果を出している他のプロ棋士はいます。しかし、渡辺明竜王はもともとその部分を大きな強みの一つとして勝負してきた棋士なので、やはり将棋ソフトから学べることは相対的に少ないと思います。
一方で、佐藤天彦名人は、(渡辺明竜王と比べると)研究家やスペシャリストとしてのイメージが薄いです。あくまでも、渡辺明竜王と比較すると・・・という話です。竜王の場合は「徹底したデータ調査」「(ぬいぐるみなどの)収集癖」「好き嫌いの激しさ」「理論化への志向」など、研究家やスペシャリストになりやすい性質がこれでもかというぐらいに重なっている感じです。それに比べると、佐藤天彦名人のスペシャリスト的な性質はやや弱そうです。
もちろん、佐藤天彦名人が「横歩取り」を得意としていることは有名です。ものすごく研究しているでしょうし、結果を出しているので、横歩取りのスペシャリストと言ってもいいと思います。しかし、忘れてはならないのは、横歩取りを外された時でも佐藤天彦名人は非常に強いということです。佐藤天彦名人の本来の強みが、おそらく別のところにあるからです。
それでは、佐藤天彦名人の本来の強み(それも、トップ棋士の中でも際立つような強み)というのは、どのような点にあるのでしょうか?
この問いに対するヒントとして、渡辺明竜王の次のコメントを引用します。
彼の(佐藤天彦名人の)形勢判断は、棋士の平均よりも互角の範囲が広いんだと思います。
『将棋世界2015年11月号、p.24』
これが本当だとすると、佐藤天彦名人の大きな特徴です。また、名人の将棋観がよく現れていると思います。しかし、形勢判断が細かくなくて大らか(悪く言えば大雑把)であることは、強みというよりもむしろ大きな弱点にはならないのでしょうか?
ところで、中原誠十六世名人が楽観派であったことは有名です。楽観的であることも、「形勢判断における大らかさ」と捉えることができます。高いレベルの将棋では、わずかな優勢を得るために激しく競り合いますので、形勢判断の大らかさはやはり将棋の弱さに結びつくと考えてしまいそうです。しかし、ご存じのように、中原誠十六世名人は一時代を築いた将棋界の歴史の中でも指折りの大棋士です。
面白いのは、「形勢判断を細かくすることが必ずしも有利には働かない」という可能性があることです。それどころか、中原誠十六世名人や佐藤天彦名人の例を考えると、「形勢判断の大らかさが強みにすらなり得る」ことが示唆されます。
「形勢判断の大らかさが強みにすらなり得る」・・・これは一体どういうことなのでしょうか?
3つの観点から考えたいと思います。
1つ目は、中終盤の強さです。中終盤が同世代の奨励会員や他のプロ棋士と比べて強ければ、微差で悪いぐらいの局面から逆転勝ちすることが多くなります。そうすると、勝利の経験という実感を伴って、「このくらいはいい勝負」と判断される形勢の幅が広くなるのは自然です。中原誠十六世名人も佐藤天彦名人も中終盤の強さは共通しています。
しかし、この場合は「中終盤の強さ」が本質的な強みであって、「形勢判断が大らか」なことが有利な要素になり得ることの説明にはならないです。「中終盤が強く」かつ「形勢判断が細かい」であってもよいからです。
2つ目は、(「形勢判断」と対比して)「読み」の重視です。
まず、「読み」の力が強ければ、中終盤の強さにつながるのは当たり前です。この点で、1つ目の観点と2つ目の観点には重なる部分があります。
しかし、「形勢判断の精度」と「読みの深さ」には相反する部分もあります。
読みの打ち切りの判断は、打ち切る局面の形勢判断に左右されます。形勢判断が細かくなることで、読みの打ち切りが早くなり、読みの深さに影響が出る可能性があります。
また、それ以前の問題として「有力そうな手から読む」という時点で既に、無意識に形勢判断の要素が含まれています。形勢判断を厳しくすることで、読みの幅を狭くしていることは十分に考えられます。
深い読みに定評のある棋士として有名な佐藤康光九段の言葉から引用します。
私は対局中には「いま自分が有利か不利か」という形勢判断はあまり意識しないようにしている。
衝撃的な内容です。これを読んだ時には非常に驚きました。「形勢判断は極めて重要で、決して軽視してはならない」という先入観があったからです。
この本では、「読みの深さ」と「形勢判断の精度」がトレードオフになるような状況についても書かれています。だからこそ、佐藤康光九段は意識的に形勢判断を少なくしています。
「形勢判断が大らかな方が深く読める」のであれば、強みとして立派に成立しています。
3つ目は、形勢判断の評価軸の多様性です。
同じ互角でも、様々な互角があります。また、評価軸を増やせば増やすほど優劣の決定は難しくなります。
将棋の局面には単純な優劣だけではなく、「選択肢の広さ」「主導権の有無」「指し手の難しさ」「勝ちやすさ」「直感的に浮かびづらい手順かどうか」などの様々な要素があります。同じ局面でも、多様な視点から眺めることができます。
「互角の幅の広さ(あるいは形勢判断の大らかさ)」が「多様な視点を持つ」ことを意味するなら、それは単に大雑把という話ではなくなります。「多様な視点を持つことは強みである」という考え方も生まれます。
ご存じのように、中原誠十六世名人は「自然流」の異名を持つように、非常にバランスの取れた大局観の持ち主として有名です。
これは、2つ目の「読みの重視」とも関連しており、評価軸の多様性と読みの幅広さはリンクしています。なぜなら、「読み」と「形勢判断」は別々に切り離せないからです。
「佐藤天彦名人の本来の強みは何か?」という話の本筋に戻ります。
渡辺明竜王とは異なり、「序中盤の研究レベルの高さ」が佐藤天彦名人の本来の強みとは思えません。それよりはむしろ、佐藤天彦名人はもともと別の強みを持っていたので、その強みに「序中盤の研究レベルの高さ」が加わることによって飛躍した、と考えた方が納得できます。
本人の言葉を調べてみると、やはり序中盤は昔からの強みではなく、むしろ苦手意識を持っていたことが分かります。
昔はもっと終盤偏重型でした。序盤中盤が雑で、ほぼ終盤力に頼ったような指し方でした。奨励会三段までは序盤の勉強の仕方さえもよく分からないみたいなところもあって(笑)。
『将棋世界2015年10月号、王座戦挑戦者インタビューより』
佐藤天彦名人の強みについて、他のプロ棋士はどのような見方をしているのでしょうか?
阿久津主税八段「天彦君は差を広げられずについていく技術がずば抜けている。・・・相当苦しいと思うけど、天彦君の中では頑張れるレベルなんでしょうね。懐が深くて、中原名人みたいな大局観だ。」
『A級順位戦総括 & 名人戦展望対談(将棋世界2016年5月号)』
村山慈明七段「以前からですが、天彦は自分の将棋に相当自信を持っています。悪手を指した感触のないような多少の不利なら、終盤の粘りと逆転術で勝つことができると見ているのではないでしょうか。」
『将棋世界2015年11月号、p.24』
戸辺誠七段「以前の天彦さんは、腕力はあったけど序盤だけは苦労していた。順位戦でもよくベテランの先生のうまさにやられていた。そこが改善されたのだと思います。」
『将棋世界2016年4月号、p.28』
このように、他のプロ棋士の目線でも、中終盤の評価の方が高いことが分かります。
特に、佐藤天彦名人の中終盤の粘りや逆転術には定評があり、『佐藤天彦の積み重ねの逆転術(将棋世界2016年3月号)』という講座になっているぐらいです。この講座では、形勢が悪い局面での様々な考え方のパターンについて解説されているのですが、最後にとても印象的な一文があります。
将棋というゲームは勝ち負けを争うのが前提ですが、いろいろな要素や価値観があります。優勢のときにうまい勝ち方をするとか、互角のときに豪腕で乗り切るとか。それと同じで、悪いときにどう耐えるか、しのぐかも将棋の醍醐味のひとつなのです。そう思えれば、非常に苦しい局面でも興味をもって考えられるでしょう。僕も実際、そういう気持ちで悪い局面を指しています。
『佐藤天彦の積み重ねの逆転術(将棋世界2016年3月号)』
逆転勝ちが得意な棋士の中でも、致命傷を避けるのが得意なタイプ、開き直って悪い局面を面白がるタイプ、不屈の精神力を持っているタイプ、逆転の雰囲気を作るのが上手いタイプなど、その特徴は様々だと思います。
佐藤天彦名人はどのようなタイプに見えるでしょうか?
いずれにしろ、佐藤天彦名人が昔から得意だったのは中終盤の方で、特に逆転術に強みがあるというのが事実のようです。
ところで、悪い将棋をどのように逆転したらいいのか、将棋ソフトの読み筋や評価値は教えてくれるのでしょうか?
ある程度は教えてくれるでしょうが、将棋ソフトの一番の強みは逆転術ではないと思います。
その1つ目の理由は、評価関数が逆転術のためには最適化されていないからです。
将棋ソフト同士の対局では、「評価値が500を超えるとまず逆転しない」というような基準があるようです。そうすると、将棋ソフトにとって最も重要なのは、評価値で500以上の差をつけられないことになります。このことから、将棋ソフトは評価値500以内の領域における形勢判断の精度が高くなるように評価関数が最適化されていると予想できます。
しかし、「将棋の逆転術」という言葉を使うときに、普通はもっと形勢が離れた局面からの逆転を意味することが多いと思います。
2つ目の理由は、評価値という唯一の判断軸を設定しているからです。
評価関数自体は無数の判断要素が含まれている複雑なブラックボックスです。しかし、評価値という数字に落とし込む時点で、判断軸の多様性は失われます。
たとえば、評価値がほぼ同じで、具体的な指し手が非常に難しい局面と、指し手が分かりやすい局面の2つがあるとします。このような場合、指し手の難しさに関係なく、評価値がたった1点でも有利な方をソフトは選ぶでしょう。将棋ソフトは、「手順の難解さ」「勝ちやすさ」などの価値観を持っていません。
これらの2点から、将棋ソフトの一番の強みは逆転術にはないと予想できます。それに伴い、将棋の勉強法や研究法としても、将棋ソフトで一番強化しやすいのは逆転術の部分ではないと考えられます。
佐藤天彦名人の強みは、中終盤での粘りや逆転術にあります。また、その強みは価値観や評価軸の多様性に基づいている可能性があります。一方で、形勢判断における将棋ソフトの強みは評価値500以内の領域にありますし、逆転に必要な視点の一部は明らかに抜け落ちています。したがって、佐藤天彦名人の本来の強みと、将棋ソフトで最も強化できる部分は一致していないと考えることができます。
このことから、佐藤天彦名人の相対的な弱みの部分を、将棋ソフトでの研究が上手く補っている可能性が十分に考えられます。
出典:https://kifulog.shogi.or.jp/ouza/63_05/
コンピュータが将棋界に大きな影響を与えたのは、将棋ソフトが初めてというわけではなく、実は昔にも「棋譜データベースの整備」という大変革がありました。
棋譜データベースの存在によって、序盤定跡の精密化、「新手一生」から「新手一局」の時代へ、勝率イメージによる戦型選択、など将棋界の環境ががらっと変わることになります。
この辺りのことは、「新しいテクノロジーの影響」という括りで別の記事でも書いています。
棋譜データベースが整備されたのは、羽生善治三冠が20歳ぐらいの頃なので、羽生世代の活躍と密接に関わっていると思います。
そして、羽生世代で最も大きな成功をおさめたのがもちろん羽生善治三冠なので、棋譜データベースの恩恵を最も受けた一人であると言えます。羽生三冠は棋譜データベースがあろうがなかろうが最強の棋士だったと思いますが、棋譜データベースの出現が当時の将棋界において大きな環境要素になったのは間違いないです。
羽生善治三冠は、過去の寄稿やインタビューを集めた『羽生善治 闘う頭脳(2015年、文春ムック)』という本の中で、「覚える」と「発想する」のスイッチを切り替えるという表現を用いています。
「覚える(記憶)」と「発想する」は両方とも必要で、車の両輪のように働かせるのが肝要というのがその趣旨です。
しかし、個人の才能が「記憶」の方に偏っている場合もあるし、「発想」の方に偏っている場合もあると思います。もう片方が相対的に弱点になるというわけです。
じゅげむの個人的な意見ですが、羽生善治三冠の本来の強みは、どちらかというと「発想」の方にあると思っています。
私はプロになるまで、いわゆるデータについては、まったく勉強や研究をしていませんでした。すべての手を、実戦の場でとにかく一から考えていたのです。それでほとんどの対局において序盤でリードを許してしまい、中盤と終盤で何とかもがいて接戦にしていたという状態でした。プロになって序盤の勉強をはじめ、一年ぐらい経ったときに、やっと考えることと知識がかみ合い始めました。車の車輪が両方とも動いたという気がしたのです。
このように、もともと羽生善治三冠はデータに頼らずに自分の頭で考えるタイプです。
記憶力というものは、「覚える能力」だけではなく、「自分で発想した新しい手順と、データとして覚えている既知の手順のどちらを選びたがるか」というような性格的な傾向も含まれています。
羽生善治三冠が新しいチャレンジを好む性格であることはご存じだと思います。この点でも、どちらかというと「記憶」よりは「発想」の方がやや優位ではないかと考えられます。
渡辺明竜王と比べると分かりやすいのですが、竜王の方がわりと保守的で確実性を求めます。
何か新しい発想を思いついても、しっかりと研究して覚えてから実戦に投入するパターンが基本のようです。すなわち、渡辺明竜王の将棋の基本として、「発想」よりは「記憶」に重きを置いた戦略があります。
逆に考えると、羽生善治三冠の将棋はやはり「記憶」を最大限に生かすようなスタイルではないと思います。渡辺明竜王のようなタイプと比較すると、「記憶」の部分は相対的な弱みになっているはずです。実際に羽生善治三冠は、データが重要となる最新流行形よりも、タイトル戦番勝負のカド番でよく見せるようなやや力戦調の将棋の方がよく勝っている印象です。
このように、「記憶」あるいは「データの勉強や研究」は、羽生善治三冠にとって一番の強みではない部分になります。
羽生善治三冠の相対的な弱みが、氏の言葉通りに「データの勉強や研究」であったとすると、棋譜データベースはその弱点を補うのにぴったりのテクノロジーだった可能性があります。
あくまでも、最高峰のレベルでの相対的な弱みですよ? 羽生善治三冠の記憶力が弱点と言っているわけではないです。
羽生善治三冠にとって、自分の頭で考えて新しい「発想」を産み出すことが、利き手の右手を使うようなものだとします。そうすると逆に、「記憶」あるいはデータの勉強や研究は、利き手とは反対側の左手を使うことに対応します。そして、どうやら将棋というゲームは、右手も左手も器用に使えることが重要のようです。さらに言うと、右手と左手を同時(?)あるいは交互に使うことによって素晴らしい絵が描けるらしい・・・。
最後に、将棋ソフトと棋譜データベースを「新しいテクノロジー」という括りでまとめて、共通する課題について書いて締めくくります。
新しいテクノロジーが生まれると競争環境が変化します。激変する場合もあります。そして、まず大事なのが「その変化が自分にとって有利に働くか不利に働くか」の判断です。
また、どのように有利にできるかが鍵となります。
一つの考え方として、「自分の弱点を補うためにテクノロジーを活用する」という方法は有力だと思います。
そのためにはまず、自分がどのようなタイプかを把握することが必要です。
持って生まれた才能は変えることができないし、また、やみくもな努力も効率が悪い。自分の特徴に気づき、適切な努力をすることこそが、これまでの自分を変えるための最良の方法なのではないだろうか。
『覆す力(森内俊之著、2014年)』の前書きより
森内俊之九段は自著の中でこのように述べています。そして、同じ本の中で、自分がどういうタイプの棋士なのかを理解するために「島研」での経験が役に立ったと書かれています。島明九段、佐藤康光九段、羽生善治三冠の3人と比べることで、自分の本来の強みと相対的な弱みへの理解が深まったというわけです。
不幸にもどうやら環境変化が自分にとって不利に働きそうだったら?
環境変化に対する人間の行動は、①環境への適応、②新天地の開拓、③現在のスタイルを固持、の3つのパターンに分かれます。
新天地の開拓は有力です。渡辺明竜王の阪田流向かい飛車などはその模索だと思います。
もし新天地を切り開けないならダメージコントロールをするしかないです。不利になることは承知で、それが致命的にならないように。気分的にはつらいですが、不利を認めてのダメージコントロールも立派な対応策です。
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]]>渡辺明竜王が阪田流向かい飛車を指していた・・・
竜王の阪田流向かい飛車を見たのはもちろん初めてです。というか、阪田流向かい飛車自体が現在のプロ棋戦ではほとんど指されていないはずで、少なくとも最近の記憶にはありません。
戦法の存在自体を忘れているわけではないのですが、何しろ最近の棋譜がないので、将棋戦法大事典(振り飛車編)でも棋譜がなくて困っていました。そんな戦法です。
まず、阪田流向かい飛車がどういう戦法かというと、
図1では普通、△8八角成▲同銀△2二銀の一手損角換わりが普通ですが、阪田流向かい飛車では△3三角▲同角成△同金(図2)とするのが序盤のポイントです。
普通、3三の地点に金がいる形は悪形です。金がうわずっていますし、桂馬の当たりになりやすいからです。
しかし、阪田流向かい飛車では気にせずに△3三同金。そして、△2二飛と回ったところが阪田流向かい飛車の基本図です。(図3)
古い戦法ですが、定跡化されているはずで、昔の将棋世界の付録で阪田流向かい飛車をテーマにしたものを読んだ記憶があります。
それにしても、いきなり阪田流向かい飛車を指された佐藤天彦名人は驚いたでしょうね。
図3から少し進みますが、9筋の端歩も受けずに、早くも△2四歩から仕掛けます(図4)。飛車先の逆襲が阪田流向かい飛車の狙い筋です。
少し進んでそっぽの△1四金(図5)。次に△2六歩と伸ばすのが狙いですが、こんなそっぽに金が行って大丈夫なのでしょうか?
もしかすると、定跡化された一手なのかもしれませんが。
先手が▲2七歩と受けたので2筋は収まります。図6は、後手が△6三銀と上がった手に対して、先手が▲7八金と上がった局面です。
先手は銀冠の堅陣で端の位も取っている。それに対して、後手は薄そうな形で端も詰められています。1四の金は相変わらず端っこにいます。後手は角を手持ちにしているのと、2筋を圧迫しているのが主張です。
図6で、△6三銀から木村美濃への組み替えだと思っていたら、次の一手は△7二金ではなく△7二玉(図7)。そして、次の△5二金で右玉のような囲いになります。
木村美濃にしても、端が詰められていて狭いし、先手玉に堅さ比べで勝つのは不可能です。それなら、玉の広さで対抗しようというのが△7二玉からの構想でしょう。
さらに進んで、図8の△6三玉。入玉を狙っていそうな後手玉です。
この局面を見て、後手が渡辺明竜王だとわかる人はあまりいないのではないでしょうか。
むしろ、銀冠穴熊で玉が堅い先手の方を、渡辺竜王が持っていると勘違いしそうです。たとえば、▲渡辺vs△糸谷戦と言われた方がしっくりきます。
ここからさらに局面を進めて、図9の△4五玉のところでは完全に入玉コースです。
以下、しばらくして先手の佐藤天彦名人が投了に追い込まれています。
どうして渡辺明竜王は阪田流向かい飛車を指そうと思ったのでしょうか?
そのヒントの一つが、将棋世界2016年7~8月号に掲載された『中原誠十六世名人×渡辺明竜王:スペシャル対談』にあると思います。
この対談はかなり面白くて、中原誠十六世名人と渡辺明竜王が、中原時代の昔の将棋をテーマにしながら、現代将棋が忘れたものは何かと問いかけています。ちなみに、本局のような入玉戦も一つの話題になっています。
渡辺明竜王は中原将棋をよく並べているらしいです。
もちろん中原誠十六世名人は、一時代を築いたタイトル通算64期の大名人なので、「中原将棋を並べていない方がむしろおかしい」というのが普通の感覚でしょう。
ただし、渡辺明竜王の場合は、単に大名人の棋譜だから並べているというわけではなく、かなり明確なビジョンを持って中原将棋の研究をしているようです。
その辺りは、『渡辺明の思考(2014年)』に詳しく書かれています。
羽生さんの将棋は、さきほども名前を出させていただきましたが、中原先生の「自然流」に近いと思っています。・・・中原先生や羽生さんは、将棋においては達観しているところがあるのか、強い個性やこだわりが少ない。だから自然な指し手が多くなるんだと思います。・・・羽生さんに勝つために、過去のどういった人の将棋をお手本にしようかと考えます。(中原将棋は今でも参考に)なります。大いに参考になります。欲をいえば、中原先生の全盛期と羽生さんの全盛期の将棋が50局ぐらいあればいいのにと思います。
『渡辺明の思考(2014年、渡辺明著)』
要するに、羽生対策が大きな理由の一つのようです。そのために、中原将棋を熱心に研究していて、昔の将棋に触れる機会も多いというわけです。
そしてもう一つ、
多くの戦型で、終盤の入り口まで研究が進んでいます。すると、棋士もそのデータで戦わざるを得ないんです。いまはコンピュータの研究は誰でもできてしまうから、余計に終盤の入り口まで同じに進みやすい。それは僕も危惧しています。・・・みんな、どこまでコンピュータで調べられているのか、探りながら指していて、その息苦しさを感じています。
渡辺明竜王(将棋世界2016年8月号のスペシャル対談より)
このような問題意識を抱えているようです。
これに対する渡辺竜王の答えの一つが、コンピュータ将棋の影響を色濃く受けている流行最先端の将棋ではなく「昔の将棋を指す」ことだと思います。さらに言えば、玉の堅さを重視する現代的な将棋ではない、阪田流向かい飛車のように玉が薄い将棋や、入玉模様になりやすい将棋にも注目しているということでしょう。
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